8月29日、RuntimeWireが「OpenAI built a hidden task system for ChatGPT inside Excel and PowerPoint files」と題した記事を公開した。OpenAIがChatGPTデスクトップクライアントに実装したとみられる未公開機能——ユーザーの身元情報やローカルパスを含む可能性があるデータがどこに渡り、どう保持されるかが不明なまま動作する——がリバースエンジニアリングによって発見されたというものだ。RuntimeWireはOpenAIに確認を求めているが、記事執筆時点で返答は得られていない。なお、RuntimeWireは独立系の技術メディアであり、同社の調査報告を一次情報として参照する際はその点を念頭に置くとよい。
未解決のプライバシー・コンプライアンス問題
この実装が最初に問われるべき問題は、プライバシーとコンプライアンスへの影響だ。
ネイティブOfficeコメントとして書き込まれた情報には、サインイン中のユーザーのメールアドレスを含む身元情報が埋め込まれる。ファイルを受け取った相手にどの情報が見えるのかは明示されていない。
ChatGPT専用スレッドにはローカルのアーティファクトパス、スレッドID、対象メタデータ、ワークスペースコンテキストが含まれる可能性があるが、クライアントコードからはこれらの保持期間、管理者による無効化の可否、企業コンプライアンス記録への反映方法が判断できない。OpenAIの公開ドキュメントには、EnterpriseおよびEdu管理者向けにコンプライアンスシステムを通じた一部のアクティビティへのアクセスが言及されているが、Artifact commentsがその対象に含まれるかは不明だ。
アプリパッケージの解析で判明した未公開機能
RuntimeWireがWindowsパッケージ OpenAI.Codex_26.825.4187.0(内部バージョン 26.825.32147)を解析したところ、「Artifact comments」と名付けられた未公開のレビューシステムが存在することが判明した。この機能はフィーチャーゲート(機能の段階的ロールアウトを制御する仕組み)によって制御されており、一般公開はされていない。同バージョン以前のアーカイブされたビルド(内部バージョン 26.820.71523 まで)には存在しなかったことも確認されている。
「Artifact comments」の仕組み:2つのコメント層
この機能の核心は、技術的に異なる2種類のコメントシステムを1つのサイドバーに統合している点にある。
①ネイティブOfficeコメント
通常のOfficeコメントとして .xlsx や .pptx ファイルに書き込まれる。作成者、タイムスタンプ、返信、解決状態などを持ち、ExcelではセルレンジをA1記法(例:Sheet1!A1:B2)で、PowerPointではスライド・シェイプ・アンカーポイントを参照できる。エクスポートしたファイルに埋め込まれるため、ファイルを受け取った相手にも見える。
②ChatGPT専用のプライベートスレッド
コンポーザー(入力欄)には「Ask ChatGPT for a change」と表示される。こちらはChatGPTへの「永続的な割り当て」として管理され、Officeファイルには書き出されない。スレッドはトークIDやアーティファクトパス、選択オブジェクトのメタデータと紐付けられる。
この設計により、同一ファイルに対して「受け手に渡るコメント」と「ChatGPTへの指示履歴」が完全に分離される。
セル・スライド単位でタスクをキューに積む
ユーザーは特定のセル、チャート、スライド、シェイプを選択してChatGPTへの依頼を書き、即時送信するか「Add to review」でキューに積む。複数の依頼をまとめて「Address these comments」として一括送信できる。
送信時は通常のチャットメッセージではなく、専用の artifact_comment ターンタイプとしてChatGPTに渡される。各依頼にはファイルパス、スレッドID、コメント本文、対象メタデータ、プレビュー画像などが構造化されて添付される。
ChatGPTは割り当てられたすべてのスレッドを処理し終えるまでターンを終了しない設計になっており、処理中に追加の依頼が来た場合も加算的に処理する。いわばドキュメント作業のインボックスだ。
返答は artifact-comment-reply ディレクティブとして出力され、クライアントがスレッドIDを検証してサイドバーの該当スレッドに「ChatGPT」名義で挿入する。スレッドの解決(クローズ)はユーザーのみが行える——エージェントが自分で閉じることはできない。
ファイルへの書き戻し
PowerPointの場合、コメント書き込みはOpenXML形式にシリアライズしてファイルに書き戻す。クライアントには「Walnut」と呼ばれる内部シリアライズランタイムとOpenXMLのWebAssemblyコンポーネントが含まれている。
Excelはより複雑な耐久性パスを持つ。ワークブックワーカーを通じてコメントを適用し、チェックポイントを設けてキューに積まれた更新を処理し、ワークブックを再計算してから新しいXLSXバイト列を書き出す。書き込み競合、古いデータの検出、外部ファイルの変更、ファイルサイズ超過、保存失敗のハンドリングも実装されている。
公開ドキュメントとの差分
OpenAIはChatGPT Work、ChatGPT for Excel、ChatGPT for PowerPointを公開しているが、いずれのドキュメントにも今回発見されたネイティブOfficeスレッド、プライベートな @ChatGPT 割り当て、バッチレビュー、エージェント返答のルーティングプロトコルについての記述はない。4月16日のCodexアップデートで開示されたコメント機能はブラウザ内ページへのコメントであり、今回の実装とは別物だ。
詳細はOpenAI built a hidden task system for ChatGPT inside Excel and PowerPoint filesを参照していただきたい。




