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Deep Dive

ロシアが偽シンクタンクとChatGPTで研究者を知らぬ間に工作員に — 史上最大規模のAIインフルエンス工作「Dark Clark」の全貌

10月9日、Inside AI Newsが「Russian AI Operation Co-Opts Unwitting Researchers in First Category 5 Influence Campaign」と題した記事を公開した。この記事では、ロシアが ChatGPT を活用した偽シンクタンクを2年以上運営し、ラテンアメリカの研究者を気づかせないまま工作活動に利用した「史上初のCategory 5インフルエンス工作」の全容について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。

10月9日、Inside AI Newsが「Russian AI Operation Co-Opts Unwitting Researchers in First Category 5 Influence Campaign」と題した記事を公開した。この記事では、ロシアが ChatGPT を活用した偽シンクタンクを2年以上運営し、ラテンアメリカの研究者を気づかせないまま工作活動に利用した「史上初のCategory 5インフルエンス工作」の全容について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。


「Category 5」とは何か

IO Breakout Scale(インフルエンス工作の影響度を評価するスケール)において、今回の工作「Dark Clark」は史上初めてCategory 5に到達した。2024年初頭から2026年半ばにかけて少なくとも2年以上稼働し続け、ペルー・ポーランド・エクアドル・ボリビアの主要メディアへのコンテンツ掲載に成功。複数国で政府が公式否定声明を出すほどの実害を生じさせた。

過去のロシア系インフルエンス工作の多くはSNSを主戦場としてきたが、Dark Clarkはその手口を大きく変えた。既存のニュースメディアへの記事掲載を主軸に据え、SNSではなく「本物のメディア」を通じた情報拡散に成功した点が、これまでの工作との最大の違いである。


気づかない研究者たちが「信頼性」を作り上げた

工作の核心にあるのが、SRC(Social Research Center)という偽シンクタンクだ。表向きはラテンアメリカのインド系移民問題を研究するプラットフォームとして機能していた。

ロシア側のオペレーターは「Mia Clark」という架空のペルソナを通じてSRCを裏から操り、ラテンアメリカ在住の研究者を実際に雇用・解雇・報酬支払いまで行った。重要なのは、雇われた研究者たちはロシア系組織のために働いているとは露知らず、誠実に調査・執筆活動を続けていた点だ。

研究者たちは地域の専門家にインタビューを行い、BRICS世論やブラジル歴代大統領の経済政策比較など、本物の研究論文を執筆した。SRCウェブサイトには60本以上のオリジナル記事が確認されており、これは剽窃コンテンツに頼っていた過去のロシア系偽シンクタンクと明確に異なる。

この手口は、2020年にMetaが摘発した「PeaceData」作戦と酷似している。同作戦でも、知らないまま工作に加担したジャーナリストが使われていた。両作戦は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者である故エフゲニー・プリゴジンが設立した組織との関連が指摘されている。


ChatGPTをどう使ったか

オペレーターはロシア国内からVPNを経由してChatGPTにアクセスした(ロシアではChatGPTは利用不可)。プロンプトは主にロシア語で入力され、一部スペイン語も使用された。ChatGPTの主な用途は次の3つだ。

  • 内部報告書の草稿作成
  • 偽造文書の生成・整形(後述のエクアドルの偽契約書など)
  • ラテンアメリカ向けコンテンツの翻訳・校正

内部報告書によると、工作のテーマはウクライナの信頼失墜と徴兵妨害、ボリビア・アルゼンチンの政治介入、SRCの運営管理の3本柱だった。


実際に起きたこと

最も具体的な被害として報告されているのが、ペルーの学校行事への介入だ。オペレーターはペルー地域教育局を騙る偽メールアドレスを作成し、学校に対して「文化・言語多様性の日」にウクライナの民族主義者ステパン・バンデラを称える行事を開くよう指示。一部の学校が応じ、写真まで送ってきたと報告されている。その後、この「事実」はペルー・ポーランド・ハンガリーのメディアで報道され、ポーランドの欧州議会議員が「反ポーランド的言動者を外国人追放処分にすべき」と提案するまで発展した。

エクアドルでは、学校にノボア大統領と元ブラックウォーター代表のエリック・プリンスへの忠誠誓約式を行わせたと主張。エクアドル教育大臣が公式に反論声明を出した。

ボリビアでは反政府抗議運動(2026年5月)の最中、「ラパスへの水供給を政府が遮断する」という偽音声を拡散。国営水道会社EPSASが公式否定声明を発表した。


「成果の詐称」という構造的問題

一方で報告書は、オペレーター自身の「成果申告」を額面通りに受け取れないとも指摘する。彼らはアルゼンチン政府の長年の公式立場(フォークランド諸島問題)や、ブラジルのメディア報道を「自分たちの成果」として自己申告していたが、実際には無関係だった。

これはオペレーター自身が雇用主(ロシア側の上位組織)に対して成果を誇示しようとする構造的なインセンティブの歪みを示している、と報告書は分析している。


イランも同様の手口を展開

同報告書は、イランによる「Bogus Bylines」作戦も同時に公開している。「Ervin B. Hoskins」「Sophia Gonzalez」など7つの架空ジャーナリスト・ペルソナが、中小オンラインメディアに長文記事を投稿。約12媒体に100本近い記事が掲載または転載された。最大の掲載先はFacebookフォロワー約200万人を持つメディアだった。

米イラン紛争勃発後に掲載頻度が急増しており、時事に合わせたオペレーションの柔軟性が確認されている。


教訓

2024年初頭以降に摘発された30件のインフルエンス工作を分析した結果、「偽SNSアカウントによる拡散」よりも「実在するメディアへのコンテンツ掲載」を達成した工作の方が、はるかに高い潜在的リーチと影響力を持つことが確認された。AIは規模・効率・言語的自然さの面で、従来の工作技術を底上げする道具として機能している。

詳細はRussian AI Operation Co-Opts Unwitting Researchers in First Category 5 Influence Campaignを参照していただきたい。