9月26日、Inside AI Newsが「Fed's Schmid: Need to understand if AI "ecosystem" getting too big to fail」と題した記事を公開した。この記事では、米カンザスシティ連邦準備銀行総裁のジェフ・シュミッド氏が、AIエコシステムの「大きすぎて潰せない」リスクを警告し、金融当局によるシステミックリスク評価の必要性を訴えたことが詳しく紹介されている。
2008年金融危機と同じ構造がAIに生まれつつある
カンザスシティ連邦準備銀行(Kansas City Fed)のジェフ・シュミッド総裁は、AIエコシステムが「大きすぎて潰せない(too big to fail)」存在になりつつあるかどうかを、規制当局が真剣に理解しなければならないと警告した。同氏の発言は、2025年9月に開催されたカンザスシティ連邦準備銀行主催のイベントにおける講演の中で行われたものとして報じられている。
「大きすぎて潰せない」とは、2007〜2009年の金融危機において、大手金融機関がその規模と経済への影響力から、公的資金による救済を余儀なくされた状況を指す概念だ。シュミッド氏はこれをAI業界に当てはめ、次のように述べた。
「AIとデータセンターの整備において本当に問題を整理しなければならないのは、私たちが『大きすぎて潰せないAIエコシステム』に向かっているのかという点だ」
現在のAIインフラは、データセンター、半導体メーカー、クラウドプロバイダーが緊密に結びついた依存関係のネットワークを形成している。Microsoft、Google、Amazon、Metaといった一握りのテック大手が、AIモデルの開発だけでなく、それを支えるデータセンターやクラウドインフラまでを垂直統合して所有している構造だ。これにより、システム全体が単一障害点に脆弱になる可能性がある。
「中に何があるのかをどう把握すればいいのか、少し心配だ。……何かシステム的なものがあるのか?」(シュミッド氏)
シュミッド氏はこれまでの講演でもAIが生産性向上をもたらす可能性に言及してきた一方、労働市場の混乱リスクも繰り返し指摘してきた。今回の発言はそこに、金融安定性への脅威という新たな懸念軸を加えるものとして注目される。
金融危機後の規制枠組みは、AIには存在しない
2008年の金融危機後、米国では**ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)が制定され、大規模金融機関への厳格な監督体制が整備された。具体的には、金融安定監督評議会(FSOC)**の設立による「システム上重要な金融機関(SIFI)」の指定制度や、大手銀行を対象とした年次ストレステストの義務化などが盛り込まれた。しかし、市場評価額と経済的影響力が急拡大するAI企業に対して、同等の枠組みは現時点で存在しない。
元記事によれば、AIのシステミックリスクをめぐっては専門家の間でも見解が一致していない。「AI企業は銀行と異なり高レバレッジではなく、決済システムを直接脅かすものではない」という立場がある一方、「AIはすでにエネルギーグリッドや医療など重要インフラに組み込まれており、その安定性は国家的な関心事だ」という反論もある、とシュミッド氏の発言を受けた議論として紹介されている。
Fedの役割と限界、そして問われる監督の空白
連邦準備制度(Fed)はすでにAIリスクの監視姿勢を示しており、シュミッド氏の発言はその延長線上にある。ただし、AIの監督権限の多くは現在**連邦取引委員会(FTC)や商務省**が担っており、Fedが直接AIプラットフォーム企業を規制する法的根拠は現時点では限られている。
この構造的な空白が、シュミッド氏の発言をより重要なものにしている。Fedが監視できるのは、あくまで金融システムへの波及リスクという観点からであり、AIエコシステム自体への直接介入ではない。しかし、AIが金融機関のオペレーション、信用評価、取引執行に深く組み込まれていく中で、AIの障害や集中リスクが金融安定性に直結するシナリオは現実味を増している。
シュミッド氏の発言は、Fedがこの監督の空白に対してより積極的な役割を果たすべきだという方向への問題提起として機能しており、規制当局間の役割分担そのものを問い直す議論の呼び水となる可能性がある。誰がAIのシステミックリスクを最終的に監視するのかという問いは、現行の制度設計の中ではまだ答えが出ていない。
AI投資が拡大し続け、エコシステムの相互依存がさらに深まる中、「大きすぎて潰せない」状態に達しているかどうかという問いの切迫度は、今後さらに増すことになるだろう。
詳細はFed's Schmid: Need to understand if AI "ecosystem" getting too big to failを参照していただきたい。




