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あえて「標準化しない」開発組織——Algoage・宮田航志CTOが語る、AI時代のエンジニアが果たすべき役割と現場のリアル【前編】

「AIでなんでも作れる時代」に、開発組織はどう進化すべきか。2018年に東京大学で機械学習の研究をしていたメンバーにより創業し、DMMグループの“事業創造会社”として複数のAI事業を手がけるAlgoage。同社執行役員/CTOの宮田航志さんは、コロプラでのVR・ARゲーム開発、DMMでのマーケティング技術やWeb3を経て、現在は複数チームからなる約60名規模の開発組織を率いています。本記事(前編)では、Claude CodeやCursorを駆使する開発現場の実態から、あえて標準化しない運用方針、AIと協働する時代にエンジニアが果たすべき役割、そして現場にAIを根付かせるためのリアルな取り組みを伺いました。マーケティングテクノロジー、Web3、そしてAIへ——DMMグループで挑み続けるキャリア――まずは自己紹介からお願いします。宮田:Algoageで執行役員/CTOをしている宮田です。もともとはゲーム会社からキャリアをスタートし、VR系・AR系のゲームの開発など、ソーシャルゲームやエンタメコンテンツで何ができるかを追求してきました。技術で新しいプロダクトを作るにはどうすればいいか、それを...

「AIでなんでも作れる時代」に、開発組織はどう進化すべきか。2018年に東京大学で機械学習の研究をしていたメンバーにより創業し、DMMグループの“事業創造会社”として複数のAI事業を手がけるAlgoage。同社執行役員/CTOの宮田航志さんは、コロプラでのVR・ARゲーム開発、DMMでのマーケティング技術やWeb3を経て、現在は複数チームからなる約60名規模の開発組織を率いています。本記事(前編)では、Claude CodeやCursorを駆使する開発現場の実態から、あえて標準化しない運用方針、AIと協働する時代にエンジニアが果たすべき役割、そして現場にAIを根付かせるためのリアルな取り組みを伺いました。

マーケティングテクノロジー、Web3、そしてAIへ——DMMグループで挑み続けるキャリア

――まずは自己紹介からお願いします。

宮田:Algoageで執行役員/CTOをしている宮田です。もともとはゲーム会社からキャリアをスタートし、VR系・AR系のゲームの開発など、ソーシャルゲームやエンタメコンテンツで何ができるかを追求してきました。技術で新しいプロダクトを作るにはどうすればいいか、それを大規模に展開するには、構造化するにはどうすればいいか——そういったテーマに強い興味があって、一貫して取り組み続けています。

――その後、DMMグループにジョインしたのですね。

宮田:はい。その後、2020年からはDMMグループに入り、マーケティングの横断技術部門で、広告配信サーバーのリプレースや、アフィリエイトのサービス開発、レコメンドシステムの開発など、全社規模のプロジェクト業務に従事していました。そこから、DMM Cryptoというブロックチェーン系の子会社でCTOを務めた後、昨年、AlgoageのCTOに就任しました。
最近はAIと向き合い続ける人生になっているので、物理的な刺激や成長も必要だと思い(笑)、趣味でK-1の試合にも出ています。

――それはすごい。このインタビューにはさまざまな方に登場していただきましたが、K-1経験者の方は初めてです(笑)。

“事業創造会社”Algoageと、現場育ちのSureSide

――Algoageの事業についても教えてください。

宮田:Algoageは、AI技術で本質的なビジネス価値を創出することに強みを持つ“事業創造会社”です。事業は大きく3つあります。1つ目が「DMMチャットブーストCV」というチャットマーケティングのSaaS事業、2つ目が「DMMビジネスAI」という企業のAI活用を支援する研修・コンサルティング事業、そして3つ目が、今年5月に発表した「SureSide」という、カスタマーサポート領域向けの業務効率化のSaaS事業です。

――どのような経緯でそうした事業が生まれたのでしょうか。

宮田:SureSideは、DMMのカスタマーサポート(CS)部からAI活用の相談があったことをきっかけに生まれました。DMMのCS部は数十もの事業を横断的に支える大きなサポート部門で、私たちは2年半ほど前から、その現場に深く入り込み価値提供を追求し続けてきました。カスタマーサポート業務の課題をどのようにAIで解くべきか、長期にわたり検証し、ノウハウを培ってきたのです。そして実際に本番運用の中で業務効率化やオペレーターの育成コスト削減といった成果を達成してきた、その知見を形にした事業です。

――SureSideは、どういうコンセプトのプロダクトなのでしょうか。

宮田:SureSideは、オペレーターの業務をAIで補佐するところから始めるプロダクトです。いきなり全部を自動化するのではなく、まずは今の業務を支えることを大切にしています。

そのうえで、力を入れているのがナレッジの基盤づくりです。
オペレーターの方がいつも使っているマニュアルやFAQ、手順書、仕様書、テンプレートなどあらゆる知識を一元管理し、使いながらAIも人間も読みやすい構造に育てていく。ここを重視しています。

――大事にしている理由はなんでしょうか?

宮田:人もAIも使いやすいように知識が構造化されていないと、最終的にAIで業務を自動化しても成果が出ないことが、これまでの実務支援でわかってきました。当社はこの知識の集約や構造化をどう効率的に実現するか、という課題にずっと向き合っており、この領域に特化した技術を確立し、特許も出願しています。

「AIを使っていない業務はない」——開発・業務現場のAI活用

――現在CTOというお立場で、日々の業務でAIをどう使っているか、というところからお聞かせください。コードを書く場面、組織づくりやマネジメントなど、それぞれの領域について伺えますか。

宮田:そうですね、使っていない業務はほぼないと言っていいです。

まず開発現場ですが、Claude Code、Codex、Cursorを会社契約で導入しており、それぞれコーディングに使用するほか、コードレビューや、デザイン業務でも使っています。複数のツールを比較検証して、都度最適なものを選び、アップデートし続けていますね。また、全社的には、ドキュメント管理ツールとしてNotionを、コミュニケーションツールとしてはSlackを採用しており、そこにネイティブに組み込まれているAI機能も日常的に用いています。業務や用途に合わせて最も効果的なツールを選び、使い分けています。

――コードを書くツール(Cursor、Claude Code、Codex)は、個々のエンジニアが使いやすいものを自主的に選んでいるのでしょうか。

宮田:各自が最もパフォーマンスを発揮できるものを自由に選んでいます。要件定義や、実装の土台づくり、テスト、コードレビューといった開発の各ステップにおいて、それぞれがスキル(AIツール向けの独自コマンドやルール)を作り運用しています。会社全体で「これにしましょう」と統一する方針ではなく、新規事業のなかにある6つのプロダクトチームが、それぞれのやり方で進化させています。

「あえて標準化しない」アプローチで探る、AIと人の“最適な協働”の形

――AIが登場する前と後で、開発全体の業務にどんな変化があったと実感されていますか。

宮田:開発全体で言うと、一般的にも言われていることですが、コーディングの実作業やドキュメンテーションといった定型的なタスクは、指示さえ出せばAIに委ねられるようになりました。もちろん精度を高めるためには色々な工夫が必要ですが、AIに任せられる範囲は確実に拡大しています。

その結果、AI前提のワークフローを組んで最適化する、つまり「全部をAIに任せるのではなく人間が要所で判断する」ことがエンジニアの重要な役割となりました。当社でもこのAIと人間との最適な協働ワークフローを、小規模なチームでいかに確立するかに取り組んでいます。

特にSureSideの事業においては、開発期間を圧縮するため、複数プロダクトを一気に並行して立ち上げており、あえて標準化せず、それぞれのプロダクトチームが最適なやり方を追求するアプローチを採っています。

宮田:各プロダクトで独自のアプローチでの最適化を目指すことで、多様な知見や強みがスピーディに生みだせる一方、プロダクト全体としては、アーキテクチャやプロダクトビジョンの整合を保つことも重要になります。そこで私たちは、各チームの個性やスピードを生かしながら、AIを用いて横断的に整合性をとる仕組みづくりにも取り組んでいます。

――各プロダクトチームが最適化を進める中で、得られた知見の共有や横展開はどのように行っているのでしょうか?

宮田:チームごとの課題や得られた知見は、定期的に開発組織全体で共有しあっています。

例えば、当社には従来のスクラムチームだけでなく、ソロプレナーに近い1〜2人からなるチームもあり、こうした体制ではメンバーの得意分野や個性が成果物にダイレクトに反映されやすくなります。

初速の速さといった強みがある一方で、独自のノウハウや個性への依存が生じやすい側面もあります。だからこそ、その知見を組織全体の資産にしていくため、チーム横断での共有の仕組み化を進めています。――AI活用のベストプラクティスの追求と開発組織づくり、それぞれでの手応えと挑戦があるのですね。

宮田:そうですね。事業フェーズや組織規模などの変化に応じ、最適解も変わり続けるでしょう。

しかし、組織がどれだけ拡大しても、製品のビジョンを定め、アーキテクチャの一貫性を保ち、高水準な品質で作り上げるには、エンジニア、すなわち人間が必要なことに変わりありません。より高度なAI技術の活用が進んだとしても、人間によるレビューやフォローは不可欠であり、果たすべき新たな役割だと捉えています。

AIを現場に根付かせる仕組みづくり

――現場へのAI定着に悩むCTOも多いと思いますが、宮田さんは、開発現場あるいはカスタマーサポートなどの業務現場にAIを根付かせるために大事なことは何だとお考えですか。

宮田:たとえばSureSideのようなBtoBのSaaS事業の開発現場においては、開発者自身が、その顧客が抱える課題を当事者として感じることが非常に重要です。

――具体的に、御社ではどのような取り組みをしているのでしょうか。

宮田:SureSideはコールセンター向けのSaaSであるため、私たちも実際に顧客のコールセンターに伺います。私自身もロールプレイで業務フローを確認するとともに、応対の難しさを体感したり、オペレーター業務の見学を通じて新人の方がつまずいてしまうポイントを分析したり、コールセンター業務への深い理解に努めました。

このプロセスを経ることで「この課題はAIならこう解けるよね」「逆に、現場の方のこの要望は今のAI技術ではクリアできないため、可能なことを整理し段階的提案しよう」という的確な判断が可能となります。現在のAI技術の限界値を正しく把握した上で、現場のリアルな課題や“痛み”と照らし合わせるからこそ、自分たちのプロダクトを通じた本質的なソリューションを提供できるのです。

――まさに顧客の課題を自分事として捉えるわけですね。

宮田:はい。そのうえで、プロダクトの導入後、現場に使ってもらうための組織的な制度設計も必要です。課題改善のために新たなソリューションを導入する初期段階では、慣れないツールでもまずは現場で使ってもらうというプロセスが必要になります。そのためには「積極的に新しい仕組みやツールを活用する」という行動を促す施策、例えば、AIツールの利用状況を個別に把握し人事上の評価設計に組む込むことなども効果的です。

AIに限らず、今後も新しい技術の登場による劇的な変化は起こり続けるでしょう。しかし、人が新たなものを取り入れ行動を変えるのには、心理的・時間的な壁が存在します。大きな変化にも柔軟に対応できる組織や人を育て、それを後押しするカルチャーを醸成するには、現場への深い理解と、利用促進・定着のための制度設計を両輪で回すことが重要だと考えています。

――一方、Algoageの開発組織でも、AIを前提にした工夫をされているそうですね。

宮田:SureSideが目指す未来は、AI自身がナレッジを育て、人がそれを使えば使うほど精度が高まり、最終的にAIの自動応対を実現することです。そして開発組織そのものも同じところを目指しています。

具体的には、最終的な成果物とあわせて、要件や技術的な設計、開発プロセスにおける重要な意思決定や実際のアクションを記録するADR(アーキテクチャ・ディシジョン・レコード)を、一元化して保管しています。後からAIが参照したときに、人間による正しい判断を高精度で再現できるようにするためです。これにより、開発の高速化と、複数プロダクト間でのアーキテクチャの整合性および品質の担保の両立に取り組んでいます。

――開発組織自体も走りながら進化させているわけですね。

宮田:おっしゃる通りです。新規事業を連続して立ち上げている環境下では、チーム編成や人員拡大の変化がとても速いです。新たに参画したメンバーが組織のなかでいかに活躍しその価値を発揮できるかが非常に重要で、人間に対しても、使用するAIに対しても、そのオンボーディングをAIでどう効率化できるかには重点を置いています。現時点では完璧な正解にたどり着いたわけではありませんが、複数プロダクトを横断的に支援するイネーブルメントチームとともに、より強い開発組織のあり方を追求し続けているところです。
(続)

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後編では、AI時代にエンジニアの価値はどこへ移るのか、「コードを書かなくていい」という極論の是非、そして“枯れた技術”も組み合わせる目利きの哲学と、これからの学び方についてお伺いします。

プロフィール

宮田 航志(みやた・こうじ) 株式会社Algoage 執行役員/CTO

学生時代よりエンジニアとして活動。2015年にコロプラへ入社し、VR・位置情報ゲームの新規開発に従事。2020年にDMM.comへ入社し、マーケティングの技術部門でテックリードやPMを担当。2022年からは新規で立ち上げられたWeb3事業でWeb3ゲーム領域の技術統括を務め、2023年からは子会社化したDMM CryptoでWeb3プラットフォームのPdM・CTOを担う。2025年3月にAlgoageへ参画し、同年7月よりCTOとして技術組織をリード。現在は約60名規模の開発組織を統括し、事業部ごとに複数存在する開発組織を横断的に率いながら、再現性を持って新規事業を連続的に立ち上げられる体制づくりに注力している。