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OpenAIとAnthropicが英国のバイオ兵器対策に約268億円分のAIを提供 — リスクを生み出す側が防衛の中核に立つ逆説

10月24日、madrobot.blogが「OpenAI and Anthropic pledge £200 million of AI to help Britain fight bioweapons and pandemics」と題した記事を公開した。OpenAIとAnthropicが英国政府の新設AIバイオセキュリティ機関に総額2億ポンド(約268億円)相当のAIリソースを提供すると発表した。リスクを生み出す側が防衛の中核に立つ逆説この枠組みで最も注目すべき構造は、生物リスクを高める可能性があると英国政府自身が認めているAIモデルを、その防衛手段として位置づけている点だ。英国政府の発表文には「ますます高度化するAIシステムは、新たな生物リスクも生み出し、有害な活動への障壁を下げる可能性がある」と明記されている。にもかかわらず、その当事者であるOpenAIとAnthropicを組織の中核に据えるかたちになっている。OpenAIは2025年7月から自社モデルを生物学領域において「High Capability(高能力)」に分類し、追加の安全対策を設けているという。Google Dee...

10月24日、madrobot.blogが「OpenAI and Anthropic pledge £200 million of AI to help Britain fight bioweapons and pandemics」と題した記事を公開した。OpenAIとAnthropicが英国政府の新設AIバイオセキュリティ機関に総額2億ポンド(約268億円)相当のAIリソースを提供すると発表した。

リスクを生み出す側が防衛の中核に立つ逆説

この枠組みで最も注目すべき構造は、生物リスクを高める可能性があると英国政府自身が認めているAIモデルを、その防衛手段として位置づけている点だ。

英国政府の発表文には「ますます高度化するAIシステムは、新たな生物リスクも生み出し、有害な活動への障壁を下げる可能性がある」と明記されている。にもかかわらず、その当事者であるOpenAIとAnthropicを組織の中核に据えるかたちになっている。OpenAIは2025年7月から自社モデルを生物学領域において「High Capability(高能力)」に分類し、追加の安全対策を設けているという。Google DeepMindはAI設計タンパク質にDNAスクリーナーが検出できる透かし(SynthID Bio)を埋め込む取り組みを進めている。

さらに、約1カ月前に米ホワイトハウスがOpenAI・Anthropicに対し「英国のAI安全保障機関への新モデル提供を米国が先にテストするまで待つよう」求めたという経緯がある。今回の枠組みでは英国側に両社のモデルへの「信頼されたアクセス」が約束されているが、具体的にどのモデルがいつ提供されるかは明らかにされていない。

提供されるのは「現金」ではなく「クレジット」

2億ポンドは資金ではなく、コンピューティングリソースとモデル利用クレジットの形での提供だ。内訳は以下のとおりだ。

  • OpenAI:コンピューティングおよびモデルクレジット1億ポンド相当、加えて審査済みの生命科学向けモデル「GPT-Rosalind」へのアクセスを提供するRosalind Biodefenseプログラムを通じた信頼アクセスを提供
  • Anthropic:モデルクレジット最大1億ポンド相当、信頼アクセスおよび専任技術サポートを提供
  • Google DeepMind:研究への人材提供、フロンティアモデル「Gemini」および専門科学モデルへの信頼アクセスを「提供する方向で検討」中。※他の2社と異なり、この提供はまだ確定していない点に注意が必要だ。
  • Basecamp Research(英国のAI生物学企業):モデルと技術専門知識を優先バイオセキュリティ課題に提供

タイミングとして、OpenAIは今週、GPT-Rosalindのエージェント数千体をマウス脳アトラスの解析に32分で走らせたという実験結果を公開した。Anthropicは、Claudeがサソリ毒素に結合するタンパク質を設計した事例(抗毒素開発への初期ステップ)を発表している。

AIバイオセキュリティ機関(AIBL)の設立概要

英国政府が「世界初の専用AIバイオセキュリティ組織」と位置づけるAI Biosecurity Lab(AIBL)は、独立した非営利組織として設立される。政府からの公的資金は1億ポンドで、企業提供分と合わせると総額は3億ポンド規模になる。

AIBLは当初、次の2点に集中する。

  1. 生物学的脅威の早期検知
  2. ワクチン・治療薬・医療的対抗手段の研究・開発・試験の加速

英国健康安全保障庁(UKHSA)、防衛科学技術研究所(Dstl)、動植物衛生庁、医薬品規制庁(MHRA)などと連携する。組織モデルは、フロンティアモデルの危険な挙動をテストする英国AI安全保障機関(AI Security Institute)を参考にしており、「フロンティアAI企業に匹敵するスピードと集中力で動ける」自律性を持たせるとしている。

ただし、ディレクター、所在地、開設時期はいずれも未発表だ。資金面ではフィランソロピスト(慈善的投資家)からの支援も募る方針という。

総額6億ポンドのAIセキュリティパッケージの一部

AIBLはより大きな枠組みの中核を占める。Reutersの報道によれば、英国政府は総額約6億ポンド(約8億ドル)相当のAIセキュリティ投資パッケージを進めており、内訳はAIBL以外に以下が含まれる。

  • 病原体対抗手段の開発:6,500万ポンド
  • AI安全保障機関への追加資金:1億2,000万ポンド
  • サイバー防衛:1億3,000万ポンド

AI担当大臣のカニシュカ・ナラヤン氏は、AIBLを「世界をリードする科学的専門知識を結集し、新たな生物学的脅威から人々を守る主要な国際機関」にすることを目指すと述べた。同氏は今月初めにも、AI企業に対して「制御できないシステムはリリースするな」と公言している。

この構想が機能するかどうかを左右する未解決の問い

英国政府はAIそのものが生み出すリスクへの最善の対抗手段として、同じフロンティアAIモデルを早期警戒とワクチン開発に活用する賭けに出た。コストの多くは企業側がクレジットで負担するかたちだ。

この構想の成否を決めるのは、いまだ明かされていない三つの詳細だ。誰が組織を率いるか、どこに拠点を置くか、そして「信頼されたアクセス」が実際に何を意味するか——とりわけ、ホワイトハウスが「米国が先にテストするまで待て」と求めた経緯を踏まえれば、最後の問いは単なる実装上の課題にとどまらない。英米間のモデル共有をめぐる政治的な緊張が、AIBLの実効性を左右する構造的リスクとして横たわっている。

詳細はOpenAI and Anthropic pledge £200 million of AI to help Britain fight bioweapons and pandemicsを参照していただきたい。