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Deep Dive

「大卒の採用を、しばらくしていない」——AIが初級業務を代替した結果、広告・マーケ業界でエントリー採用が消えつつある

9月28日、Digidayが「'Not hiring' entry-level talent: Industry acknowledges runaway crisis brought on by introducing AI to the workforce」と題した記事を公開した。この記事では、AI導入によって広告・マーケティング業界でエントリーレベルの採用が事実上停止しつつある実態について詳しく紹介されている。

9月28日、Digidayが「'Not hiring' entry-level talent: Industry acknowledges runaway crisis brought on by introducing AI to the workforce」と題した記事を公開した。この記事では、AI導入によって広告・マーケティング業界でエントリーレベルの採用が事実上停止しつつある実態について詳しく紹介されている。


「大卒の採用を、しばらくしていない」

9月24日にDigiday Media主催のイベント「AI Marketing Strategies」で開催されたタウンホールでの発言が波紋を呼んでいる。チャタムハウスルール(※発言内容は共有可能だが、発言者の特定は禁止というルール)のもとで行われたこのセッションで、中小規模のパフォーマンスマーケティングエージェンシーのオーナーが率直にこう語った。

「大卒の新卒採用はしばらくしていないし、今後もするつもりはない」

この発言が特に重いのは、その直後の文脈にある。この経営者はかつて「エントリーレベルの人材だけを採用していた」と認めており、そうした若手が会社の中核人材に育っていったと評価していた。それでも採用をやめた理由は明快だ。「大卒が嫌いなわけではない。ただビジネスの問題だ」——かつて新卒が担っていた初級タスクをAIが肩代わりするようになったからだ。


「AIに仕事を奪われるのではない」という警句

このタウンホールで最も印象的だったのは、別の参加者によるこの一言だ。

「AIがあなたの仕事を奪いに来るわけではない。AIを使いこなし、あなたと同じ経験を持つ人間が、あなたの仕事を奪いに来る」(※元記事の英文からの意訳・筆者訳)

元記事が引用するPew Research調査によると、18〜34歳の若年層は多くの国で、より年上の世代よりもAIによる雇用喪失を強く懸念している。このタウンホールでの発言は、その懸念が杞憂ではないことを示唆している。若手世代がAI活用スキルを早急に身につけなければ、経験年数では同等でもAIを武器にする同世代に職を奪われるという構図が、業界の第一線でリアルに語られるようになっている。


「短期的思考」という批判も

採用停止に対し、反論の声も同じ場から上がった。ある参加者は、新卒採用を打ち切ることは「短期的な思考」だと指摘した。シニア人材が退職すれば、社内に蓄積された知識やノウハウが消える。そのとき、育てるべき若手がいなければ詰む。

「これはテクノロジーの課題ではなく、学習と人材育成の課題だ」

この参加者が提案するのは、ジュニアポジションの廃止ではなく役割の再設計だ。AIが代替するのはタスク単位であり、職種そのものではない。エントリーレベルの社員が担うべき業務の内容を見直し、AIを前提とした新しいジュニアロールを定義することが、長期的な人材育成の観点からは不可欠だという主張だ。


内部研修をどう設計するか

現場の関心は「採用するかどうか」だけでなく、「今いる社員にどうAIを教えるか」にも向いている。ある参加者が示した3ステップのアプローチが紹介されている。

  1. Quick Win(早期の小さな成功体験)でモチベーションを引き出す
  2. 変化のスピードを正直に伝える
  3. 体系的なトレーニングを導入する

これを「アメと鞭」のメッセージとして位置づけた。

メンタリングについても複数の意見が出た。「ベテランはプロセスや背景知識を持ち、若手は新技術への親和性が高い。この2つをつなぐことで成果が出ている」という声が上がり、世代間の対話を促す仕組みが有効だとされた。また「生活できる賃金を払ったうえでのインターンシップ」という表現も出ており、経営側がコスト削減の道具としてインターンを使うことへの自戒も滲む。AI導入を人件費削減の口実にするのではなく、人材育成の枠組みを再構築する好機として捉えるべきだという認識が、参加者の間で共有されていた。


業界全体の構造問題として

今回の発言が出たのは広告・マーケティング業界のイベントだが、この構図はソフトウェアエンジニアリングや他の知識集約型職種でも同様に起きている。エントリーレベルの仕事がAIに代替される→若手が実務経験を積む場がなくなる→将来の中堅・シニア人材が育たない、という問題は業界横断的な課題だ。

採用を止めるのは個々の企業にとって合理的な判断かもしれないが、業界全体では人材のパイプラインが細る。これは10年後に顕在化する問題であり、今の経営判断が将来のツケになる可能性を、複数の参加者が認識していたことは注目に値する。一方で、この問題を「危機」として認識し、業界として公にテーブルに乗せ始めたこと自体は、対応策を模索する上での第一歩ともいえる。

詳細は'Not hiring' entry-level talent: Industry acknowledges runaway crisis brought on by introducing AI to the workforceを参照していただきたい。