9月18日、Futurum Groupが「AI Value Isn't a Tech Problem. It's an Operating Model Problem.」と題した記事を公開した。AIツールの導入が進む一方で、エンタープライズ規模での価値実現が思うように進まない——その原因は技術の不足ではなく、ガバナンスとオペレーティングモデルの未成熟にあるというのが、ConcentrixとEverest Groupの調査が導き出した結論だ。「技術は揃っている。問題は組織の側にある」という逆説的なメッセージは、AI活用の現在地を問い直す視点を提供している。
「技術は揃っている。問題は組織だ」
AIツールの急速な普及を受け、エンタープライズ各社はこぞって導入投資を積み上げてきた。しかし、現場レベルでの価値実現が追いついていないという声は依然として多い。その原因について、Concentrix(NASDAQ: CNXC)がEverest Groupに委託した調査レポート「Reinvent or Evolve: Intelligent Operating Models Shaping AI-Enabled Customer Journeys」が明確な答えを示した。
調査の中心的な結論は端的だ。AIスケール化を妨げているのは技術能力の不足ではなく、ガバナンスの欠如と、組織横断での実行を統制するオペレーティングモデルの未整備にある。ここでいうオペレーティングモデルとは、AIを組織全体でどう運用・管理・展開するかを規定する仕組みの総体を指す。ガバナンスが整備されていないと、各部門が独自にAIツールを導入した結果、成果が局所的にとどまりスケールしないという状況が生まれやすい。
この文脈で重要な数字がある。本レポートでは、AIが来年中に顧客対応の大半を自律的にリードすることを見込む企業は約16%に過ぎないと示されている(Concentrix/Everest Group調査。nは記事内で非開示)。裏を返せば、大多数の企業はまだ「人間主導の業務をAIが補助する」段階——レポートが定義するEvolutionフェーズ——にとどまっている。「なぜ大多数が補助的活用にとどまるのか」という問いへの答えは、技術面ではなくこのガバナンスの空白に集約される。
2つの到達経路:EvolutionかReinventionか
レポートはAIによる競争優位の獲得に向けて、企業が取りうる2つの経路を定義している。
- Evolution(進化): 人間主導のオペレーションをAIが拡張する形。既存の業務フローを維持しながらAIを補助的に組み込む段階。
- Reinvention(再発明): ネイティブAIやエージェント型環境を前提に業務全体を根本から再設計する段階。エージェント型AIとは、単発の指示に応答するだけでなく、目標に向けて自律的にタスクを計画・実行・修正できるAIアーキテクチャを指す。
現時点では大半の企業がEvolutionに位置しているが、ConcentrixのCEO Chris Caldwellは次のように述べている。
「AIが組織にもたらす最大の機会は、既存業務を自動化することではない。価値を届ける全く新しい方法を作り出すことだ」
実際の成果例として、レポートはエージェント型AIを活用したある大手小売業者のケーススタディを挙げている。このケースでは、顧客への対応速度が31%向上した。この改善は、適切なガバナンス体制のもとで実行統制が機能した結果として位置づけられている。つまりEvolutionかReinventionかという経路の選択よりも、いずれの経路においてもガバナンスが整備されているかどうかが成果を分ける鍵だと、レポートは示唆している。
ガバナンスの空白がコンサルティング需要を生む
このガバナンス不全という構造的課題は、市場においてAIコンサルティングへの旺盛な需要を生み出している。Futurum自身が実施した「2H 2026 Ecosystems, Channels & Marketplaces Global Enterprise Decision Maker Survey」によると、AIコンサルティングを手がける販売パートナーの86.7%(n=225)が、AIコンサルティングが2026年の事業成長を牽引すると回答しており、調査内の全サービスカテゴリ中で最高の数値だった。同指標は2026年上期時点で83.9%(n=248)であり、継続的な上昇は一時的な楽観ではなく持続的な需要を示している。
また、AIが変革した市場で競争できると「非常に自信がある(リーディングエッジにある)」と自己評価するパートナーの割合は、2H 2026時点で52%(n=400)に達した。これは単一選択式の設問のため、数値の上昇は実質的な意識の変化を反映している。
市場規模としては、チャネルエコシステム市場全体が2025年の210億ドルから2026年には257億ドルに拡大する見通し(ベースシナリオ)で、2022〜2029年のCAGRは36%と予測されている。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)やCXといった周辺領域も含め、AI変革を支援するコンサルティング・実行支援サービス全体が需要の厚い市場となりつつある。なお、BPOとはデータ処理・顧客対応・バックオフィス業務などを外部の専門業者に委託することを指し、ConcentrixはこのBPO領域を主要事業の一つとしている。
Concentrix iX Suite:オーケストレーション層という戦略
Concentrixはガバナンスの空白に対応する手段として、自社のiX Suiteを提案する。人材・テクノロジー・データ・オペレーションを統合する「ユナイテッドエコシステム」として設計されており、EvolutionとReinventionの両経路に対応できる構成が特徴だ。
実際の企業ではビジネスユニットごとに異なるAI成熟度を持つケースが多く、1社が両経路を同時に進行させる状況も珍しくない。単一のオーケストレーション層でその両方をカバーできる点は、ベンダーロックインを抑えつつパートナーとの関係を深める上での差別化要因となりうる。
また、パートナー企業の61.5%(n=400)がベンダーのパートナープログラムを「必要不可欠なリソースを提供する極めて重要なもの」と評価しており、構造化されたAI変革フレームワークへの需要がパートナー側にも明確に存在することが確認できる。iX Suiteの訴求力は、技術スタックそのものよりも、このガバナンスとオーケストレーションの文脈においてこそ発揮されると見ることができる。
注目すべき今後の焦点
今回のレポートが示す「組織とガバナンスこそが障壁」という命題は、AI活用の議論をツール選定から組織設計へとシフトさせる意味で重要だ。その命題の検証は、以下の動向を追うことで可能になるだろう。
- iX Suiteの採用状況:Q4 2026にどのセグメント(ReinventionかEvolutionか)が先行して採用するか、またそのディールサイズが指標となる
- ガバナンスフレームワーク需要の独立化:AIオペレーティングモデル構築支援が、パートナープログラム内で独立した請求項目として確立されるかどうか(Q1 2027目処)
- 競合の動向:CXおよびBPOベンダーが今後2四半期でAIコンサルティングと技術スタックをどう再編するか
- 市場予測の検証:チャネルエコシステム市場が257億ドルというベースケース予測に沿う形でQ4が締まるか
「技術の問題ではなく組織の問題」という診断が正しければ、次に問われるのはその組織変革を誰がどう支援するかという実行の問題だ。Concentrixのレポートはその問いに対する一つの回答を示しているが、市場全体がどう動くかは今後の四半期で明らかになる。
詳細はAI Value Isn't a Tech Problem. It's an Operating Model Problem.を参照していただきたい。




