8月11日、Los Angeles Timesが「Google's AI safety team tells job seekers: don't trust its hiring filters」と題した記事を公開した。同記事はBloombergの報道を引用・参照しており、GoogleのAI安全性チームが自社のAI採用フィルターを信頼せず、応募者に専用フォームへの記入を促していた内部文書の存在を伝えている。なお、同文書はBloombergが入手したものであり、LA Times記事はその報道を踏まえた形で書かれている。
「AIが優秀な応募者を弾くかもしれない」──内部文書が示した自己矛盾
Google DeepMindのAGI(Artificial General Intelligence=汎用人工知能)安全性・アライメントチーム(AGI Safety and Alignment Team)が、採用応募者に対して自社のAI採用フィルターを迂回するよう促していた。Bloombergが入手したこの内部文書にはその旨が明記されており、冒頭には「このドキュメントを広く共有しないでください」との注意書きまで添えられていた。
問題の文書にはこう書かれている。
「私たちの採用システムには、あなたのCVが誤って弾かれるか、届くまでに時間がかかりすぎる、無視できない確率が存在します。このフォームに記入することで、チームの実際の人間があなたの応募を確実に確認できるようになります。」
同チームはGoogleが開発するAIの安全性リスクを研究する部門だ。そのチーム自身が「自社AIは採用の現場では信頼できない」と認めていた格好である。
Googleの公式見解との齟齬
LA Times記事がBloombergの報道として伝えるところによると、Google DeepMindの広報担当者はBloombergの取材に対し、「自社システムが応募者を誤って除外することはない」と否定した。そのうえで、「このチームはリクルーター審査を飛ばして履歴書をチームメンバーに直接届けるための特別フォームを設けたに過ぎない。ただし採用に近道はない」と説明している。
一方、Googleの企業向け部門であるWorkspaceチームは、Google Driveなどの製品とあわせて、AI機能を「求人票の草稿作成、履歴書評価、採用ニーズの予測によりHRの時間を節約する」手段として法人顧客に売り込んでいる。AIで採用を効率化すると謳いながら、その開発元の研究者たちが同じAIを信頼していないという構図だ。
AI採用フィルターへの批判は業界全体に広がっている
AI採用システムへの懸念はGoogle固有の問題ではない。近年、採用プロセスへのAI導入は人事コスト削減や選考スピード向上を目的に多くの企業で急速に普及してきた。しかし、その拡大と並行して、バイアスや不透明な選別ロジックへの批判も高まりつつある。
- OpenAIのChatGPTを採用評価に用いた場合、応募者の名前に基づいた潜在的なバイアスが生じる可能性をBloombergの調査が指摘している。
- 企業向け人事管理ソフトを手掛けるWorkdayは、自社のAI採用システムが人種・年齢・障害を理由に応募者を選別しているとして訴訟を抱えている。Workdayは「採用判断は人間が行う」と否定している。
米国では雇用機会均等委員会(EEOC)がAI採用ツールの差別的利用に関するガイダンスを発行しており、規制当局の関心も高まっている。今回のGoogle内部文書の件は、AI採用ツールへの不信がエンドユーザーである一般企業だけでなく、AI開発の最前線にいる研究者の間にも根付いていることを改めて示した点で、業界全体への問いかけとなっている。
「LLMの回答はどれも似たり寄ったり」──AIで書いた応募書類も敬遠
もう一つ注目すべき点がある。同チームの専用フォームには応募者向けの注意書きが含まれており、AIを使わずに記入するよう促している。
「実際の人間がこれを読みます。LLM(大規模言語モデル)が生成した回答はどれも同じに聞こえるため、読む人間は非常に疲弊します。」
採用側がAIフィルターへの不信を表明しながら、応募者側のAI活用も牽制する。AI採用の現場が抱える矛盾が凝縮されたメッセージだ。採用する側もされる側も、AIをどこまで信用するかという問いに向き合わされている。
詳細はGoogle's AI safety team tells job seekers: don't trust its hiring filtersを参照していただきたい。




