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Deep Dive

DHHがRails Worldで語ったこと——LLMへの全面移行、HeyのRust再構築、そしてRailsに残された問い

9月25日、jardo.devが「What About Rails?」と題した記事を公開した。Rails World 2026の基調講演でDHHが語った内容を詳細に検証し、それがRailsの将来に何を意味するかを問う内容だ。

9月25日、jardo.devが「What About Rails?」と題した記事を公開した。Rails World 2026の基調講演でDHHが語った内容を詳細に検証し、それがRailsの将来に何を意味するかを問う内容だ。

Ruby on Rails(以下Rails)の作者であるDavid Heinemeier Hansson(DHH)が毎年基調講演を行うRails Worldは、世界最大のRailsカンファレンスだ。今年の聴衆が期待したのはRailsの次なるビジョン——しかしDHHが語ったのは、Railsではなく自身のLLM全面移行だった。Railsコミュニティにとって、この講演は「答えのない問い」を突きつけるものになった。


DHHが宣言した「プロのプログラマー引退」

Rails World 2026基調講演でDHHは冒頭からこう語った。

私はプロのプログラマーを引退した。

Railsを離れるという意味ではない。しかし「英語が最良のプログラミング言語だ(LLMがあるから)」とし、LLMが生成したコードを人間が読む必要すらないと主張した。

さらに、37signalsが次期HeyをフルリライトするにあたりRailsスタックを捨てると発表した。クライアントはネイティブアプリに、サーバーサイドはRustで再構築するという。DHHはかつて「Rustは醜く、人間が書くべき言語ではない」と繰り返し発言してきたが、「LLMが書くなら問題ない」と立場を翻した。

数字として提示されたのは次のとおりだ:

  • LLM活用前のRuby年間出力:約3万行
  • 2025年8月の1ヶ月のみのコード出力:15万行(大半はLLM生成のRust)
  • 過去20年でRubyが仕事の約半分を占めていたが、今年はわずか3%

DHHの数字を解体する

筆者はこれらの主張を丁寧に検証している。

15万行 vs 年3万行の比較について:DHH自身が「言語間の比較は公平ではない」と認めながら、簡潔なRubyとLLM生成の冗長なRustを同列に並べた。加えて「書いた(wrote)」の定義に、実際には読んでいないコードが含まれている。

HeyのRust移行で得られた「CPU 99%減、メモリ95%減」という数字も、純粋なRubyバックエンドを維持したままWebフロントエンドを廃止するだけで大幅削減になりうる。RustによるものかWebアプリ廃止によるものか、効果が分離されていない。

「10倍エンジニア」の根拠として引用された研究も複数の観点から批判を受けているもので、開発者の生産性ではなくツールの差を測定したものだ。元論文に「平均10倍」という数字は存在せず、28:1の比率がいつの間にか講演では1000:1になっていた。

Basecamp 5のリライトについては、LLMの非調整な出力によって「スイスチーズのようなアーキテクチャ」になったとDHH自身が認めている。Shopify CEOのTobi Lütkeも最近、管理されない大量のAI生成コードが「スロップ・グレネード(slop grenades=粗悪なAIコードの塊が爆発的に問題を引き起こすことの比喩)」として重大なリスクになると述べており、AIコード生成の品質管理は業界全体の課題になりつつある。

ATMの歴史を使った楽観主義の根拠についても、筆者は「年代が違う、引用した経済学者が違う、テラーの数字が桁一つ違う」と指摘し、こう締めくくる。

Perhaps a human should have double-checked this talk.(人間がこの講演をダブルチェックすべきだったのではないか)


Railsの価値提案が「過去の回避策」になったという示唆

筆者が最も問題視するのは、DHHの発言が持つ含意だ。

DHHはRails Worldの基調講演で「Heyは小規模チームが生産性を出すためにWebアプリとして作られた。それは古い時代の話だ」と言い切った。Railsが20年間掲げてきた価値提案——「小規模チームで野心的なプロダクトを」——が、LLMによってボトルネックが消えた今は不要になった回避策だったと暗示する発言だ。

DHHがRailsの残された立ち位置として示したのは「必要に迫られたWebアプリのためのプラットフォーム」と「AIとの相性の良さ」の二点だ。Evil Martians(著名なRailsコンサルティングファーム)によるLLMエージェントの評価実験をその補強として紹介したが、筆者はこれを「Railsを続ける言い訳」と評している。

Railsコミュニティではすでに分裂の動きがある。Railsから派生したMosscapプロジェクトは「Railsは完成している。保守だけでいい」と主張。一方、Rubyで次世代Webアプリを目指すHanamiはロードマップを公開し、独自のビジョンを示している。DHHがビジョンを示さない中、Railsの方向性を誰が担うのかは不透明なままだ。


Railsの未来を誰が語るのか

筆者の問いはシンプルだ。DHHはRailsの未来を語らなかった。「君たちは最高のRailsプログラマーだ」という激励は、DjangoでもLaravelでもSpring Bootの聴衆にも一字一句そのまま使える言葉で、Railsについて何も言っていない。

Railsが「安定・保守フェーズ」に入るならそう宣言すべきだし、そうでないなら方向性を示すべきだった。DHHはそのどちらもしなかった。それがRails World 2026基調講演の、最も雄弁な沈黙だった。

詳細はWhat About Rails?を参照していただきたい。