10月25日、pbxscience.comが「Linus Torvalds Removes Unsafe __get_user() and __put_user() From Linux 7.4, With Claude's Help」と題した記事を公開した。注目すべき点の一つは、「検証なし」の高速関数が実測で「検証あり」よりIntelでもAMDでも遅かったという逆説的な事実だ。さらに今回のクリーンアップは48コミットにわたる大規模作業であり、Torvalds自身がAnthropicのClaudeを「高機能なCoccinelleスクリプト」として使い、人間の監督下で機械的変換を完遂した一部始終が詳述されている。
__get_user()/__put_user() とは何か
Linuxカーネルには、ユーザー空間とカーネル空間の間で値を1つコピーするための get_user() / put_user() というヘルパー関数がある。これらはコピー前にユーザー空間のアドレス範囲を検証する。
一方、先頭にアンダースコアが2つ付く __get_user() / __put_user() はその検証を省略する。かつてはわずかな速度優位があるとされていたが、今や「歴史的な遺物」でしかない。Torvalds自身、マージメッセージの中でこれらを「entirely historical(完全に過去の遺物)」と表現し、「現代のコードでは使う正当な理由がない」と断じた。
さらに、パフォーマンス面での優位性も実測で否定されている。x86向けKVMの変更を手がけた開発者Sean Christophersonの報告によれば、アドレス検証ありの版が検証なしよりIntelで12%以上、AMDで25%以上速かった。検証なし版の遅さの主因は、一部CPUでシリアライズ処理を引き起こすLFENCE命令にあると分析されている。
Claudeをどう使ったか
Torvaldsはカーネルのメーリングリスト上で、Claudeを「高機能なCoccinelleスクリプト」として使ったと説明した。
Coccinelleはカーネル開発者が大規模な機械的変換に長年使ってきた静的解析・ソース変換ツールだ。今回の作業でもアプローチは同様で、パターンの定義と変換の方向性を決めたのはTorvalds自身であり、Claudeはその方針に従って残存する呼び出し箇所を一括変換する作業を補助した。
具体的には、Torvaldsがまず自ら1つの変換パッチを書いてモデルケースを示し、それを手本としてClaudeがツリー全体に同じ変更を展開した。AIがカーネルを自律的に書き換えたわけではなく、人間の監督下で使うツールとして機能したという位置づけだ。
今回のマージは2026年10月21日に取り込まれ、48コミットにわたる。汎用カーネルコードから旧関数は削除され、x86およびx86_64ではインターフェース自体が完全に廃止された。他のアーキテクチャでは非自明なケースが残るため一部が残存しており、ARM64はすでに自アーキテクチャの版を get_user() / put_user() にマッピング済みだった。
なお、元記事では「Linux 7.4」と表記されているが、2026年10月時点のLinuxカーネルのバージョン番号としては通常の命名規則(例:6.x系)と異なる。※編集部の考察:この表記は元記事に依拠しており、TechFeed編集部では実際のリリース番号を独自に確認できていない。読者は元記事およびkernel.orgの公式情報を参照されたい。
TorvaldsのAI活用はこれが初めてではない
今回の削除は、Torvaldsが最近取り組む一連のAI支援作業の流れの上にある。Torvaldsはこれまで、AIをめぐって「ゴミコードを大量生成するリスク」への警戒を示しつつも、生産性向上ツールとしての可能性は積極的に評価してきた姿勢で知られる。
2026年10月10日、彼は noref-filemap-read-with-llm というブランチ名でClaude Codeを使って作成した実験的な8パッチのシリーズを公開した。同一キャッシュファイルを多数のスレッドが小さく読み出すワークロードを対象に、folioリファレンスを取らないページキャッシュ読み出しの最適化を目指したものだ。Torvaldsのコミットメッセージによれば、8スレッドのノートPCで1秒間に約3,000〜3,300万回の16バイト読み出しを達成し、ベースラインの約990〜1,040万回から大幅に向上した。このパッチシリーズはMetaのエンジニアKiryl Shutsemauが改良を加えており、現在もRFC(コメント募集)段階にある。
カーネルコミュニティのAIへのスタンス
2026年10月8日に開催されたMaintainers Summitでは、コミットメッセージへの「Assisted-by: LLM」タグの義務付けを廃止することで合意されたと報じられている。重視するのはコードの品質であり、生成過程ではないという立場だ。
Torvaldsはこれまでも、AIを生産性向上ツールとして評価する一方で、精査のない低品質なAI生成コードの投稿には警戒を示してきた。今回の __get_user() 削除は、その姿勢を体現した事例といえる。
詳細はLinus Torvalds Removes Unsafe __get_user() and __put_user() From Linux 7.4, With Claude's Helpを参照していただきたい。




