AIで工数が減れば、売上も減るのか。この問いにSHIFTは「NO」と答える。同社が提供しているのは工数そのものではなく、「モダナイゼーションをやり切り、事業を改革するという価値」と「任せられる安心」だからだ。ではその事業に貢献し、正当な評価として高い年収を得るエンジニアとはどういう人材なのか。AI Professionals編集長の白石俊平が、SHIFTでAIモダナイゼーション事業を担う佐藤章太朗氏・江口昌宏氏に、AI時代に淘汰される人・評価される人の分かれ目を聞いた。
AIで工数が減っても売上が減らない理由
白石:AIで工数が減れば、その分だけ売上も減ってしまうのではないか、という不安が業界にはあると思います。SHIFTは、そこをどう捉えているのでしょうか。
SHIFT 佐藤章太朗(佐藤)氏:よくご心配いただく点です。確かにAIを使うと、人月の工数はぐっと減りますが、その代わりに開発スピードが圧倒的に向上します。
私たちはお客様に、「AIを使う場合」と「使わない場合」の見積もりを、並べてお見せしています。
たとえば「AIを活用しない場合に2億円規模と試算される開発が、対象工程や条件を限定することで2000万円規模になるケースもあります。ただし、すべての案件でコストが10分の1になるという意味ではありません 」といった形です。「ほかのベンダーさんとも比べてみてください」と、ファンクションポイント法など見積もりの根拠とともにお出しして選んでいただいています。ただ、これはあくまで単純な見積もりの話です。
[脚注]ファンクションポイント法:システムの機能量を数値化し、開発規模やコストを見積もる代表的な手法
白石:工数が10分の1になっても、値づけそのものは工数と連動させない、ということですか。
佐藤氏:はい、工数と価値は切り離して考えています。たとえば車検は、自分で運輸支局へ持ち込めば費用を抑えられます。それでも多くの人がディーラーに依頼するのは、手間だけでなく、安全性や確実性まで含めて任せられるからです。システム開発も同じで、お客様が対価を払うのは作業時間だけではありません。事業要件を理解し、リスクを引き受け、成果が出るところまでやり切ることに価値があります
私たちが提供しているのは、単なる工数ではありません。「第一級のアーキテクトやPM(プロジェクトマネージャー)が、お客様の事業変革をスピーディーに実現する」という価値です。AIを使って工数が圧縮されたからといって、「アーキテクトやPMが最後まで確実にやり切る」という価値の重みは変わりません。だからこそ、そこにはしっかりと対価をいただいています。
アーキテクトやPMにとっては、プロジェクトを完遂することが、そのまま自身の報酬に直結します。 お客様のビジネスを真に成功させることがお客様自身の価値となり、同時に私たちにとっても価値になります。そうすれば、誰も損をしません。「大手に在籍していること」が評価されるのではなく、プロジェクトに本当に貢献した人が報われる仕組みを作ることで、多重下請けのSIモデルを壊していきたいと考えています。
「コードを書くだけ」では、生き残れない
白石:AI時代、自分がどこを目指せばいいのか迷うエンジニアは多いと思います。江口さんは、どうご覧になっていますか。
SHIFT 江口昌宏(江口)氏:AIによって、「コードを書くこと」だけを価値として提供する仕事は確実に減っていきます。一方で、コードを読み、設計し、品質や保守性を判断する力まで不要になるわけではありません。実装だけを強みにしてきたエンジニアには、顧客課題の理解や設計、検証まで役割を広げることが求められています。そこだけを強みにしてきた人は、すでに淘汰され始めていると思っています。
白石:ずいぶん強い言葉ですが、「淘汰される」とまで言い切ってしまっていいのですか。
江口氏:はい。ただ、私はむしろ逆の実感も持っているんです。それは、エンジニアがいままで培ってきた経験や知見が、AIによってさらに大きな価値を生むという側面です。経験豊かな人がAIを使えば作業スピードは速くなり、より高次元な価値提供に集中できるようになります。**淘汰が始まっている一方で、経験豊富なエンジニアにとっては"ボーナスタイム"**でもあるのです。
白石:淘汰される人がいる一方で、経験がむしろ武器になる。その2つは矛盾しないのですか。
江口氏:矛盾しません。いまは非エンジニアやビジネス側の人でも、AIで"なんとなく動くもの"は作れる時代です。しかし、それを安定運用し、継続的に維持・改修するには、要件、設計、セキュリティ、性能、障害対応まで見通す必要があります。AIだけで完結させるのはまだ難しく、システムの構造を理解するエンジニアの価値はむしろ高まっています。
白石:その主戦場で武器になるのは、何ですか。
江口氏:「コードを書く」ということは、あくまで手段でしかありません。そうではなく、「お客様が何を求めていて、どうすればそれを実現できるのか」を追求する力が求められています。
極端に言えば、新たに開発せずに課題を解決できるならそれでいいとも言えます。仕様を決め、要件の本質を掴み、お客様のビジネスを理解する——そこに仕事の重心を移さないと、生き残るのが本当に厳しい時代になっています。
白石:どうすれば、その力は身につきますか。
江口氏:逆説的ですが、「システムを作ること」自体に固執しないことです。お客様と自分の頭の中にある抽象的なイメージを、いかに正確に言語化していくか。曖昧な「実現したいもの」の輪郭をつかみ、具体的な仕様へと落とし込む。このプロセスを、日々少しずつ繰り返していくことでしか、この力は身につきません。
「進捗管理だけのPM」は、代替される
白石:「PMの年収3000万円」を掲げられていますが、それだけの価値を生むPMとはどのような存在なのでしょうか。
佐藤氏:進捗管理しかできないPMは、間違いなくAIに代替されるでしょうね。かつてIT業界は「3K」などと言われましたが、AIの活用によってそうした過酷さは確実に減り始めています。
一方で、開発プロジェクトでは、どうしても「泥臭くなんとかしなければいけない場面」が残ります。PMに求められるのは、単に進捗を追うことではありません。問題を早期に顕在化し、関係者の利害を調整し、選択肢とリスクを示して意思決定を前に進めることです。必要であれば計画や体制そのものを組み替え、最後まで成果に責任を持つ。AI時代にも必要とされるのは、そうしたPMだと考えています 。
白石:AIが「無理です」と言っても、それでもやりきるPMというわけですね。
佐藤氏:論理的に考えたら無理と思えることを突破するのが、最後に残る人間の役割だと思うんです。AIが示せる選択肢だけで完結する仕事なら、成果も「AIの想定内」にしかなりません。AIには踏み込めない領域に挑み、「何としてもやり遂げる」という強い責任感を持つPMこそが、これからの時代に圧倒的な価値を出していくと思います。そうした人間にしかできない仕事をするプロフェッショナルに対して、私たちは正当な報酬で報いたいと考えています。
白石:とはいえ、プロジェクトに関わる全員に「お客様と対話して要件定義もできて、高い技術力もあって、プロジェクト管理までこなせ」と求めるのは、少し酷な気もします。そのあたりは、どう整理しているのでしょうか。
佐藤氏:そこは、明確に役割を分けています。 PMは、顧客の意思決定を前に進め、関係者を束ね、成果が出るまでプロジェクト全体に責任を持つ人です。アーキテクトは、事業要件を技術要件へ変換し、実現性、拡張性、セキュリティ、運用性を踏まえて最適な設計を導く人です。そのため、両者が初期のヒアリングからペアで入り、専門性を補完しながら提案と実行を進めています。
江口氏:私自身、長時間労働で頑張るタイプではなく、自分の能力を正しく発揮してスマートに価値を出したいタイプなんです。SHIFTのように「万能型を求めず、自分の強みを発揮すれば評価される」という環境があるのは、現場としても非常にありがたいですね。
白石:要件定義やヒアリングはPMの役割かというイメージがありましたが、エンジニアであるアーキテクトがフロントに立つ理由は何でしょうか。
佐藤氏:重要なのは、顧客の事業要件、既存資産、移行リスク、将来の運用まで踏まえ、継続利用と刷新のどちらが合理的かを判断することです。その選択肢を技術的な根拠とともに提示できるのが、解像度の高いエンジニアやアーキテクトです 。だからこそ、当社ではアーキテクトがヒアリングの段階からフロントに立ちます。
建築で例えるなら、最先端のデザインを描くのがアーキテクトで、それを現場で安全に形にするゼネコンの役割がPMです。最初からこの両者がタッグを組んでヒアリングに臨むからこそ、最先端の設計案がブレずにそのまま実現できるわけです。
目指すのはFDEでもコンサルでもなく「愛」と「責任」がある人
白石:お話を伺うと、単なる高給エンジニア/PMと違うという印象を受けます。
佐藤氏:私たちが一番大切にしているのは「愛」と「責任」です。戦略や助言を示すだけでなく、お客様のビジネスを深く理解し、実装や定着、その先の成果まで当事者意識を持って一緒に走り切る。そうした姿勢で価値を生み出す人が、きちんと報われる世界を実現したいと考えています。
白石:FDEともまた違うわけですね。
佐藤氏:FDEを創出したPalantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ)は、自社のプラットフォームを基盤として、エンジニアが顧客先に常駐してプロセスを作り込み、業務変革を起こすというモデルです。彼らは高い収益性を持つプラットフォームがあるからこそ、そこに優秀な人材を投入して「顧客に効果を出すこと」で、ROI(投資対効果)を追求できるんですよ。
江口氏:「顧客先に入り込んで支援する」という外形から、FDEとSESが似たものとして語られることがあります。しかし、FDEは自社プロダクトを前提に、顧客の業務への実装、利用定着、成果創出まで担う役割です。一方、SESは技術者の役務提供を中心とする契約・提供形態であり、目的も収益構造も異なります 。Palantirはあくまで自社製品をお客様先にデプロイする会社なので、受託開発を中心とする日本の伝統的なSIともビジネスモデルが違いますね。
佐藤氏:私たちが目指しているのは、かつて国内SI業界で「野武士」と呼ばれたエンジニアの当事者意識を、AI時代に合わせて再定義することです。泥臭さや長時間労働を称賛したいわけではありません。AIで作業を効率化しながら、お客様の課題から逃げず、必要な意思決定と実行に最後まで責任を持つ。そうしたプロフェッショナルが、成果に見合う形で報われる事業をつくることが、私たちの挑戦です 。
白石:なるほど。AIによってコード生成や進捗管理が効率化されるほど、顧客の課題を定義し、技術と事業をつなぎ、成果に責任を持つ人の価値が高まる。その人材像と評価の考え方がよく分かりました。 次の機会は再び「技術的負債の解消」として、企業のレガシーシステムが経営に与えるインパクトや、モダナイゼーションの具体的アプローチについて詳しくお伺いしたいと思います。本日はありがとうございました。
(終)
プロフィール
佐藤 章太朗(さとう しょうたろう)
AIモダナイゼーション事業部 事業部長 兼 戦略営業統括部 統括部長
株式会社SHIFT
2015年5月にSHIFTへ入社。エンタープライズ分野での新規営業を経験したのち、金融・流通業界の営業責任者、新規営業組織の立ちあげ、グループ営業推進や、複数グループの会社の社外取締役などに従事。 その後営業戦略統括部 統括部長として、複数の新規ビジネスの立ちあげに取り組み、SaaSアカウントIT資産の一元管理ツール「ワスレナイ」では、ソリューション営業の責任者として、サービスリリース1.5年でマーケットシェアトップを獲得。 現在は、AIモダナイゼーション事業部 事業部長として、AI技術を活用した事業拡大と組織変革を牽引し、SHIFTの新たな成長領域を切り拓いている。
江口 昌宏(えぐち まさひろ)
AIモダナイゼーション事業部 AIモダナイゼーションサービス部 AIストラテジーグループ テクノロジーマネージャー
株式会社SHIFT
20代で独立系SIerにて受託開発を経験後、30代の約10年間はフリーランスPMとして活躍。 40歳を機に組織だからできる仕事と裁量を求め正社員へ転向。LINEでのバックエンドエンジニア、AWSのソリューションアーキテクト、総合商社の子会社である医療系スタートアップで開発部長を歴任。 2025年11月SHIFTに入社。現在はAIモダナイゼーション事業部にて、ストラテジックアーキテクトを務める。
聞き手:
白石 俊平(しらいし しゅんぺい)
編集長
AI Professionals
Hajimari株式会社 シニアプロダクトマネージャー。 AI Professionals編集長として、AIエンジニア・テックリーダー向けメディアを運営。 元TechFeed創業者・CTO歴任。html5j創設、HTML5 Conference主催。




