10月8日、The Next Webが「DoorDash's Tony Xu: AI agents will raise demand for human labour」と題した記事を公開した。DoorDash共同創業者兼CEOのTony Xuが、AIエージェントの普及が人間の労働需要を逆に押し上げるという逆説的な主張を展開し、ロボット・ドローン・人間の配達員を組み合わせたラストマイル戦略の全貌を語っている。
AIエージェントが増えるほど、人間の仕事も増える
AIが人間の仕事を奪うという議論が続く中、DoorDash CEOのTony Xuは真逆の見立てを示した。
Xuはイタリア・トリノで開催されたスタートアップ・テックイベント「Wave by Vento」に登壇し、「AIエージェントはすでにインターネット上で人間が行う作業数を上回っている可能性が高い」と述べた。その上で、エージェントが最も得意とするのは繰り返し依頼される日常タスクだと指摘した。
「最も有用なのは、買い物・食事・荷物の受け取りや返送など、物理的な要素を伴う日常の行動だ」
ここがポイントだ。AIが増えれば増えるほど、物理的な配送ネットワークと人間の労働力への需要も高まるというのがXuの主張である。
そのメカニズムはこうだ。AIエージェントは、ユーザーに代わって食料品の自動発注・日用品の補充・荷物の返送手配といったタスクを自律的に処理する。これまで「面倒だから後回し」にされていた物理的な注文が、エージェントによって自動・即時に発生するようになる。デジタル上の意思決定が増えれば増えるほど、それを実世界で完結させる配送インフラと人間の手が必要になる。デジタルの自動化が、リアルワールドの物流需要を生む構造だ。
DoorDashは2024年9月、Apple Messages上で動作する注文エージェントを欧州向けにリリースしている。AIエージェントが実際の配送注文を処理するユースケースは、すでに現実のものになっている。
ロボット・ドローン・人間Dasherの使い分け
DoorDashは自律配送の分野でも積極的に動いている。同社が採用するのは、単一技術への賭けではなく、複数の配送手段を状況に応じて使い分けるハイブリッドアプローチだ。
- Dotロボット:路上・自転車レーン・歩道を走行可能な地上型自律配送ロボット。Xuは「このカテゴリの自律走行車として、商業規模での実運用を達成した初の事例」と説明しており、同一カテゴリ内での先行事例という文脈での発言である。現在フェニックスで稼働中で、数万人の顧客への配送実績がある。
- ドローン:2024年9月に独自ドローンシステムを発表。アイルランドのManna社と連携し、航空配送の実用化を進めている。
- 人間のDasher:DoorDashの配達員(Dasher)は引き続き中核を担う。人間とロボットが1つのルートを分担するケースも存在し、完全な代替ではなく協調関係に置かれている。
Xuが「最も重要」と位置づけるのは、それらを統合して制御するプラットフォームだ。各注文ごとに、地上ロボット・ドローン・人間のどれを使うかをシステムがリアルタイムで判断する。
「顧客は技術などどうでもいい。注文したものが届きさえすればいい」
自律配送の構築は「3〜5社分の会社を同時に作るようなもの」とXuは言う。ソフトウェア・ハードウェア・規制対応・許可取得・オペレーション、そしてビークルの故障対応まで必要になる。なお、英国のDeliverooも同週月曜日に5都市でのロボット配送を開始しており、業界全体でロボット配送の実用化が加速していることがわかる。
ローカルビジネスの支援が原点
DoorDashの目的は、当初からフードデリバリーではなかったとXuは語る。中国から米国に渡った母親のような地元の中小事業者を支援することが原点だという。
2013年当時、米国のレストランでデリバリーを提供していたのはごくわずかだった。Xuと共同創業者たちはパロアルトで自分たちの車を使い、最初の数百件の配送を自ら行った。Y Combinatorへの申請書には「7年目に売上1億ドル」と書いたが、Xu本人は「でたらめな数字だった。実際は数桁違った」と明かす。Y Combinatorは、DropboxやAirbnbなどを輩出した米国を代表するスタートアップアクセラレーターであり、DoorDashもその卒業生の一社だ。
初期の泥臭い現場経験が、後の「物理的なラストマイルを制する者がすべてを制する」という経営哲学につながっていると見ることができる。
40カ国展開で直面した課題
DoorDashは現在40カ国で展開しているが、Xuは「各国を白紙から学び直した」と言う。ローマ・トリノ・ロンドンのような都市はグリッド状の道路ではなく、住宅も密集し、小規模な家族経営の店が多い。米国と同じアプローチは通用しない。
各市場で異なる交通インフラ・規制・商習慣に対応するためには、単なるサービスの横展開ではなく、オペレーションモデルそのものを現地に合わせて再設計する必要があるとXuは強調する。こうした地道な現地化の積み重ねが、グローバル展開の実態だという。
5年後のビジョンとして、Xuは「あらゆるものを届けられるラストマイルネットワーク」を挙げた。各都市には数千万点の商品があるが、それがどこにあるかを把握したデジタルサービスはまだ存在しない、とも述べた。
低マージンビジネスの規律
DoorDashの取締役でアマゾン元上級副社長のDiego Piacentiniは、DoorDashの収益管理について「マージンをベーシスポイント(bps)単位で管理している」と述べた。ベーシスポイントとは0.01%を1単位とする金融・事業指標の表現であり、それほど微細な粒度でコストを管理しているという意味だ。低マージンのビジネスを構築することは非常に難しく、細部への注意と無駄の排除が不可欠だという。
デリバリーというビジネスは構造的に薄利であり、規模の拡大と効率化の両立なしには成立しない。Xuが語るロボット・AI・人間の組み合わせは、そのマージン課題への回答でもある。
詳細はDoorDash's Tony Xu: AI agents will raise demand for human labourを参照していただきたい。




