9月24日、Anthropicが「Claude discovers a novel enzyme system with CRISPR-like repeats」と題した記事を公開した。ClaudeがCRISPR様の繰り返し配列を持つ新規酵素システムを自律的に発見したという研究成果を紹介している。
Claudeが「発見」した——AIエージェントが主導した生物学的探索
AIが仮説を立て、データを分析し、新たな生物学的システムを「発見」する——これまでSFの文脈で語られてきたシナリオが、実際の研究成果として報告された。
Anthropicのライフサイエンス研究チームは、Claudeを用いた大規模なゲノムデータ探索を実施。その結果、CRISPR様の繰り返し配列(リピートアレイ)を伴う新規酵素システムを同定した。このシステムは「ART(array-associated reverse transcriptases、アレイ関連逆転写酵素)」と命名されている。
CRISPRは、2012年にDoudna/Charpentierらがその機構をScience誌に発表して以降、急速に注目を集めた遺伝子編集技術だ。細菌の免疫機構に由来し、特定のDNA配列を狙って切断・編集できることから、現在は医薬品開発や農業分野で広く活用されている。ARTはCRISPRとは異なるシステムだが、構造的な類似点を持つ点が研究者の関心を集めている。
21時間・950エージェント・2億1000万トークン
今回の発見のプロセスは、規模の面でも特徴的だ。
研究チームはClaudeに対して「逆転写酵素(RT)の大規模データベースを探索し、興味深い新例を探せ」という高レベルの指示を与えた。その後の作業はほぼClaudeが自律的に実施した。
- 約950のClaudeエージェントが並列で稼働
- 21時間のデータ探索
- 2億1000万トークンを消費
- 200,000件以上のRTを収集 → 3,500件の候補に絞り込み → さらに上位20件の詳細レポートを生成
人間の専門家が同様の解析を行う場合、数週間から数ヶ月かかる作業量だとチームは説明している。
「これはCRISPR様のリピートアレイでは?!」
発見の瞬間として、元記事が引用しているClaudeのコメントが興味深い。RT遺伝子近傍の生のDNA配列を読み込んでいたエージェントが次のように記録した。
"[The DNA next to the RT] is spectacular: I can see by eye a tandem repeat array … that's a CRISPR-like … repeat array?!"
その後、エージェントは人間の科学者と同様の手順を踏んだ。リピートの個数と間隔を計測し、既知のRTシステムと構造を比較し、先行研究に同様の報告がないかを文献で確認。最終的に「新規の生物学的システムを発見した」と判断し、人間のレビュー用レポートを作成した。
発見されたARTは主にバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)に存在し、RTタンパク質、隣接するパートナー遺伝子、等間隔に並んだDNAリピートアレイの3要素で構成される。初期実験では、このリピートアレイが複数の短いRNAとして発現することも確認されており、CRISPRに類似した機構を持つ可能性が示唆されている。ただし現時点でARTの一次機能は不明であり、研究は継続中だ。
元記事では、MITおよびブロード研究所のFeng Zhang教授によるコメントも紹介されている。
"This is an exciting example of how AI agents can contribute to biological discovery. The identification of RNA-repeat arrays associated with reverse transcriptases is genuinely intriguing and merits further investigation."
Anthropicが構築した研究体制
この成果の背景には、Anthropicが2024年春に立ち上げたライフサイエンス研究グループの存在がある。チームはCRISPRシステムの進化・制御の研究や、次世代細胞・遺伝子療法向けの新規酵素発見といった実績を持つ科学者で構成されている。
ラボはベイエリアに設置されており、バイオセーフティレベルBSL-1およびBSL-2の範囲内で研究を実施。ヒトに感染する病原体は扱わない。実験作業は人間の科学者が担当し、Claudeの役割はデータ解析と仮説生成に限定されている。
研究ツールとして使用しているのはClaude ScienceとClaude Codeで、一般の研究者でも利用可能なツールと同じものだと元記事に明記されている。
「仮説の量」が新たな研究対象に
研究チームが興味深い観点を示している。Claudeが膨大な数の仮説を生成するため、「どの仮説が検証に値するか」という判断基準そのものが研究対象になりつつあるという。
単一のキャンペーンで数百〜数千件の候補レポートが生成される状況において、チームは「自分たちが選んだ候補と除外した候補を分けるものは何か」を分析し、その知見をClaudeへの指示にフィードバックしている。
技術的な詳細はプレプリント(PDF)として公開されており、ゲノミクスや他分野への応用に関心のある研究者からの提案を募っている。
詳細はClaude discovers a novel enzyme system with CRISPR-like repeatsを参照していただきたい。




