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Deep Dive

生物医学論文の90%にAI執筆の痕跡 — 「アブストのみ分析で13.5%」だった推計が、全文解析で激変した理由

8月20日、Natureが「Staggering 90% of biomedical papers now show signs of AI help」と題した記事を公開した。2025年12月時点の生物医学論文の**約90%**にAI(LLM)による執筆支援の痕跡が検出されたとする研究を詳報しており、従来の推計値を大幅に上回るその数字が学術界に波紋を広げている。

8月20日、Natureが「Staggering 90% of biomedical papers now show signs of AI help」と題した記事を公開した。2025年12月時点の生物医学論文の**約90%**にAI(LLM)による執筆支援の痕跡が検出されたとする研究を詳報しており、従来の推計値を大幅に上回るその数字が学術界に波紋を広げている。


従来推計の数倍——90%という数字の衝撃

2025年8月12日にarXivでプレプリント公開された同研究によると、2025年12月にPubMed Centralに収録された生物医学論文のうち、約90%にLLMによる執筆支援の痕跡が確認されたという。査読は未完了だが、その数字は業界の常識を大きく覆す水準だ。

同研究によると、2025年通年のPubMed Central収録論文(英語のみ対象)では**77%、2024年論文では52%**にLLM利用の痕跡が見られるという。

比較のために従来の推計値を並べると、その差は一目瞭然だ。

対象・手法 推計値
本研究(2025年12月、本文全体) 90%
本研究(2025年通年) 77%
本研究(2024年通年) 52%
同著者らの先行研究(2024年、アブストラクトのみ) 13.5%
他研究(2025年、複数学術分野) 57%

先行研究では、同じ著者らがPubMedのアブストラクトのみを分析して2024年の利用率を**13.5%**と推計していた。今回は論文全文を対象に、より感度の高い手法を適用したことで数字が跳ね上がった。共著者でベルギー・ゲント大学のコンピュータ科学者Dmitry Kobak氏は、当初この数字を見て「何か計算を間違えたと確信していた」と述べており、複数回の検証を経て初めてデータの正確性を認めたという。

なお、2025年に行われた研究者向け調査では71%がAIを執筆支援に使っていると回答しており、著者らは「実際の利用率はアンケートで報告されるより高い」と指摘する。


検出手法——「LLMが好む語彙」の頻度分析

本研究が採用した手法は、LLMが頻繁に用いる単語の出現頻度を論文テキスト中で解析するものだ。先行研究と同系統のアプローチながら、今回は「下限値の推定」ではなく「直接的な利用率の推定」を行う手法を採用した。この変更により、2024年アブストラクトの推計値は13.5%から**31%**に上昇している。


懸念点——どのセクションでAIが使われているか

論文中でAI利用が多いセクションと少ないセクションには、はっきりとした差がある。

  • ディスカッション(考察):2025年12月の論文で推定**78%**にAIの痕跡
  • イントロダクション(序論):同程度の高い割合
  • リザルト(結果):推定58%
  • メソッド(手法):AIの利用痕跡は相対的に少ない

Kobak氏が特に問題視するのはリザルトセクションへのAI適用だ。LLMにはデータの捏造(ハルシネーション)を起こす傾向があるため、結果の記述にAIが関与することはリスクが高い。

さらに、イントロダクションへのAI適用については別の懸念を示す。「LLMが持つバイアスが、そのまま文献全体に浸透してしまう」とKobak氏は述べており、特定分野の支配的な考え方がAIによって歪められる可能性を指摘している。


学術界の対応——開示ポリシーと議論の広がり

こうした実態を受け、主要学術誌はAI利用に関する開示ポリシーの整備を急いでいる。NatureScienceはすでにAI利用の開示を著者に求める方針を公表しており、Cell Pressも同様の対応を取っている。一方で、「何をもってAI利用とみなすか」の基準は各誌によって異なっており、統一的な定義や検証手段の確立は業界全体の課題として残っている。

また、AI生成テキストの検出手法自体の信頼性についても研究者間で議論が続いている。今回採用された語彙頻度分析は統計的根拠を持つものの、AIを使わずに執筆された論文を誤検出するリスクや、逆にAIを用いた論文を見逃すリスクについても慎重な評価が求められる。


研究者の反応——「チューブから出た歯磨き粉は戻らない」

カナダ・トロント大学の社会科学者Kyle Siler氏(前述の57%推計を行った研究の著者)は、今回の数字の高さには留保を示しつつも、傾向そのものは認める。「LLMはすでに定着しており、チューブから出た歯磨き粉は元に戻らない」とコメントした。

また複数の研究者が、今回の推計が生物医学分野・英語論文に限定されており、学術文献全体を代表するものではない点も指摘している。より広い範囲での実態把握にはさらなる分析が必要だという立場だ。


詳細はStaggering 90% of biomedical papers now show signs of AI helpを参照していただきたい。