9月3日、Los Angeles Timesが「As AI takes on complex tasks, its carbon footprint skyrockets」と題した記事を公開した。この記事では、AIの利用が単純な検索的クエリから複雑なエージェントタスクへとシフトするにつれ、環境負荷が桁違いに増大しているという独立系AIベンチマーク企業の調査結果について詳しく紹介されている。
「Googleの代替」から「エージェント」へ——この変化がカーボンコストを爆発させる
AI利用の実態が変わりつつある。かつてはChatGPTに一問一答するだけだったが、今やWebアプリを自律的に構築させるような複雑なタスクへの活用が増えている。この変化が、環境コストに対して想像以上のインパクトをもたらしている。
独立系AIベンチマーク企業のVals AIが実施した分析によると、ソフトウェアアプリの構築のような「AIが長時間考え続ける必要があるタスク」の環境負荷は、単純な質問応答と比べて最大1万倍に達する。Webアプリを構築するために必要なエネルギーは、一般家庭の約2.5時間分の電力消費に相当するという。
同社の創設エンジニアであるOmar Almatov氏はこう語る。
「利用形態がChatGPTをGoogle検索の代替として使うだけの段階から、チャットボットと実際に会話を続ける段階へ移行している。こうしたタスクはもはや単発の質問ではなく、カーボン集約度がはるかに高い」
評価手法と対象モデル
Vals AIは16モデルを対象に、自社のベンチマークインデックスとオープンソースツール**EcoLogits**を組み合わせて評価した。EcoLogitsはフランスの非営利団体GenAI Impactが開発・公開しているOSSで、AIモデルの炭素排出量・水消費量・電力使用量の3指標を推定する。
分析対象の16モデルのうち14モデルが中国企業製で、フィリピン発のAIスタートアップであるThinking Machines Lab(※東南アジアを拠点とするAI研究・製品開発企業)製が1モデル、フランスのMistral AI製が1モデルだった。研究対象は学習パラメータが公開されているオープンウェイトモデルに限定されている。OpenAIやAnthropicの主力モデルはクローズドウェイトであり、同手法での評価が困難なためだ。
参考として、OpenAIのCEO Sam Altmanは2025年に「ChatGPTの平均的なクエリが消費する水は小さじ約1/15杯」と公表しており、GoogleとOpenAIの試算では通常のテキストクエリのエネルギーコストは0.24〜0.34ワット時とされている。ただし、「通常のクエリ」の定義自体が急速に変化しているのが現状だ。
なお、Microsoftの別の研究でも、長時間推論やエージェントリクエストはエネルギー消費を1桁以上増加させる可能性があると報告されており、Vals AIの分析と整合する。
最も重要な発見:「わずかな精度差」が「巨大な環境コスト差」を生む
今回の分析で特に目を引く結果がある。精度のわずかな差が、環境負荷の大きな差に直結するという点だ。
Vals Indexで最も精度の高いオープンウェイトモデルとして挙げられたKimi K3(※企業帰属については元記事を直接ご確認いただきたい)は、2位のDeepSeek V4 Flashと精度はほとんど変わらないにもかかわらず、環境フットプリントが突出して大きい。レポートはこの差を「ラップトップを1回充電するか、20回充電するか」「コップ一杯の水か、トイレを一回流すか」に例えている。
環境負荷が最も高かったのはAlibaba(阿里巴巴)のQwen3.8 Maxで、エネルギー・炭素・水の全指標で最悪スコアを記録。逆に最も低かったのはAnt Group(螞蟻集団)のLing 3.0 Flash 2607で、シンプルなタスク向けに設計されたモデルだ。
開示の欠如が問題の核心
AmazonとGoogleは2025年のレポートで、データセンターの拡張を主因として温室効果ガスの総排出量が増加したと認めている。しかし、AIが具体的にどれだけの炭素を排出しているかの詳細な開示は、Vals AIのような外部推計に頼るしかない状況だ。
AI製品を利用する企業にとっては、自社の排出量報告にAI由来の排出をどう組み込むかという実務的な課題もある。なお、カリフォルニア州では気候情報開示に関する新たな法律(Climate Corporate Data Accountability Act)の整備が進んでいるが、本法律への言及が元記事に含まれるかどうか確認が取れていないため、詳細は元記事およびカリフォルニア州の公式情報を参照されたい。(※編集部の考察:こうした規制の動向がAI企業の開示姿勢に影響を与える可能性がある)
Vals AIのCEOであるRayan Krishnan氏はこう指摘する。
「政策的な議論は実際のエビデンスとデータに基づくべきだ。しかしAI企業はモデルのアーキテクチャ、使用ハードウェアの種類、データセンターの冷却・電気インフラについてほとんど開示していない」
こうした情報こそが、フットプリントをより正確に計測するために必要なものだ。
詳細はAs AI takes on complex tasks, its carbon footprint skyrocketsを参照していただきたい。




