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Deep Dive

「AIは全員に配るな」——高パフォーマンス人材だけに絞るPaysend CEOの逆張り戦略、生産性25%向上の裏側

10月17日、CNBCが「Some companies give AI to everyone. This CEO is doing the opposite」と題した記事を公開した。AIツールへのアクセスを高パフォーマンス人材に限定するというPaysend CEOの逆張り戦略と、全社展開を選んだ企業の事例を対比しながら、AI導入の実態に迫った内容だ。

10月17日、CNBCが「Some companies give AI to everyone. This CEO is doing the opposite」と題した記事を公開した。AIツールへのアクセスを高パフォーマンス人材に限定するというPaysend CEOの逆張り戦略と、全社展開を選んだ企業の事例を対比しながら、AI導入の実態に迫った内容だ。


「AIは全員に配るな」——Paysend CEOの方針

ロンドン拠点の決済テクノロジー企業Paysendでは、AIツールへのアクセスは「与えられるもの」ではなく「獲得するもの」だ。

CEO Ben Chisellは、AIを最高パフォーマンスの社員にのみ解放している。しかも多くの場合、まずツールなしで成果を証明させてから、だ。Amazon、eBay、Starling Bankでの経験を持つChisellは、AIによって同規模チームでエンジニアリング作業量を約25%増加できていると試算しつつも、「全員に最新ツールを配れば成果が出る」という考えを明確に否定する。

I know it sounds very unglamorous and unsexy as an approach given the world of tokenmaxxing and AI, but I think it's really, really important

— Ben Chisell, Paysend CEO

ChisellがAIを絞る理由は明快である。AIは悪い習慣——怠惰さや判断力の欠如——を増幅する、と彼は言う。間違った人間の手に渡れば、ツールは生産性ではなくノイズを増やすだけになる。

なお「tokenmaxxing」とは、AIに与えるコンテキスト(トークン)を最大化することで出力品質を上げようとする手法・思想を指す業界スラングであり、AI活用が盛んな現場では広く使われる概念だ。引用中でChisellがこの言葉を用いているのは、そうした「AIを最大限活用すべし」という風潮を意識したうえで、あえて異を唱えている文脈である。


「1ヶ月で証明せよ」——測定ファーストの導入プロセス

Paysendでは、新入社員に1ヶ月間AIツールを試用させ、何を達成したかを報告させるというプロセスを設けている。

この方針が実際に機能した事例として、記事ではあるSEO担当者の話が紹介されている。彼はClaudeへのアクセスを要求し、1ヶ月後にChisellへこう報告した——「もうClaudeは要らない。ブリーフ作成が少し速くなっただけだった」。その代わりに彼が提案したのは、専用のコンテンツブリーフ生成エージェントの内製だ。汎用AIではなく、自分の業務に特化したツールを自ら設計する方向に動いた。

これは単なる「AIを使わせない」ではなく、「本当に必要なものを見極めさせる」というプロセス設計だ。


全員展開派の現実——数字の裏側

一方、全社展開を選んだ企業も多い。

  • Lloyds Banking Group:Microsoft 365 Copilotを4万ライセンス展開、保有者の97%がアクティブ利用
  • Sage:AIコーディングツールで数十万時間の作業時間を削減
  • Grant Thornton UK:5億ポンド(約660億円、記事執筆時点のレートによる換算)のAI投資の一環として、全スタッフにAnthropicのClaudeを導入

こうした積極展開の一方で、投資が売上に直結するかは別問題だ。英国政府が2026年1月に公開したAI Adoption Researchによれば、AIを活用する企業の75%が生産性向上を実感している一方、77%は売上に変化がないと回答している。「生産性の実感」と「業績への貢献」の間には依然として大きな乖離がある。この調査結果は、全員展開派の事例を読む際の重要な背景として押さえておきたい。

企業向けソフトウェア会社CoreViewのCEO Simon Azzopardi(ロンドン拠点)は、当初エンジニア全員へのAI展開を「かなり積極的に」進めたと振り返る。ログ・イベント・データの相関分析、技術ドキュメントの自動生成、新人オンボーディングの高速化などに活用し、現在は開発者がバックエンド・フロントエンドのコーディング、QA、ドキュメント作成を担うAIエージェントチームを指揮するフェーズに移行している。以前は数週間かかっていた作業が数日で完了するようになったという。

しかし同氏は警告も発している。

You feel more efficient, but you actually aren't

— Simon Azzopardi, CoreView CEO

AIが生成したアウトプットも、それが担当者の専門外の領域で使われていれば、生産性には直結しない、という指摘だ。


自動化後の人材をどう動かすか

AIが既存業務を代替していく中で、その業務を担っていた社員はどこへ向かうのか。Chisellの立場は明確だ——代替するのではなく、新しい役割に移行させることが企業の成長につながる。

例えばカスタマーサービス担当者は、長年にわたって複雑な問題を解決してきた経験を持つ。その判断力や対人スキルはビジネス全体で価値を持つ、と彼は言う。

そして彼が強調するのが、「ループの中の人間」という概念の再定義だ。

Having a human in the loop shouldn't mean human CC'd. It should mean human ownership.

— Ben Chisell, Paysend CEO

AIの出力結果をただ承認するだけの存在ではなく、責任を持ってプロセスを所有する人間であるべき——という考え方だ。組織のAI活用を設計するエンジニアやマネージャーにとって、この視点は実装レベルにも影響する問いかけでもある。


詳細はSome companies give AI to everyone. This CEO is doing the oppositeを参照していただきたい。