10月26日、Futurismが「Top Economist Finds That AI Has Provided "Zero Financial Payoff" to Companies Outside Tech」と題した記事を公開した。テック業界以外の企業においてAI投資が経済的恩恵をほぼもたらしていないという、大手資産運用会社のチーフエコノミストによる分析を詳しく紹介している。
テック外企業のAI投資リターンは「ゼロ」
Apollo Global Management(アポロ・グローバル・マネジメント)のチーフエコノミスト、Torsten Slok(トルステン・スロック)氏が週末に公開したレポートが注目を集めている。テック業界の外では、AIは企業にとって意味のある経済的恩恵をまだ何ももたらしておらず、「財務的なリターンはゼロ」だというのが結論だ。
Slok氏は具体的な指標を示した。
- 従業員一人あたりの売上高:「マグニフィセント・セブン(Mag 7)」では上昇しているが、「S&P 493」では横ばい
- 利益率:Mag 7では上昇しているが、S&P 493では横ばい
- 生産性向上の兆候:「いまだ見られない」
ここで言う「Mag 7」とはApple、Microsoft、NVIDIA、Alphabet、Amazon、Meta、Teslaの7社を指し、「S&P 493」はS&P 500からそのMag 7を除いた残り493社、すなわち米国の一般的な大企業群を意味する。
Slok氏はこう結論付けた。「AIの勝敗はS&P 493で決まる。Mag 7ではない。そして今のところ、テックセクター外で売上成長や利益率が改善している証拠はない」。
企業はAI支出を「成長の源泉」から「コスト」へと再定義しつつある
さらに厳しい指摘もある。フロンティアモデル(最先端の大規模AIモデル)の利用コストが高騰しており、企業は安価な代替手段へのシフトを迫られている。Slok氏は「米国の主流企業はトークン支出を成長ドライバーではなく、利益率を圧迫するコストセンターとして見なし始め、支出を抑制し始めている」と述べた。
象徴的なのがゴールドマン・サックスCEO、David Solomon氏の発言だ。同社は直前に5億ドル規模のAI投資を発表したばかりだが、Solomon氏は投資家に対し「私たちの業務のうち、フロンティアモデルを必要とするものはほとんどない」と語ったとFortuneが報じている。「注目を集めている大きなフロンティアの話題は、実際にビジネスを支えるための基本ツールを使うこととは、まったく別の話だ」というのが同氏の主張だ。
AI業界全体に漂う「バブル崩壊」の懸念
この分析が出たタイミングも重なり、AIバブルへの警戒感は一段と高まっている。
Anthropicが今週、正式にIPO(新規株式公開)申請を行ったが、その開示資料によると同社は今年上半期だけで約8億ドル規模の資金を使い切ったとロイターが報じている(元記事の数値は「807億ドル」と記載されているが、Anthropicの企業規模から見て8.07億ドルの誤記・誤訳の可能性が高く、本稿では暫定的に「約8億ドル規模」と表記する)。これだけの資金消費が続く中で、投資対効果への疑問は避けられない。
またElon Musk氏も週末にAIクラウドコンピューティング企業への投資が「小魚レベルの死と再編」を招くと警告した。なお同氏はSpaceX・Tesla・xAIなど複数組織のトップを兼任しており、本件発言はX(旧Twitter)またはxAI文脈での言及とみられる。GPU特化型クラウドプロバイダーのCoreWeaveは500億ドル超の負債を抱えながら急速にキャッシュを消費しており、アナリストからは持続可能性を疑問視する声が上がっている。CoreWeaveはAWS・Azure・GCPのような総合クラウド大手とは異なり、GPU計算リソースに特化した中堅クラウド企業だが、AI需要を背景に急拡大した結果、財務的な脆弱性が顕在化しつつある。
IMFもAIバブル崩壊が世界経済に波及するリスクを警告しており、懸念は投資家だけにとどまらない。
「投資した分だけ返ってくる」はまだ証明されていない
AIへの熱狂と実際のビジネス効果の乖離は、エンジニアリング組織にとっても他人事ではない。社内のAI投資を正当化するROI(投資対効果)の議論が、今後一層厳しく問われる局面が来る可能性がある。Slok氏の分析は、その問いへの答えがいまだ出ていないことを改めて示している。
※編集部の考察:本セクションの「ROIへの問い」はSlok氏のレポートに直接記載された内容ではなく、編集部がその分析を踏まえて補足したものである。
詳細はTop Economist Finds That AI Has Provided "Zero Financial Payoff" to Companies Outside Techを参照していただきたい。




