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Deep Dive

LeCunが提唱した「世界モデルAI」を7分野に拡張——物理法則を自ら発見し、がん治療候補まで導き出した「JEPA-Anything」とは何か

10月6日、The Decoderが「Researchers stretch LeCun's JEPA AI into a universal world model that works from physics to biology」と題した記事を公開した。モデルが天体軌道データだけからケプラーの第三法則を再発見し、AIが提案したがん治療候補が実際の湿式実験で単剤を上回る——そうした結果を報告するのが、今回取り上げる「JEPA-Anything」論文だ。Yann LeCunが提唱したJEPAアーキテクチャを7つの異なる分野に拡張した汎用ワールドモデルであり、その設計思想と評価結果を以下に紹介する。

10月6日、The Decoderが「Researchers stretch LeCun's JEPA AI into a universal world model that works from physics to biology」と題した記事を公開した。モデルが天体軌道データだけからケプラーの第三法則を再発見し、AIが提案したがん治療候補が実際の湿式実験で単剤を上回る——そうした結果を報告するのが、今回取り上げる「JEPA-Anything」論文だ。Yann LeCunが提唱したJEPAアーキテクチャを7つの異なる分野に拡張した汎用ワールドモデルであり、その設計思想と評価結果を以下に紹介する。


JEPAとは何か

JEPA(Joint-Embedding Predictive Architecture)は、MetaのYann LeCunが2022年に提唱したアーキテクチャだ。生成モデルのようにピクセル単位で画像を再構成するのではなく、「ある状態の抽象的な要約」を予測することで無関係な細部を捨てるのが特徴である。LeCunはこれを、LLMに代わるAIの方向性として位置づけている。

Metaは2025年6月にV-JEPA 2(12億パラメータ)を公開し、追加学習なしでロボットアームを制御することに成功。その後LeCun自身がLeJEPAを発表し、理論的な基盤を整備した(発表時期は元記事から明確に確認できないため断定を避ける)。LeCunは現在、自身のスタートアップAMI Labsを通じてこのアプローチを推進しており、10億ドル超の資金調達を実現していると報じられている(調達完了の具体的日付は元記事に記載なし。詳細はThe Decoderの関連報道を参照)。


単一予測の限界を破る「分割予測」

今回の論文JEPA-Anythingは、PhAI Labsを中心に、Stanford・Oxford・Princetonの研究者が参加した共同研究だ。

標準的なJEPAの問題点として論文が指摘するのは、すべての予測を1つのモジュールに集約する設計だ。結果として、学習しやすいパターンが難しいパターンを「押しつぶす」形になる。

JEPA-Anythingはこれを解消するため、予測する状態を4つの独立した要素に分解し、それぞれ独立したプレディクタが担当する(元記事原文では "four orthogonal components" に相当する表現が使われており、「直交」は各要素が互いに独立・非重複であることを意味する)。各モジュールには「異なる側面を捉えること」を促す制約が加えられており、最終的に部分予測を統合して完全な状態を再構成する。

特筆すべきは、各要素に人間が意味を割り当てない点だ。役割はトレーニング中に自然に分化する。研究チームが領域ごとに手を加えるのは、データの前処理方法のみである。


7分野での性能評価:最大50%近い誤差削減

同じアーキテクチャ・同じデータ・同じ条件で訓練した標準JEPAとの比較結果は以下の通りだ。

  • 流体力学(Burgers方程式):別評価で誤差が約50%減少。50ステップ予測でも優位性を維持(ただし約3%まで縮小)
  • Pong環境での動的予測:訓練済みの介入パターンで**35%、未知の組み合わせで13%**の誤差削減
  • 分子シミュレーション(水・石英・アセトアミノフェン・ベンゼン):100ステップ後もベースラインを上回る
  • 単一細胞データ:細胞タイプの分類精度が向上
  • 臨床データ:1,000種以上の疾患イベント予測でわずかながら改善
  • ロボット歩行シミュレーション:3環境中2つで勝利、1つでは標準JEPAが上回る
  • 画像タスク:DMCピクセルダイナミクスで0.4%の改善にとどまるなど差はごく小さい(元記事に具体数値の記載はこの値のみで、他の画像タスクの数値は元記事から確認できない)

物理系での改善が大きく、タスクによってばらつきがある。ロボット歩行で1環境では標準JEPAが上回るという正直な報告は、論文の誠実さを示すものとして評価できる。


最も踏み込んだ検証:肝臓がん治療候補の湿式実験

研究の中で最もインパクトのあるエピソードが、肝臓がん研究への応用だ。

チームはモデルが生物データ(遺伝子活性・タンパク質量・CRISPRスクリーン)から学習した部分予測を解析し、治療候補を抽出した。トップ候補はIL-18(免疫細胞を活性化するシグナル分子)とCD73阻害(腫瘍が免疫応答を抑制するために使う酵素のブロック)の組み合わせだった。

この仮説を実際に検証するため、チームは以下を実施した:

  • 免疫細胞と共培養した肝臓がん細胞
  • 患者3名それぞれから採取したオルガノイドと腫瘍組織
  • マウスを用いたin vivo実験

オルガノイドと腫瘍組織サンプルでは、IL-18単独またはCD73阻害単独よりも、組み合わせた場合のほうが多くの腫瘍細胞を死滅させ、T細胞とNK細胞の活性化も強かった。論文は「実際の治療法になり得るかは不明」と慎重な立場を崩していない。

なお、Google DeepMindも2025年10月にC2S-Scale 27BでAI生成のがん治療仮説を湿式実験で検証しており、同様のアプローチを取っている。


ケプラーの第三法則を「発見」

もう一つ印象的な検証がある。モデルを、物理量を一切与えずに天体の軌道シミュレーションで訓練したところ、学習された表現がケプラーの第三法則(軌道周波数 ∝ 軌道サイズ^−1.5)にほぼ一致した。モデルが導いた指数は−1.4991だった。

ただし、チームが評価したのは1回の訓練実行のみで、最も誤差が小さいものを選んでいる点は留意が必要だ。


今後の課題

論文の著者たちは、学習された表現がクリーンに分離されていることは、因果関係を捉えている証明にはならないと注意を促している。また、実験設計に使えるほど信頼性が担保されるタイミングも未解決の問題として残る。

チームの長期目標は、AIエージェントがJEPA-Anythingを使って実験を提案・優先順位付けし、結果をモデルにフィードバックするループの構築だ。コードとモデルウェイトは公開済みである。


詳細はResearchers stretch LeCun's JEPA AI into a universal world model that works from physics to biologyを参照していただきたい。