10月26日、The Cooldownが「In the US, workers say AI tracks their tone, scores their days, and trains bots to replace them」と題した記事を公開した。なお本記事はMore Perfect Unionとの提携報道として制作されており、取材・映像制作をMore Perfect Unionが担い、The Cooldownが掲載している。AIを活用した職場監視ツール(ボスウェア)が米国の労働現場に広がり、従業員の声のトーンから生産性スコアまでを記録・評価している実態について詳しく紹介されている。
「声のトーンが間違っている」とAIに言われ続けた看護師
記事の核心は、28年のキャリアを持つ看護師シェリー・ショーの証言だ。彼女が勤務するカイザー・パーマネンテ(Kaiser Permanente)では、トリアージ業務における通話時間や応答速度が細かく計測されており、通話は13分以内に収めるよう求められている。
試験導入された「Emotion AI(感情認識AI)」は、患者との通話中の彼女の声を分析し続けた。その結果は厳しいものだった。
「AIにずっと言われ続けた。『あなたのトーンが間違っている』『声が柔らかくない』『相手を引きつけていない』『気にかけているように聞こえない』と」
カイザー・パーマネンテはMore Perfect Unionへの声明で、「これらの指標は人事評価には使用していない」と述べた。しかし、AIが日常業務に介入している事実は変わらない。
「生産性スコア65%」——ボスウェアを自分でインストールしてみた
ボスウェア(bossware)とは、使用者のPCの画面をリアルタイムで監視したり、キー入力・クリック履歴・生産性スコアを記録したりする職場監視ソフトウェアの総称だ。雇用主が従業員の業務状況を細粒度で把握することを目的として普及が進んでいる。
本記事を制作したMore Perfect Unionのプロデューサー、メイ・ライアンは実際に自分のPCにボスウェアをインストールして検証した。システムはリアルタイムの画面映像・写真を生成し、彼女の「**生産性スコアを65%**」と判定した。取材資料の読み込み、ウェビナーの視聴、業務関連の通話——これらはすべて「非生産的」とラベリングされた。
収集されたデータの行き先も問題だ。ある調査によれば、一部のボスウェア企業は取得したデータを広告主や第三者のデータブローカーに販売している可能性があるという。こうしたデータが外部に流出しAIトレーニングに転用されうることを示す例として、記事はGoogleがスピリット航空の破産手続きにおいて1,000万ドルを投じ、同社の法人データをAIトレーニング用に取得した件を挙げている。職場で収集された従業員データが、当事者の知らないうちに別目的で利活用されるリスクをボスウェアの文脈と接続する事例として位置づけられている。
米国では労働者の3分の2が職場監視ソフトウェアによるモニタリングにさらされていると報告されており、AIの導入によってその精度と侵襲性はさらに高まっている。
Metaでは1,800人超が署名した抗議活動も
ホワイトカラー職でも状況は同様だ。Metaに対する訴訟では、AIを活用したシステムが従業員を評価・ランク付けし、育児休暇や医療休暇を取得した社員を含むレイオフ対象者の選定に関与したと主張されている。Metaは「組織に関する判断は人間が下しており、AIではない」と反論した。
一方、Metaが社内で推進していた「Model Capability Initiative」——従業員の業務活動データを収集してAIシステムの改善に役立てるプログラム——には、1,800人以上の社員が反対署名を提出した。その反発とプライバシーへの懸念を受け、Metaはプログラムを一時停止した。
規制の現状と労働者の反撃
カリフォルニア州では「ノー・ロボ・ボス法(no robo-bosses law)」が成立し、アルゴリズムによる採用・解雇の決定を禁止している。同法は2025年1月に施行され、500人以上の従業員を抱える雇用主を主な適用対象としている。また感情認識AIや神経データの監視を制限する法律も別途制定された。
ただし、従業員の個人データを使って「その従業員を代替するAIシステム」を訓練することを禁じる法案は審議を通過できなかった。規制の網はまだ部分的であり、ボスウェアをめぐる法整備は追いついていないのが現状だ。
労働組合との団体交渉も抑止力として機能している場面がある。ショーは「職場ではAIツールの導入に対して説明を求め、安全やケアの質を損なうと判断したシステムには異議を申し立てられる」と述べた。そして最後にこう言い切った。
「私たちはロボットじゃない。でも彼らはロボットのように振る舞うことを求めている」
詳細はIn the US, workers say AI tracks their tone, scores their days, and trains bots to replace themを参照していただきたい。




