9月21日、Euronewsが「AI-generated 'experts' front German-language political video network」と題した記事を公開した。AIが生成した架空の「専門家」が政治解説を行うYouTubeチャンネルが、ドイツ語圏で47チャンネル・755万再生規模のネットワークを形成していたという調査報告だ。実在しない顔と声が「信頼できる政治コメンテーター」として視聴者に受け入れられている現実は、民主主義的な情報空間への新たな脅威として注目を集めている。
AIが演じる「政治コメンテーター」が47チャンネル
一見すると、ザクセン=アンハルト州の選挙を分析するドイツ人政治評論家に見える女性。別のチャンネルではイランをめぐる戦争を解説する「専門家」が登場する。これらはいずれも実在の人物ではなく、AIが生成した偽のプレゼンターだ。
ドイツを拠点とするシンクタンク・モニタリング機関CeMAS(Centre for Monitoring, Analysis and Strategy)が調査したところ、AIが生成したプレゼンターを使って政治・地政学的なテーマを扱うドイツ語YouTubeチャンネルを47件特定した。そのうち38チャンネルを詳細に分析し、2025年12月から2026年8月にかけて公開された1,876本の動画を記録している。
これらのチャンネルを合計すると、登録者数は6万6,000人以上、動画の総再生数は約755万回、コメント数は約3万件に達する。コンテンツが偽物であるにもかかわらず、コメント欄には本物と信じて視聴しているユーザーの書き込みも確認されている。
CeMASのシニア研究員Lea Frühwirthは、Euronewsのファクトチェックチーム「The Cube」に次のように語っている。
「『これはAIだよ、わかるでしょ』と指摘する人がいる一方、『どうでもいい』と返す人もいる」
組織的なキャンペーンの痕跡
CeMASは、これらのアカウントが組織的な活動の一環である可能性を示す複数の特徴を挙げている。
- 扱うテーマ・表現スタイルの類似性
- アカウント登録日の近さ
- 活動が集中する時期の一致
- 同一のアバターを複数チャンネルで使い回す事例
- アバターはそのままに声だけを差し替えるケース
分析した動画のうち795本でドイツ国内政治が取り上げられており、いずれもドイツが深刻な政治・経済危機に陥っているという論調で、フリードリヒ・メルツ首相率いる連立政権を批判する内容だった。
また、CeMASの報告によれば、この活動の時期はドイツ東部における州・地方選挙が相次いだ時期と重なっており、ザクセン=アンハルト州でAfD(ドイツのための選択肢)が首位に立つなどの動きも見られたと指摘されている。ただしFrühwirthは「選挙を特定のターゲットにしたキャンペーンとは断定できない」としつつも、連邦政府を攻撃するナラティブが選挙をめぐる広い議論と無関係ではないとも述べている。
また、ソーシャルメディア分析会社Graphikaも英語・フランス語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語でAIプレゼンターを使った類似のパターンを別途確認している。CeMASは、ドイツ語チャンネルがこの広域パターンの一部である可能性を示唆しているが、直接的なつながりは確認されていない。
※編集部の考察:AIアバターを使った偽情報動画の拡散は、EU域内ではEU AI Actにおけるディープフェイク開示義務(第50条)との関係でも今後の論点となりうる。日本でも選挙期間中のAI生成コンテンツに関する議論が始まっており、本件のような大規模ネットワーク型の偽情報工作は対岸の火事ではない。
開示ラベルはあるが機能していない
多くの動画にはYouTubeの「コンテンツが改変または合成されたもの」というラベルが表示されている。しかしFrühwirthによれば、このラベルは小さく、動画の一部に使われているのか、プレゼンター全体がAI生成なのかを明示する設計になっていない。
「それを見た人が、これが全面的にAI生成の産物だと認識できるような設計にはなっていない」と彼女は指摘する。
動画自体にも翻訳エラーや声の途中変化、サムネイルと動画内のアバターの不一致といった痕跡が残っているが、技術の進歩とともにこれらの手がかりは検出しにくくなりつつある。
「AI生成コンテンツの品質は日に日に向上している。3ヶ月後に話すときには、まったく別の品質レベルになっているだろう」(Frühwirth)
YouTubeはEuronewsのコメント要請に対し、記事公開時点で回答していない。
詳細はAI-generated 'experts' front German-language political video networkを参照していただきたい。




