10月27日、It's FOSSが「Rocky Linux Creator Built a New "Not Linux" Kernel in 11 Days Using AI」と題した記事を公開した。この記事では、Rocky LinuxおよびCentOSの創設者であるGregory KurtzerがAIエージェントを活用し、わずか11日で独自カーネルを構築したプロジェクト「Ginux」について詳しく紹介されている。
LLMがWebアプリのコードを生成する話は珍しくなくなったが、「OSカーネルをゼロから、11日で、139,000行」という数字はそれとは次元が異なる。しかもそのカーネルは、既存のLinuxバイナリをそのまま動かせる——Linuxのフォークではないにもかかわらず。この事実が、システムソフトウェア開発の世界に今、静かな衝撃を与えている。
「Linuxではないカーネル」が11日で動いた
CentOSの生みの親であり、Red Hatがそれを事実上終了させた後にRocky Linuxを立ち上げたGregory Kurtzer氏。その彼の最新プロジェクトは、Linuxディストリビューションの再構築でも、Linuxカーネルのフォークでもない。ゼロから書かれた、まったく新しいOSカーネルだ。
その名はGinux。名前の「G」は、READMEによれば「自分のエゴを抑えるために」公式にはGPT(AIモデル)の頭文字とされている。コードのほぼすべてを書いたのはKurtzer氏ではなく、AIエージェントだからだ。
Kurtzer氏はXにこう投稿した:
11日で、新しいLinux互換OSカーネルを構築した。Rocky Linux 10をsystemdまで起動できる。すべてHuman-Directed Agentic Engineering(HDAE)を使って。
Ginuxの技術的な中身
GinuxはRust製のx86-64カーネルで、以下をすべてスクラッチで実装している:
- メモリ管理
- スケジューラ
- プロセスモデル
- ファイルシステム
- ネットワーキング
- デバイスサポート
最も重要な点は、LinuxカーネルのフォークではないのにLinux互換であるという部分だ。GinuxはLinux ABI(コンパイル済みバイナリがカーネルと通信するためのバイナリインターフェース)を実装しており、既存のLinuxバイナリをそのまま動かせる。プロジェクトの言葉を借りれば、「Linuxはカーネルの下で動くものではなく、Ginuxが外向きに見せる『パーソナリティ』である」。
ビルド成果物は単一の GINUX.EFI イメージで、UEFIから直接ブートする。OCIコンテナイメージの取得・検証にも対応しており、Rocky Linux 10をsystemdの multi-user.target まで起動することを実証済みだ。Alpine Linuxの一部プログラム(muslやBusyBox)も動作する。
ただし現時点ではQEMU仮想マシン上のみで動作し、物理ハードウェア対応、GPU・NVMeサポート、独立したセキュリティ監査はない。研究プロトタイプであり、本番利用やLinuxの置き換えを意図したものではない(ライセンスはApache 2.0)。
AIが書いたコードの規模と開発手法
開発手法としてKurtzer氏が「HDAE(Human-Directed Agentic Engineering)」と名付けたアプローチ——人間がアーキテクチャの方向を握り、AIがコードを書き続けるという独自の役割分担——の詳細は、「Ginux: Human-Directed Agentic Engineering in Practice」(Zenodo)にまとめられている。
役割分担は明確だ:
- 人間が担う部分:アーキテクチャの決定、制約の設定、マイルストーン、受け入れ基準の定義
- AIエージェントが担う部分:コードの生成、ブート、テスト、障害診断、修正のループを回すこと
11日間の開発で、AIによって生成・保持されたコードは約139,000行、コミット数は1,000以上にのぼる。アーキテクチャドキュメントによってエージェントの方向を制御し、Rocky Linuxのような実際のユーザースペースを使うことで合成テストでは見つからないバグを検出した。
「コードを全部書いてくれ」とチャットボットに打ち込んだだけ、というものではない。数十年のシステムプログラミング経験を持つ人間がエージェントを操舵したからこそ成立したプロセスだ。
Kurtzer氏自身の見立て
Kurtzer氏は成果を過大に語ることを避けている:
AIは複雑なシステムソフトウェアを生成できる。しかし、互換性、セキュリティ、ハードウェアサポート、標準への準拠、コミュニティ、長期的なメンテナンスこそが本当の参入障壁だ。
Linuxが何十年もかけて積み上げたハードウェア対応とコードレビューとコミュニティは、AIエージェントが11日で生み出せるものではない。Ginuxがそれを脅かす段階にはない。
それでも、「深い専門知識を持つ一人の人間がフロンティアAIエージェントと組んだとき、何が可能になるか」の実証例として、この11日間は記録に残る。GinuxはLinuxを置き換えるプロジェクトではなく、次世代のシステム開発がどういう形をとりうるかを示す試みだ。
詳細はRocky Linux Creator Built a New "Not Linux" Kernel in 11 Days Using AIを参照していただきたい。




