8月28日、PyMNTSが「Cisco Deploys Custom AI Agent to Entire 90,000-Person Workforce」と題した記事を公開した。Ciscoが独自開発したAIエージェント「MyAgent」を全従業員約9万人に一斉展開したという事実は、単なる社内DXの話ではない。Microsoft CopilotやGoogle Duet AIといった競合がエンタープライズAI市場を席巻するなか、Ciscoは「自社が最大の実証環境である」という立場を戦略的に打ち出した。その狙いと技術的な構成を以下に紹介する。
9万人規模への一斉展開
Ciscoの上席副社長(オペレーション担当)であるThimaya Subaiya氏が8月27日のブログ投稿で明らかにしたところによると、同社は社内向けAIエージェント「MyAgent」を全従業員約9万人に展開した。
MyAgentは、Ciscoが構築したAIプラットフォーム「Circuit」上に実装されている。Circuitはセキュリティとガバナンスを重視した設計で、特定のLLM(大規模言語モデル:大量のテキストデータで学習し、自然言語の理解・生成を行うAIモデルの総称)に依存しないマルチモデル対応のアーキテクチャを採用している。従業員はCircuitを通じて、承認済みのLLM、各種エージェント、社内エンタープライズデータにアクセスできる。
なお、ここでいう「AIエージェント」とは、単に質問に答えるだけでなく、目標を与えられると自律的に複数のステップを計画・実行できるAIシステムを指す。従来のチャットボットや生成AIとは異なり、ツールの呼び出しやワークフローの制御まで担う点が特徴だ。
MyAgentの主な機能
MyAgentが対応するのは単純な質問応答にとどまらない。Outlook、Webex、Jira、SharePointなどの業務アプリケーションをまたいだ自律的なワークフロー実行が可能だ。従業員は目標を定義するだけで、システムが必要なステップを自動的に調整・実行する「タスクの委任」が行える。
特筆すべき機能の一つが長期的な記憶・コンテキスト保持だ。MyAgentはユーザーの好みや過去のやり取り、作業の文脈を記憶し続ける。これにより、インタラクションをまたいでパーソナライズされた体験と作業の継続性が実現する。また、社外(リモート環境)からのアクセスにも対応しており、オフィス外からでも社内ネットワークと同等の接続性で利用できるとされている。
「実験から実行へ」——Ciscoが描く狙い
Subaiya氏はブログ内でこう述べている。
「Ciscoが、Ciscoのすべての従業員のために構築したこのシステムを、顧客やパートナーが企業規模でAIを導入する際の設計図に転換できる。これこそが、AIの実験から企業での実行へ、そして実行から持続的な競争優位へと移行することの意味だ。」
自社の9万人規模での導入実績を、顧客向けのエンタープライズAI展開のリファレンスとして活用する狙いが明確に示されている。Ciscoのようなネットワーク・セキュリティ基盤を持つ企業が、AIエージェントの「社内ショーケース」を持つことの意味は大きい。
※編集部の考察:Microsoft CopilotはOffice 365との深い統合、Google Duet AIはWorkspaceエコシステムとの親和性をそれぞれ強みとするが、いずれも「自社9万人規模での実運用実績」を前面に出した訴求はしていない。Ciscoがネットワーク・セキュリティ領域で築いてきた企業との信頼関係に、「自社が最大のテストベッド」という実証価値を加えることで、エンタープライズAI市場における差別化を図る戦略と読める。
エンタープライズAIの現状
PYMNTS Intelligenceのレポート「The Enterprise AI Payback Curve」によると、金融・ヘルスケア・メディア企業においては、最新のAIがデータ・テクノロジープロセスや決済・財務プロセスへの組み込みが進んでいる一方、成長・収益、製品・顧客体験といった領域への展開はまだ限定的だ。サプライチェーン、リスク管理、HRの各分野では依然として「探索段階」にとどまっているという。
ただし、すでにAIを活用している領域での評価は高く、**「新しいAIが非常に〜または極めて効果的」と答えた企業は86〜95%**に上るとレポートは伝えている。
詳細はCisco Deploys Custom AI Agent to Entire 90,000-Person Workforceを参照していただきたい。




