9月24日、SF Standardが「They build frontier AI. Now they're donating millions to rein it in」と題した記事を公開した。この記事では、AnthropicやOpenAI・Google DeepMindの従業員らがAI規制を推進する候補者に数百万ドル規模の政治献金を行い、新たな政治勢力として台頭しつつある実態について詳しく紹介されている。
AIを作る側が、AIを規制しようとしている
フロンティアAIを開発している企業の社員たちが、自社が手がける技術の規制を求める政治家に資金を提供している。矛盾して聞こえるかもしれないが、これはAI安全性コミュニティ(AI safety community)と呼ばれる人々の間では一貫した信念に基づいた行動だ。
Anthropicの研究エンジニアであるPeter Lofgrenは今選挙サイクルで140万ドル以上を献金した。Jan Leikeは70万ドル以上、Anthropic社員のDaniel Zieglerは120万ドル近くをPACや候補者に提供している。なお、Jan LeikeはOpenAI出身の研究者として広く知られており(※元記事の記述に従って紹介しているが、所属歴の詳細は元記事を参照されたい)、OpenAI社員のJuan Ceron Uribeも40万ドル以上を拠出しており、そのうち20万ドルはニューヨーク州議会議員アレックス・ボアーズ(Alex Bores)支援のPACへ流れた。
これは個人の散発的な行動ではない。Public First ActionというPACは、AnthropicやOpenAI、Google DeepMindの一般社員から260万ドル以上を集めた。Guardrails AllianceはOpenAI社員7人を含む寄付者から70万ドル以上を調達。新設のTomorrow Together PACは少なくとも1000万ドルを集めたと発表している。
「AIPACのステロイド版」になる可能性
AI政策に携わる匿名の関係者はこう表現した。
「極めてモチベーションが高く、一つの争点に絞った有権者グループが存在する。彼らは信じられないほど裕福で、一つのことだけにお金を使う覚悟がある。2028年までに、これはAIPACのステロイド版になると思う。」
AIPACはアメリカのイスラエルロビイング団体として知られ、選挙への影響力で名高い。その比喩が示すように、AI安全派の献金者たちは単なる個人の善意の集まりではなく、組織的な政治勢力として機能し始めている。
ボアーズの選挙戦がその象徴だ。同氏はニューヨーク州でAIモデル開発者を規制する「RAISE法」を推進した人物で、連邦議会選挙に打って出た初日だけで120万ドルを調達した。しかし、OpenAI社長のGreg Brockmanらが資金を提供するPAC「Leading the Future」が推定800万ドルを投じて対抗し、ボアーズは6月の予備選で4ポイント差で敗れた。
この敗北がAI安全派の献金者たちの火に油を注いだ。「あのレースを見て、『これが自分の参加したい戦いだ』と思った人が多かった」と、SF拠点の政策提言団体Secure AI ProjectのポリシーディレクターであるScott Wisorは述べている。
動きの背景:AI能力の急速な向上
献金者たちを突き動かしているのは、AIの能力が急加速しているという現実認識だ。元記事では次の対比が示されている。「2年前は『strawberry』に含まれる『R』の数も答えられなかった技術が、今やミレニアム懸賞問題(Millennium Prize Problems)を解き、大企業へのハッキングを実現している。」ただしこれは元記事における比喩的・誇張的な表現の可能性があり、AIが実際にミレニアム懸賞問題を正式に解決したという事実として受け取る際には注意が必要だ。
多くのAI安全派は、AIが人間の知性を超えて制御不能に加速する「シンギュラリティ」が数年以内に訪れると考えており、それが政治的行動への動機になっている。
年収25万ドルのうち約20万ドルをそのまま政治献金に充てるというAI安全系NPO勤務者もいる。「AIのコントロールを失うリスクが迫っていると思っているから、できる限り献金している」と、その人物は元記事の中で語っている。
対立構図:規制推進 vs. 規制反対
この動きに真っ向から対立するのが、Greg BrockmanやベンチャーキャピタリストのMarc Andreessenらが資金を提供するPACだ。Leading the Futureは今年前半だけで連邦選挙に少なくとも2400万ドルを費やした。彼らの主張は「規制はAIの進歩を遅らせ、AIの覇権争いで中国に有利をもたらす」というものだ。
AI安全派は党派を超えた動きも見せており、規制強化を訴えてきた共和党のTom Cotton上院議員やJosh Hawley上院議員への支援も行っている。Public First Actionはこのふたりのほかにも規制派共和党員2名のために700万ドルの支出を発表している。
Public First Action共同創設者でかつて民主党議員だったBrad Carsonはこう述べる。
「AI政策が党派化するのが最大の懸念だ。民主党の問題にも共和党の問題にもしたくない。寄付者を一つにまとめているのは、これを世界で最も重要な政策課題だと見ているという点だ。」
組織化された「分析的」な集団
候補者たちはこのドナー集団の特徴として、その組織性と分析的思考を挙げる。カリフォルニア州上院議員でAI規制の長年の支持者であるScott Wiener(前述のSecure AI ProjectのScott Wisorとは別人。現在はナンシー・ペロシの後継として連邦議会を目指している)はこう述べている。「話していると、『支援はほぼ確実だが、皆で一緒に動きたいので確認が必要』と言われることがよくある。」
多くの献金者は、合理主義(rationalism)や効果的利他主義(effective altruism)のコミュニティと緩くつながっている。バークレーのEAコワーキングスペース「Constellation」や、近くにある合理主義者のコミューン「Lighthaven」でのイベントが、候補者支援の議論の場になっている。
Berkeleyの大学院でコンピュータサイエンスの博士号を持ち、Alignment Research Centerで研究していたEric Neymanは、政治顧問のJay Shoosterとともに「Citizens for Safe AI」というドナーアドバイザリーを設立した。元記事によれば、今回の報道がその初めての対外的な紹介となる。
AIを開発する最前線にいる人々が自らの手でその規制を推進しようとするこの動きは、2026年の選挙を超えて継続する可能性がある。元記事ではこうした献金活動の今後の展開についても詳述されている。
詳細はThey build frontier AI. Now they're donating millions to rein it inを参照していただきたい。




