10月7日、OpenAIが「Radisson Hotel Group brings hotel discovery into ChatGPT」と題した記事を公開した。Radisson Hotel GroupがChatGPTプラグインと広告を組み合わせてホテル予約の新たな集客チャネルを構築し、オーガニック検索比約1.5倍の予約転換率を達成した取り組みの詳細が明かされている。AIが旅行者との接点を変えつつある今、その具体的な実装と成果は業界全体にとって示唆深い。
ChatGPTプラグインで予約転換率1.5倍
旅行者がホテルを探す行動は変わりつつある。ホテルの公式サイトを訪れる前に、AIとの会話の中で候補を絞り込み、旅程を組み立ててしまうケースが増えている。Radisson Hotel Groupはこの変化をビジネスチャンスとして捉え、Accenture Songとの協業を通じてChatGPTプラグインを開発・展開した。
このプラグインが実現する体験はシンプルだ。ユーザーがChatGPT上で旅行先について質問すると、地図上でRadissonホテルの候補が表示され、価格比較やアメニティの詳細確認をそのまま会話の中でできる。気に入ったホテルが見つかれば、Radissonの公式サイトに遷移して予約を完了する。
2026年7〜8月の早期データによれば、このプラグイン経由の訪問から予約への転換率は、Radissonのオーガニック検索比で約1.5倍を記録した。「旅行者がホテルを選ぶ会話から、直接予約チャネルへの経路を作れた」というのが同社の評価だ。
開発期間はわずか6週間
技術的な観点で特筆すべきは、プラグインの開発・リリースに要した期間がわずか6週間という点だ。Accenture SongはOpenAIのパートナーネットワークにElite Partnerとして参加しており、ChatGPT上での有機的なプレゼンス獲得の戦略をOpenAIと共同で検討する中からプラグインというアイデアが生まれた。
「地図、ホテルの詳細、価格情報を最もシンプルな形でChatGPTに組み込みたかった」とAccenture Songのデータ&AIリード、Borja Lizarraga Rodríguezは語る。開発にはエージェンティック開発(AIエージェントを活用したソフトウェア開発手法)が用いられた。
インフラ面でも設計の意図が見える。Accentureが構築したMCPサーバーとAPIは、プラグインだけでなく後述の広告体験にも流用されており、今後追加される機能の基盤としても機能する設計になっている。単一用途で終わらせない再利用可能な構造を最初から意識して設計した点は、エンジニアリング観点から参考になる。
ChatGPTの仕様変更も追い風となっている。以前はプラグインを呼び出すために「@RadissonHotels」と明示的に入力する必要があったが、アップデートによりプラグインをインストール済みのユーザーには自動的に表示されるようになった。「マドリードへの旅行を計画しているだけで、自動的にRadissonの候補が出るようになった」とAccentureのBrittny Cantorは説明する。
プラグインと広告の一体運用
Radissonの戦略はプラグイン単体にとどまらない。ChatGPT上でのスポンサー広告も並行して展開しており、ホスピタリティ業界の先行事例となっている。
ChatGPTのスポンサー広告はOpenAIが展開する広告プログラムで、Radissonは7月のローンチ以降、欧州を中心に複数市場へキャンペーンを拡大している(OpenAIの広告プログラム自体は2024年に開始されており、本件はその延長線上にある取り組みだ)。注目すべき指標として、キャンペーンで記録されたチェックアウトおよび予約イベントの半数以上が「ビュースルー計測」によって帰属された点が挙げられる。ビュースルー計測とは、広告を直接クリックせずとも広告を「見た」ことによる影響を測定する手法で、クリック計測だけでは捉えられない広告の間接的な効果を可視化する。
Radisson Hotel Groupはファミリーブランドとして10のホテルブランドを傘下に持ち、EEMAおよびAPAC地域で1,640以上のホテルを運営・開発中だ。同グループのグローバルEコマース担当バイスプレジデント、Velit Dundarは「旅が始まる場所がどこであれ、Radissonを信頼できるアドバイザーとして認識してもらい、直接予約チャネルに誘導したい」と述べている。
今後の展開と業界への示唆
Radissonの次の優先事項は、プラグインの採用促進とChatGPT体験内での機能追加だ。ホテル予約の接点をAIアシスタント上に持つことで、単なるホテルチェーンを超えて「旅行全体のアドバイザー」としてのポジションを確立する意図が伺える。
より広い文脈で見ると、本件が示す構造的な変化は旅行業界にとどまらない。これまでGoogle検索やOTA(オンライン旅行代理店)が担ってきた「旅行者との最初の接点」が、AIアシスタントへとシフトしつつあることを、今回の転換率データは数字で裏付けている。Expedia、Booking.comといった既存OTAもAIエージェント連携への対応を進めており、直接予約チャネルを持つホテルブランドがAIプラットフォーム上でいかに早く存在感を確立するかが、今後の競争軸の一つになりそうだ。
日本市場においても、インバウンド需要の回復と旅行者のAI活用増加を踏まえれば、同様のアプローチが有効になり得る局面は近い。6週間・MCPサーバー活用という実装コストの低さは、国内ホテルチェーンにとっても参入障壁が低い点として注目に値する。
※編集部の考察:OTA依存からの脱却を目指すホテルブランドにとって、AIプラットフォームは直接予約チャネルの新たな入口になり得る。ただし、プラグインの自動表示はインストール済みユーザーに限られるため、プラグイン普及率の向上が次の課題となるだろう。
詳細はRadisson Hotel Group brings hotel discovery into ChatGPTを参照していただきたい。




