10月8日、Tim Murphyが「Zapier explores extra pay for employees driving AI gains」と題した記事を公開した。ZapierがAIで業務価値を創出した従業員に追加報酬を与える試験的な制度を検討していること、およびその設計上の課題について詳しく紹介されている。
AIで「2人分の仕事」をこなした社員が報酬を要求した
発端は一人のZapier社員の行動だ。その社員はAIを活用して、本来なら2つのポジションを採用しなければこなせなかった業務を自動化した。そして採用枠を返上し、「その分のコスト削減分を自分に還元してほしい」と申し出た。
マーケティング担当者からも同様の声が上がっている。AIを使って新規見込み客を発掘・獲得できるようになったことで、「生み出したパイプラインに応じた報酬が欲しい」という要求だ。
ZapierのCMOであるDan Slagenは、GAI World 2026(企業向けAI活用をテーマとするカンファレンス)のパネルでこの状況を説明した。彼は「今や、マーケティングチームのメンバーが、AIによって効率的に創出できるようになったパイプラインの一定割合を求めている」と述べた。
面白いのは、同じ成果に対して支払い主体が変わると社内の反応が一変する点だ。Slagenは次のように語った。
"外部ベンダーや外部ツールに1,000万ドルのパイプラインを生んでもらうために10万ドル払うのは即断できる。でも、それが『人間(社員)からの要求』になった瞬間、財務部門が一斉にアラームを鳴らし始める"
この非対称性は、多くの企業が直面する本質的な問題を指している。
3〜6ヶ月のパイロットで何を検証するか
Zapierは3〜6ヶ月のパイロットプログラムを立ち上げ、選ばれたマーケターに「獲得した適格パイプライン(qualified pipeline)」に基づいて報酬を支払う仕組みをテストする予定だ。
「適格パイプライン」とは、セールスチームが実際に追いかける価値があると判断された商談機会のことで、単なるリスト収集や初期接触とは区別される概念だ。要するに「量より質」の見込み客獲得を指しており、マーケティング成果の評価指標として広く使われる。
最大の課題は「誰の功績か」の判定だ。新規の見込み客をゼロから開拓した場合は判断しやすいが、既存のデータベースに存在していた企業への再アプローチや、営業チームとの共同案件では帰属が複雑になる。Zapierは当面ケースバイケースで判断しながら、その積み重ねからルールを学習させていく方針をとる。
また、採用不要にした業績に対する評価についても検討中だ。AIによって追加採用を回避できた場合、業績評価や賞与にその貢献を反映させる仕組みを模索している。
「AIを使ったこと」ではなく「生み出した価値」に報酬を
Strategic Horizon ResearchのファウンダーでプリンシパルアナリストのManish Jainは、この動きを広い視点で整理している。成果に連動した報酬制度自体は目新しいものではなく、ITチームや製品エンジニアリングチームが以前から求めてきたものだ。ただし、AIによって1人が大規模チーム相当のアウトプットを出せるようになった今、その価値をどう分配するかというスケールが変わったと彼は指摘する。
"より重要な問いは、AIによって1人の社員が大規模チームと同等の成果を出せるようになったとき、その価値を誰が取るのか、だ"
Jainはさらに重要な区別を示している。一時的な生産性向上と、他者が再利用できるAIワークフローの構築は別物だ。後者には、その仕組みを文書化し、ナレッジを移転し、組織内で再現・維持できる状態にするところまで含めて初めて報酬に値する、と彼は述べる。
ここを怠ると、特定の社員だけが仕組みを知っている状態になる。
"その手順を省くと最悪の事態になる。特定のAIソリューションがどう動いているかを知っているのが1人だけという状況を避けるため、その人に居続けてもらうために金を払い続けることになる"
開示を促すインセンティブとしての報酬
もう一つ見落とせない観点がある。FreshworksのシニアソリューションエンジニアリングマネージャーのJeremy Minicは、社員がAIによる効率化を開示することを恐れていると指摘した。自分の仕事が不要になると思われたくないからだ。
適切な報酬設計は、この問題の解決策にもなり得る。AIの活用を正直に報告することが自分の利益になるなら、社員は隠さなくなる。Jainも「貢献を認めることで、社員がAIをオープンかつ責任ある形で使うよう促せる」と述べており、結果として企業側のAI活用の可視性も高まる。
評価の軸としてJainが推奨するのは、測定可能な価値・戦略的重要性・再現性の3点だ。報酬の形は金銭的な追加報酬に限らず、キャリアアップや社内表彰なども含まれる。
詳細はZapier explores extra pay for employees driving AI gainsを参照していただきたい。




