powered by TechFeed
表示モード
Microsoft

MicrosoftのAIエージェントが31年間未解決の数学難問「KLS予想」を証明 — 100以上のアプローチを並列探索、最後の突破口は人間が担う

10月22日、madrobot.blogが「Microsoft researchers say AI agents helped crack a famous 31-year-old maths problem」と題した記事を公開した。1995年から31年間にわたって未解決だった数学の難問「KLS予想」が、AIエージェントと人間研究者の協働によってついに証明されたという。AIが100以上のアプローチを並列探索し、人間が最終的な突破口となるアイデアを提供する——従来の数学研究では見られなかったこのパターンが、今後の研究手法の雛形になりうると注目を集めている。

10月22日、madrobot.blogが「Microsoft researchers say AI agents helped crack a famous 31-year-old maths problem」と題した記事を公開した。1995年から31年間にわたって未解決だった数学の難問「KLS予想」が、AIエージェントと人間研究者の協働によってついに証明されたという。AIが100以上のアプローチを並列探索し、人間が最終的な突破口となるアイデアを提供する——従来の数学研究では見られなかったこのパターンが、今後の研究手法の雛形になりうると注目を集めている。


31年間未解決だったKLS予想とは何か

KLS予想(Kannan-Lovász-Simonovits予想)は、1995年にRavi Kannan、László Lovász、Miklós Simonovitsの3人が提起した幾何学上の命題だ。任意の次元における凸図形と対数凹型(log-concave)確率分布に関するもので、大まかに言えば「凸図形を2つの大きなピースに分割する最小コストの切断は、最良の平面切断と比べて、次元数に依存しない定数倍を超えて良くはならない」というものだ。

この命題が重要なのは、切断のコストがランダムウォークの探索効率を規定するからだ。サンプリングアルゴリズム、体積計算、凸最適化といった計算機科学の基盤的な問題と直結しており、Simons Instituteは「凸幾何学で最も重要な未解決問題のひとつ」と位置付けていた。

2025年7月にBrayden Letwinが「次元の4乗根のオーダー(O(n^{1/4})相当)」まで改善した最新記録を出していたが(※arXiv IDの年月表記については元記事を参照されたい)、今回の証明はついにO(1)定数、つまり次元数によらない固定定数でこの問題を解決したと主張する。O(1)定数での解決は、問題が提起されて以来30年越しで目指されてきた最終目標だ。


AIエージェントが担ったこと、人間が担ったこと

Microsoft ResearchのXinzhi Zhangと独立研究者のZhao SongがarXivに投稿した140ページの論文によれば、この証明は2025年7月28日——Letwinの論文投稿の翌日——から始まった。なお、arXiv ID「2610」は2026年10月を示すため、本文中の「2025年10月」という日付表記は「2026年10月」の誤記の可能性がある(※元記事を要確認)。

論文のAI利用開示には次のように書かれている。著者らはAIと共同で100以上のアプローチを探索し、優先順位の判断は著者が行った。複数のAIエージェントが並行してアイデアを試し、研究者が行き詰まりを刈り込んで最良の結果を次のラウンドに送り込む形で進めた。AIが担ったのは派生計算、原稿作成、内部的な証明チェックだ。

使用したモデルとして論文に明記されているのは次の4つだ:OpenAIのGPT-6 AstraおよびGPT-5.6 Sol、AnthropicのClaude Fable 5およびFable 5.1。

最終的な突破口——誤差が十分速く収縮し有界にとどまることを確認する反復精緻化のステップ——は研究者自身のアイデアだったとZhangは述べている。また、同程度のトークン予算で主要モデルを使った非誘導の試みは失敗しており、「最終的な成功はAIシステムの能力と研究者の数学的判断の両方に依存した」と論文は結んでいる。

論文末尾の責任の所在については明確だ:

すべての証明は著者と複数のAIツールによって注意深く検証されました。著者は証明の正確さについて全責任を負います。

— Zhao Song、Xinzhi Zhang(論文より)

このパターンが画期的なのは、従来の数学研究では一人または少数の研究者が数年かけて一つの方向を深掘りするのが通例だったのに対し、AIが膨大な候補を短期間で並列探索し、人間はその刈り込みと最終判断に集中できる点にある。証明の発想(探索)と検証(判断)を役割分担することで、従来の研究サイクルを大幅に圧縮できる可能性を示した事例といえる。

※編集部の考察:この「AIが広く探索し、人間が深く判断する」モデルは、KLS予想に限らず他の未解決問題にも応用される可能性がある。ただし、AIが生成したアプローチのどの部分が本質的に新しかったのかは、査読を経て初めて明らかになるだろう。


1週間で3本の証明、Lean検証も

Song-Zhang論文の投稿と同じ2026年10月4日(※前述の年表記に関する注意と同様)、Weizmann InstituteのBoaz KlartagとPierre Bizeul、ソルボンヌ大学のJoseph Lehecが独自の32ページの証明を投稿した。こちらはSong-Zhangの基準を「証明の決定的なステップ」と位置づけており、さらに謝辞ではAIへの依拠をより率直に記している:

この論文のほとんどの証明と数学的アイデアはChatGPTによって発見されました。注目すべき例外は、著者らが提案した「suspension」を使うアイデアです。

— Pierre Bizeul、Boaz Klartag、Joseph Lehec(論文より)

10月6日には3本目の証明がKrishnakumar BalasubramaniとShiva Kasiviswananthanから投稿され、密接に関連するPoincaré不等式の定数として25という明示的な値を主張している。

GitHubにはLean 4による形式検証プロジェクトも公開されており、主にBizeul-Klartag-Lehec経路に基づいて機械的に結果を検証している。Zhang自身もSong-Zhangの短縮版証明をLean上で検証済みで、最終確認後に公開予定だという。


査読はまだ、それでも検証は厚い

3本の論文はいずれも査読を経ていない。ただし、複数の独立した証明が存在し、機械検証も行われている状況は、初期検証としては相当に厚い部類だ。これは先日OpenAIが投稿したAI作成の数学論文722本のうち3本を翌日に撤回した件とは、対照的な状況といえる。

また、使用したモデルは論文に明記されており、誰でも同じものを使える状態にある。Fields賞受賞者らがAIラボに対して独自モデルでの数学ベンチマークをやめるよう求めた文脈においても、この透明性は意味を持つ。


KLSは1995年から多くの数学者が取り組んできた問題だ。証明が成立するなら、これまでKLS予想を仮定していた結果を無条件の定理として書き直せる。AIが探索し、人間が判断と最終アイデアを提供する——このパターンが他の研究者にとっての雛形になるかどうかが、次の注目点だ。

詳細はMicrosoft researchers say AI agents helped crack a famous 31-year-old maths problemを参照していただきたい。