10月26日、The Decoderが「Wall Street's fastest traders are building data centers and backing chip startups to stay ahead in AI」と題した記事を公開した。金融市場で最も高速な取引を行うHFT企業が、AI計算資源の確保に向けてデータセンター建設やチップスタートアップへの直接投資に動いている。ChatGPT登場前と比べて10〜20倍に膨らんだとされる計算支出が示すのは、ミリ秒単位の優位を争ってきた業界が、今やシリコンレベルの競争へと戦線を拡大しているという現実だ。
計算資源争奪戦に参入したHFT企業たち
Jane Street、Hudson River Trading、XTX Marketsといった大手高頻度取引(HFT: High-Frequency Trading)企業が、クラウド契約・スタートアップ投資・自社データセンター建設に数十億ドル規模を投じている。同記事はBloombergの報道を引用しており、各社の具体的な投資額もBloomberg取材に基づく数字である。
その背景にあるのは、各社が機械学習を市場予測の中核に据え始めていることだ。ある幹部によると、計算資源への支出はChatGPT登場前と比べて10〜20倍に膨らんでいるという。
各社の動き:自社建設か、外部調達か
各社のアプローチは一様ではない。
XTX Marketsはフィンランドに自社データセンターを建設中だ。Jane Streetはテキサス州に4,000基超のNvidia GPUを擁するデータセンターを運営している。一方で外部調達にも積極的で、AIクラウドインフラ企業のCoreWeaveに10億ドルを直接出資し、さらにコンピューティングサービスの利用契約として60億ドルのコミットメントを結んでいる。
Hudson River TradingはAI責任者のIain Dunning氏によると年間10億ドルをAIに費やしており、CoreWeaveとの複数年契約も締結した。
チップスタートアップへの直接投資
特に目を引くのが、Jane Streetによるチップスタートアップ**Etchedへの投資だ。Jane StreetはEtchedの資金調達ラウンドをリードし、同社の最初の顧客**にもなっている。
Etchedが開発するAIチップの特徴は、**Transformerモデルに特化したASIC(特定用途向け集積回路)設計**にある。汎用処理を前提とするGPUとは異なり、Transformer推論に必要な演算のみを極限まで最適化したアーキテクチャを採用することで、処理効率と電力効率の大幅な向上を狙う。HFT企業がチップ設計レベルまで踏み込んで計算優位を確保しようとしている点は、従来の「既製品GPUを大量調達する」モデルからの明確な転換を示している。
「何もしないほうが危険」という経営判断
Bloombergの報道(The Decoder経由)によると、業界内では急速なチップの陳腐化とコスト上昇が現実のリスクとして認識されている。それでも積極投資を続ける理由について、アムステルダムを拠点とするHFT大手OptiverのCEO、Jan Boomaars氏はこう見る——「何もしないほうがむしろ危険だ」。
HFT企業にとって速度と計算能力は競争の根幹であり、AI時代においてもその構図は変わっていない。ただし、勝負の舞台がミリ秒単位のネットワーク最適化から、データセンターとチップ設計の領域へと広がりつつある。
※編集部の考察:日本では金融商品取引法に基づくHFT登録制度が2018年より施行されており、国内HFT業者は当局への届出義務を負う。欧米大手と比較して自社インフラへの大規模投資が表面化しにくい構造にあるが、計算資源をめぐる競争圧力は国境を問わず高まっており、国内金融機関・証券会社にとっても対岸の火事ではない動向といえる。
詳細はWall Street's fastest traders are building data centers and backing chip startups to stay ahead in AIを参照していただきたい。




