10月7日、Euronewsが「Laws, pledges or an iron grip? How the EU, US and China are reining in AI」と題した記事を公開した。法律か、自主的な約束か、それとも鉄の支配か——AIを「手なずける」手段として、EU・米国・中国はそれぞれ根本的に異なる道を選んでいる。
AIの危険性に対する懸念は世界共通だ。AIを悪用したサイバー攻撃、国家安全保障への脅威、そして子どもの自殺との関連が指摘されたAIチャットボット——こうした問題への意識は各国で共有されている。しかし、その「答え方」は三者三様だ。
EU:拘束力ある法律、ただし業界圧力で後退も
EUは2024年にAI法(AI Act)を採択した。ブリュッセルが「世界初の包括的なAI規制」と呼ぶこの法律は、AIシステムを4段階のリスクフレームワークで分類する。リスクが低いもの(ゲーム要素やスパムフィルターなど)は自由に運用できる一方、社会スコアリング・感情認識・操作を行うシステムは全面禁止となる。
なお、EU AI Actは段階的に適用が進む構造であり、禁止規定は2025年2月に先行発効、汎用AI(GPAI)に関する規定は2025年8月に適用、高リスクシステム向けの規定は2026年以降に本格施行される予定だ。
ただし、この法律には早くも綻びが見えている。米中に遅れをとることを恐れた欧州企業が強力なロビー活動を展開した結果、「AIオムニバス法案」(複数のデジタル政策を束ねた包括的改正法案)の一環として、高リスクシステムに関する規則の施行が延期された。EU選挙後の欧州委員会の右傾化もこの流れを後押しした。
規制の枠組みはAI法だけではない。2025年8月にはChatGPTが、EUのデジタルサービス法(DSA)における「超大規模デジタルサービス」リストに初めて追加されたAIチャットボットとなった。DSAはAI法とは別個の法律であり、プラットフォームの透明性・有害コンテンツ対処義務・広告開示などを規定するもので、月間利用者数4500万人以上のサービスに厳格な義務が課される。ChatGPTがこのリストに加わったことで、AIチャットボットもSNSやEC大手と同等の説明責任を求められる時代に入った。
また、子どもとAIの関係についても規制強化が進んでいる。EUは「EU子どもへの影響法(EU Kids Act)」を提案し、感情的依存を生み出すようなAIチャットボットの設計を禁じる方向で動いている。世界各地で子どものAI依存に起因するとされる自殺事案が相次いだことが背景にある。
米国:自主規制と大統領令で「AI boom」を維持
トランプ大統領は2期目の就任初日、バイデン前政権が2023年に発令した大統領令——強力なAIシステムの開発者に安全テスト結果の政府への共有を義務付けたもの——を廃止した。
その後の政策は、自主的な業界の約束事と大統領令の組み合わせで構成されている。2025年7月に公表された「AIアクションプラン」は、開発加速・インフラ投資・規制緩和に向けた90以上の施策を列挙した。
セキュリティ面では、2026年6月の大統領令により、開発者が最強クラスのモデルを政府に対して最大30日間、事前アクセス提供できる任意の仕組みが設けられた。さらに9月29日には、米国の主要AI企業6社の首脳が、最先端モデルへの独立した監査と取締役会レベルの監督を約束するホワイトハウス合意に署名した。ただしこの合意には違反時のペナルティは一切ない。トランプ大統領は「道義的拘束力がある」と述べたにとどまる。
議会は政治的分断とビッグテックのロビー活動により、連邦レベルのAI法を未だ成立させていない。トランプ政権は州のAI法を阻止しようとしているが、カリフォルニア州のAI透明性法など州法は各地で施行が進んでいる。
経済的な文脈も重要だ。ピーターソン国際経済研究所によると、AIインフラと投資は現在、米国全体の経済成長の約5分の1から3分の1を占める。2026年の米国成長率2.1〜2.3%のうち、0.45〜0.97ポイントがAI関連だ。
なお、大統領令で連邦機関に対して「人工知能(artificial intelligence)」という語を公式文書で「超知能(super intelligence)」に置き換えるよう指示したのは、トランプ政権の象徴的な一手である。
中国:「常に人間の管理下に」、ただし減速は拒否
中国はすでに複数の法規制からなるAI統治体系を持つ。ディープフェイク規制(2022年)、アルゴリズム推薦規制(2022年)、生成AIサービス規制(2023年)と段階的に整備が進んでおり、2025年7月にはAIコンパニオンチャットボットに関する規制が新たに施行された。感情的依存の抑制と、本人の同意なき「デジタルクローン」生成の禁止が定められており、EUの「EU Kids Act」とも問題意識を共有する規制だ。
習近平国家主席はこの夏、AIは「常に人間の管理下に置かれるべきだ」と発言し、李強首相も、政府の対応が遅れれば世界はAIの「制御を失うリスク」があると警告した。国家安全部の陳一新部長も「敵対勢力がAIを悪用して政治的デマを広めている」と警鐘を鳴らしており、国家安全保障の観点がAI規制の根幹に位置づけられている。
AI生成コンテンツはオンライン情報と同様に検閲・統制の対象であり、国内向けサービスには党の価値観への準拠が事実上義務付けられている。
ただし、中国政府が開発の意図的な停止や減速を政策の主流にすることはない、とオックスフォード大学の中国政策研究グループは2025年9月に分析している。米国の輸出規制によって中国のAI開発がすでに制約されているという認識が背景にあり、「規制しながらも競争から降りない」という姿勢はEU・米国とも通底する部分がある。中国のアプローチをEUや米国と対称的に評価するうえで、この「管理と競争の両立」という構図を見落とすべきではない。
三者を比較すると、EUは法的枠組み先行(ただし後退気味)、米国は経済優先の自主規制、中国は国家管理下での開発継続という構図が浮かび上がる。規制の設計思想の違いが、AI開発の速度・方向性・国際競争力にどう影響するかは、引き続き注視が必要な問題だ。
詳細はLaws, pledges or an iron grip? How the EU, US and China are reining in AIを参照していただきたい。




