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Deep Dive

フィールズ賞受賞者25人全員が連名で警告——AIが数学の「未解決問題」を解くことで、数学の未来が壊れるかもしれない

9月11日、テレンス・タオ(Terence Tao)氏が「A Severe Misalignment of AI in Mathematics」と題した記事を公開した。現存するフィールズ賞受賞者25人全員が連名で署名した宣言文であり、AIが数学の未解決問題を次々と「解く」ようになった現状が、数学という学問そのものの目的と深刻なズレを生んでいると訴えている。

9月11日、テレンス・タオ(Terence Tao)氏が「A Severe Misalignment of AI in Mathematics」と題した記事を公開した。現存するフィールズ賞受賞者25人全員が連名で署名した宣言文であり、AIが数学の未解決問題を次々と「解く」ようになった現状が、数学という学問そのものの目的と深刻なズレを生んでいると訴えている。

フィールズ賞は4年に1度、原則40歳以下の数学者に授与される最高栄誉だ。受賞者は存命者だけで25人おり、その全員が一つの宣言に署名するという事態は数学史上前例がない。この宣言が公開された背景には、2025〜2026年にかけてLLM(大規模言語モデル)や自動定理証明系AI(LeanやCoqといった形式検証ツールを活用するシステム)が著名な未解決問題の解を相次いで発表したことがある。The Economistも同日付の記事「Top mathematicians are outraged by OpenAI's methods」(一部ペイウォール)でこの宣言を取り上げており、特定のAI企業のアプローチが批判の焦点の一つになっていることを示唆している。なお、宣言本文では特定企業名は明示されていない。


フィールズ賞受賞者25人全員が署名した宣言

署名者にはアルトゥル・アヴィラ、マンジュル・バルガヴァ、ピーター・ショルツェ、マリーナ・ヴィアゾフスカら数学界を代表する顔ぶれが並ぶ。宣言は専用サイト mathandai.org にも掲載されており、数学者コミュニティからの追加署名を受け付けている。タオ氏は「時間をかけた協議プロセスを踏めなかったのは残念だが、状況の緊急性を鑑みて早期公開を選んだ」と述べている。


問題の核心:「問題を解くこと」と「理解すること」のズレ

宣言の論点はシンプルだ。

数学における有名な未解決問題は、単なるゴールではなく「理解の深まりを測る灯台」として機能してきた。ある問題が解かれるとき、そこには新しい洞察や手法が伴い、それを数学者コミュニティが講演・議論・簡略化というプロセスを経て吸収・継承してきた。最終的には教科書に落とし込まれ、学部生でも学べる知識になる。それがさらに数十年・数百年後に工学や科学の基盤技術になることもある。

AIはこのプロセスを飛ばす。宣言はこれを次のように表現している。

「真/偽」の命題を加速度的に大量生産することは、新しいアイデアに命を吹き込むのではなく、肥沃な土壌を破壊しかねない。

AIが解を出した後、誰もその手法を「分離・命名・引用・継承」しない。使えるかもしれないアイデアが、消化されないまま埋もれていく。


帰属・盗用問題と「人間の伝達鎖」の断絶

宣言が強調するもう一つの問題が帰属(attribution)だ。AIによる解は多くの場合、拙速に発表され、先行研究の適切な引用がなされない。これはすべての創造的職業が直面する盗用・帰属の問題と本質的に同じだとされている。

さらに深刻なのが「数学者どうしの人間的な伝達鎖が失われる」という点だ。指導教員が学生に問題を与えるのは「答えを得るため」ではなく、将来の研究者として育てるためだ。AIが答えを出してしまえば、その教育的文脈が消える。AI由来のアイデアは、それを理解し次世代に渡す人間がいなければ「完全に生きたもの」にはならない、と宣言は述べる。


数学だけの問題ではない

宣言は数学界の話に閉じていない。「これは他の科学・創造的職業が直面しつつある問題であり、社会全体が向き合うことになる問題の先触れだ」と明示している。

「AIが仕事のやり方を変える中で、その仕事がそもそも何を達成しようとしていたのかを見失わないようにするにはどうすればよいか」

この問いは、コードを書くエンジニアにも、論文を書く研究者にも直接刺さる。


宣言が求めること

宣言が要求する具体的なアクションは以下の三者に向けられている。

  • 数学コミュニティ:問題を緊急に議論・対処すること
  • AIを開発する企業:技術の使われ方に責任を持つこと
  • 社会全体:知的労働の多くの形態で類似問題が生じることを認識すること

なお、宣言はAIを全否定していない。「AIは本物の数学的研究と理解を強化・加速する可能性がある」とも明記している。ただし、それが実現するかどうかは「この新技術を制御する人間の判断次第だ」と結んでいる。


詳細はA Severe Misalignment of AI in Mathematicsを参照していただきたい。