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Deep Dive

「とりあえずAI」時代が終わった — 企業がAI予算を絞りながらもコミットを続ける理由

8月29日、PYMNTS.comが「Enterprises Tap the Brakes on Tech Budgets While Demanding AI ROI」と題した記事を公開した。世界のIT支出が14.2%増という強気の数字を記録する一方で、個別企業レベルではAI予算を組み替え・精査する動きが同時進行している。マクロ統計とミクロの現場が真逆の方向に動くという、AIサイクルの新局面を伝える内容だ。

8月29日、PYMNTS.comが「Enterprises Tap the Brakes on Tech Budgets While Demanding AI ROI」と題した記事を公開した。世界のIT支出が14.2%増という強気の数字を記録する一方で、個別企業レベルではAI予算を組み替え・精査する動きが同時進行している。マクロ統計とミクロの現場が真逆の方向に動くという、AIサイクルの新局面を伝える内容だ。


マクロとミクロで逆向きに動く数字

Gartnerの予測によれば、AIインフラへの投資が牽引し、今年の世界IT支出は14.2%増加する見込みだ。しかしこの数字は市場全体の集計であって、個別企業の実態とは乖離がある。

ウォール・ストリート・ジャーナルが3人のCIOにヒアリングしたところ、現場では以下のような動きが起きている。まず、従来型ITコストを削減してAI予算に充てる「予算の付け替え」が主流になりつつある。AIをITバジェットの複数ラインに分散して組み込む手法も広がっており、ROIの測定手段を整備しながら、効果が出ているエリアにリソースを集中させるという流れだ。

つまり、AI支出の「総量」を純増させているのではなく、既存の予算を組み替えてAIに充てている企業が多数を占める。世界全体の支出は増えても、中身は根本的に別物になっている。


「ROI証明」フェーズへの転換

PYMNTS.comが7月に報じたように、2年間にわたって企業のAI支出は事実上、無制限に膨らんでいた。大規模モデルを積極活用し、ヘビーな使用量を促すこと自体が「進歩の証明」と見なされていた時期だ。それが今、企業は支出の精査に転じている。

PYMNTS Intelligenceのレポート「The Enterprise AI Payback Curve」は、金融サービス・医療・メディア企業を対象にAI投資の回収曲線を分析したものだ。同レポートによると、AIが実際に投入された業務領域でパフォーマンスが良好とする回答がほぼ全社にのぼり、直近12ヶ月のROIはポジティブだとしている。

ただし、本格的なペイバック(投資回収)は5〜6年先と見ているケースが多い。それでも企業の姿勢は強気を維持しており、同レポートの調査対象企業のうち少なくとも10社中8社が来年のAI予算を増やす計画を持ち、現状より減らす予定の企業はゼロだという。「ROIがまだ先でも投資を続ける」という逆説的な構図が、現在のエンタープライズAIの実態を象徴している。


実利を示す企業も出始めた

「ROIはまだ先」という認識が一般的な中でも、既に具体的な数字を出している企業が現れている。

TD Bank Group は2026会計年度の最初の3四半期で、AI価値として1億9500万カナダドル(約1億4100万米ドル)を創出したと8月27日に発表した。同行は近年、米国でのコンプライアンス問題対応に多額のコストを投じており、業務効率化へのプレッシャーが特に強い状況にある。注力領域はリテール向けエンド・ツー・エンドの与信プロセス、ソフトウェア開発サイクルの短縮、コンタクトセンターの自動化という3本柱だ。

Lowe's(米国の大手ホームセンター) は同日、AIショッピングアシスタントがオンライン販売の前年比15.7%増に貢献したと発表した。ホームセンター市場ではHome Depotとの競争が激化しており、デジタルチャネルでの差別化が急務となっていた同社にとって、AIアシスタントの導入は戦略的な優先課題だった。アシスタントを使ったユーザーのコンバージョン率は、使わないユーザーの3倍に達しているという。


「投資は続ける。ただし成果を出せ」

全体像をまとめると、企業のAIに対するスタンスはひとつの方向に収束しつつある。「予算は精査するが、AIへのコミットメントは変えない。ただし、効果が証明された領域にしか金を出さない」という姿勢だ。

インフレ、半導体・クラウドリソースの供給制約、ハードウェアコストの上昇も重なり、予算プレッシャーは従来型IT全体にかかっている。その圧力の中で証明済みの成果領域にリソースを集中させる動きが加速しており、TD BankやLowe'sのような事例が社内稟議を通すための「ベンチマーク」として機能し始めている。「とりあえずAI」という免罪符が通用しなくなった今、次のフェーズは成果で語る時代だ。

詳細はEnterprises Tap the Brakes on Tech Budgets While Demanding AI ROIを参照していただきたい。