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Deep Dive

「AIで人を切っても生産性は上がらなかった」— 5年・数百万件のデータが示す、人員削減頼みのAI戦略の誤算

8月13日、Dataconomyが「Study finds AI-driven layoffs are failing to deliver productivity gains」と題した記事を公開した。AIを理由にした人員削減が期待された生産性向上を実現できていないという大規模調査の結果を詳しく紹介している。

8月13日、Dataconomyが「Study finds AI-driven layoffs are failing to deliver productivity gains」と題した記事を公開した。AIを理由にした人員削減が期待された生産性向上を実現できていないという大規模調査の結果を詳しく紹介している。


「AI投資=人員削減」の方程式が裏目に

全米経済研究所(NBER)が公開した研究(※査読前のワーキングペーパーであり、今後内容が修正される可能性がある点に留意されたい)は、米国の上場企業を対象に5年間にわたってGlassdoorの求人レビュー数百万件、企業財務報告書数千件、AI投資およびレイオフ発表数百件を分析した大規模なものだ。

結果は経営層にとって耳の痛い内容だ。AIへの投資を多く発表した企業ほど、AI関連の人員削減も多く実施していた。そして、残った従業員の間に広がった「次は自分かもしれない」という不安が反AI感情を生み出し、それが企業の生産性低下と相関していた

アトランタ連邦準備銀行の調査によれば、経営幹部の約90%が「AIはまだ自社の生産性を改善していない」と回答している。研究チームは「AIのメリットを引き出す上で、管理職の楽観論よりも従業員のセンチメントの方が重要な役割を果たす」と結論づけた。


株式市場も冷ややか、投資家も懐疑的

研究チームがAI関連のレイオフ発表に対する株式市場の反応を調べたところ、平均リターンはほぼゼロだった。「AIでコストを削減して競争力を高める」という戦略を、市場は評価していない。

この結果が示すのは、投資家もまた「AI+人員削減=コスト効率の改善」という図式を額面通りに受け取っていないということだ。短期的なコスト圧縮の効果を期待して株価が上昇するどころか、市場は冷静にリスクを織り込んでいる。人材の喪失がもたらすナレッジの流出、組織文化の毀損、再採用コストといった中長期的なマイナス要因を、機関投資家は既に評価に反映させている可能性がある。


「削減したコストの1.5〜2倍」が再採用にかかる

問題はモラルの低下にとどまらない。人員を削減した企業は、その後の再採用に苦労している。

Layoffs.fyiのデータによると、2025年に約12万2,000人のテック系従業員が解雇され、2026年にはさらに12万6,000人が削減された。しかし人材企業Robert Halfの調査では、AI対応のために人員を削減した企業の約29%が、同じポジションを再公募している。その際の給与は削減前より20〜35%高い水準だという。

PEファーム Claymore Partners創業者のLee McCabe氏はInformationWeekにこう語っている。

「削減したポジションを再構築するには、典型的に『節約した』給与の1.5倍から2倍のコストがかかる。そして戻ってきた従業員は、あなたの会社がどれだけの忠誠心を持っているかを正確に知っている」

Software FinderのCHROであるAli Gohar氏も同様の指摘をする。

「労働力は得られるが、ロイヤルティは得られない」

2026年7月にはCNBCが、Ford、IBM、オーストラリア連邦銀行(Commonwealth Bank of Australia)がAI関連のレイオフを実施した後、人的資本の再重視へと方針を転換していると報じた


エンジニアにとっての示唆

この研究が突きつけているのは、「AIツールの導入=人員削減で生産性向上」という単純な図式の危うさだ。AIが実際に機能するためには、使う側の人間がそのツールに前向きに取り組む必要がある。解雇への恐怖が蔓延した職場では、その前提が崩れる。

エンジニアの立場から見れば、この研究はAI導入の進め方そのものへの問いかけでもある。組織がAIツールを展開する際、従業員がそのツールを「脅威」ではなく「武器」として捉えられるかどうかが、導入効果を左右する。AI活用の議論をチーム内で積極的にオープンにすること、役割の変化を透明に示すこと——こうした心理的安全性の確保が、技術的な導入と同等かそれ以上に重要だと、この研究は示唆している。

「AIに仕事を奪われる」という不安は、AI活用を阻害する最大の摩擦の一つになり得る——この研究はそれをデータで示した形だ。技術の選定や実装と並んで、組織がその変化をどう伝え、どう人を巻き込むかが、今後のエンジニアリング組織の競争力を左右する問いになりつつある。

詳細はStudy finds AI-driven layoffs are failing to deliver productivity gainsを参照していただきたい。