10月21日、InfoQが「AI is an Amplifier: Scale High Performance, Not Dysfunction」と題した記事を公開した。この記事では、DORAリサーチの最新データをもとに、AIが組織のパフォーマンスを「増幅」する仕組みと、その導入効果を左右する組織的基盤について詳しく紹介されている。
「AIは増幅器」——DORAが10年超の研究で導いた結論
DORA(DevOps Research and Assessment)は、ソフトウェアデリバリーとチームパフォーマンスに関する研究プログラムで、10年以上にわたって継続されている。毎年大規模なサーベイを実施しており、2025年版では約5,000名が回答。2025年6月13日〜7月21日に実施されたこのサーベイは現時点では最新のもので、その結果をまとめた2025 DORA Reportが本発表の核心をなしている。なお本稿は2025年データの公開から間もない時期に執筆されたものであり、DORAの研究自体は2014年から継続していることを補足しておく。
今回の発表者はGoogleのDORAチームに所属するNathen Harveyだ。140ページに及ぶ2025 DORA Reportの内容を3枚のスライドに凝縮した部分が、エンジニアリング組織にとって最も示唆に富む。
「AIの主な役割は増幅器(Amplifier)である。AIへの投資から最大のリターンを得るには、組織システムそのものに戦略的に注力する必要がある。その基盤なしには、AIは局所的な生産性の孤島を生むだけで、その成果はダウンストリームの混乱に飲み込まれてしまう。」
Harvey自身がLinkedInの投稿を引用してこの点を補強している。「数時間でプロダクトを作れるようになったのに、それをユーザーに届けるまでには依然として6週間かかる」という嘆きだ。開発フローの一部だけを加速しても、システム全体を見直さなければ詰まりは変わらない——これがDORAデータが示す現実である。
数字で見るAI導入の実態
サーベイの結果は、AIが職場に深く浸透しつつあることを示している。
- 90% の回答者が「職業的にAIを使っている」と回答
- 1日の中央値2時間をAIとのインタラクションに費やしている
- 個人生産性の向上を感じている回答者が多数。コード品質も改善傾向
- 一方、AIの出力をほとんど、あるいはまったく信頼しないと答えた割合は約30%
「職業的にAIを使っているか」という設問についてHarveyは、普及率がほぼ飽和しつつあることを示唆している(2025 DORA Reportより)。
Harveyは「AIを完全に信頼している(Great Deal)」グループと「まったく信頼しない」グループの両方を問題視している。前者は過信のリスク、後者はFOMO(取り残されることへの恐れ)と学習機会の損失を招く。
AI採用をスコアとして動かすと何が起きるか
DORAが構築したモデルでは、「他の変数を固定したままAI採用スコアだけを上げたら各指標はどう動くか」をシミュレーションできる。結果は以下の通りだ。
- 増加(良い方向):個人の有効性、組織パフォーマンス、有益な業務時間、コード品質、製品パフォーマンス、ソフトウェアデリバリースループット、チームパフォーマンス
- 増加(悪い方向):ソフトウェアデリバリーの不安定性(本番障害の頻度)
- ほぼ変化なし:バーンアウト、フリクション
バーンアウトが改善しない理由についてHarveyは率直に語る。「仕事がつらくてバーンアウトしている人に新しいツールを渡しても、仕事はまだつらいままだ」。ただし悪化もしていない点は、一定の安心材料でもある。
ソフトウェアデリバリーの不安定性が上がる(つまり本番障害が増える)傾向は、前年の2024年調査でも確認されていた。Harveyはこれを「J-Curve of Transformation(変革のJカーブ)」で説明する。これは変革プロジェクトや新技術導入の際に広く観察されるパターンで、導入初期には低コストで得られる成果(ローハンギングフルーツ)が積み上がるが、その後に困難なフェーズが訪れてパフォーマンスが一時的に落ち込み、やがて回復・上昇に転じるという軌跡を指す。2025年のデータではスループットが改善傾向にあり、多くの組織がこのトラフを抜け出しつつある兆候があるとHarveyは述べている。
「エージェント時代」の新たなリスク
Harveyが特に懸念を示したのが、複数のAIエージェントを並行管理する状況だ。3〜4つのエージェントが同時に異なるタスクをこなす環境では、人間はその進捗を行き来しながら管理することになる。
「私たち人間はマルチタスクが得意だ——いや、正反対だ。私たちは全員マルチタスクが苦手だ」とHarveyは指摘する。エージェント管理がもたらす認知負荷の増大が、今年の調査でどう現れるか、Harveyは注視している。
組織の基盤なしにAIを入れても「増幅」するのは機能不全
発表全体を通じたHarveyのメッセージは一貫している。AIは組織の既存のパフォーマンスを増幅する——それが高いパフォーマンスなら拡大するが、機能不全を抱えた組織ならその機能不全もまた増幅される。
DORAが長年測定してきたソフトウェアデリバリーの4つのメトリクス(デプロイ頻度、リードタイム、変更失敗率、復旧時間)は、AI時代においても有効な指標として機能し続けているという立場だ。局所的なAI活用の最適化だけに目を向けず、デリバリーパイプライン全体を見直す視点が求められる。
詳細はAI is an Amplifier: Scale High Performance, Not Dysfunctionを参照していただきたい。




