10月28日、Felix Riesebergが「With AI writing the code, entrepreneurial thinking is now what counts most for newcomers at Anthropic」と題した記事を公開した。Riesebergは記事の著者であるとともに、Claude.aiおよびClaude Code Desktopの開発を率いるAnthropicのエンジニアリングマネージャーでもある。記事では、AIコード生成を前提にコーディング面接を廃止し、「起業家的思考」を採用基準の中心に据えた自身の方針転換が詳しく語られている。「Claudeが候補者より上手くやってしまう」以上、評価軸を根本から変えるしかなかった——そう主張するRiesebergの議論は、採用の実務だけでなく、AIが実行コストを変えた時代に何が競争優位になるかという問いとして読める。
コーディング面接の廃止
Riesebergは、従来のコーディング面接をすでに廃止した。その理由は単純だ。「Claudeが候補者より上手くやってしまうから」である。
候補者にReactの小課題を出すことは、今やアセンブリ言語の知識を問うのと同じくらい意味がないと彼は述べる。コーディングテストの結果が優秀なエンジニアを予測しなくなった今、採用基準そのものを見直す必要があるという主張だ。
Riesebergが注目するのは「ハングリーさ(hunger)」である。彼のチームでは、経験年数の浅いエンジニアが、ベテランを追い越すケースが実際に起きている。「Hunger beats tenure(ハングリーさは在籍年数に勝る)」というのが彼の結論だ。
なお、彼が対象とする「ジュニア」エンジニアの定義は広い。社歴が短い人だけでなく、社内での地位・権限・人脈を持たないすべてのエンジニアを指す。
なぜ新参者がベテランより有利なのか
Riesebergは、新参者には構造的な優位性があると論じる。ベテランが当たり前として受け入れてしまった問題を、新参者はまだ「おかしい」と気づけるからだ。
組織研究者のJames Marchが1991年に論文で指摘したように、組織は「無知で経験の浅い新参者」の継続的な流入に依存している。Stripeの創業者Patrick Collisonも、新入社員に対して「奇妙に思ったことは何でも報告するよう」明示的に求めているという。
Riesebergは自身のNotion時代の経験を例に挙げる。社内で「不可能」とされていたオフラインアーキテクチャの設計を依頼された際、技術的なハードルは実在したが、CEOのIvan Zhaoが唯一の解決策を拒否するという前提は「誰も確認したことがなかった」思い込みだったという。
AIが変えた「実行コスト」の方程式
従来の組織構造が新参者に不利だったのは、実行コストが高かったからだとRiesebergは分析する。アイデアを形にするには多くの承認が必要で、その過程で意思決定権を持つ少数の人間がアイデアを通すかどうかを決定していた。
AIはこの方程式を変えた。実行が安価になった今、プロトタイプを先に作ることで、承認サイクルや仕様書の作成、デザイナーやPMへのロビー活動を丸ごとスキップできる。
彼が具体的に提案する手順は以下のとおりだ:
- マネージャーのマネージャーの目標を把握する
- その目標を劇的に前進させるような野心的なアイデアを一つ選ぶ
- 週末でプロトタイプを作り上げる
重要なのは「一つに絞ること」だ。新しいプログラミング言語、バックエンド、モバイルアプリを一度に詰め込んだプロトタイプは失敗する。アイデアが明確に伝わり、「このアイデアを推進すべき人物が誰か」を経営層が即座に把握できるプロトタイプが理想だという。
この姿勢はPatrick McKenzieが2011年に述べた言葉—「エンジニアはプログラムを書くためではなく、ビジネス価値を生むために採用される」—とも一致する。
実際にAnthropicで起きたこと
Riesebergはこの主張を裏付ける社内事例を紹介している。当時まだ在籍歴の浅かった2人のエンジニア、Anthony MorrisとAlice Zhaoが、Claude Codeのグラフィカルインターフェースを週末で構築した。最初の公開バージョンはその約8日後にリリースされた。
こうした経緯から、Riesebergは採用選考においても、コーディングテストの代わりに小さなプロトタイプを求めるようになった。評価するのは「プロダクトセンス・ユーザーへの共感力・原則に基づいた判断力」だという。原文では "sense, empathy, and principled thinking" と表現されており、技術的な実装力よりもプロダクトとしての意思決定の質を見ていると解釈できる。
この方針転換が問うもの
※編集部の考察
Riesebergの主張は新参者にとってエンパワーメントのメッセージに読める一方で、エントリーレベルの採用基準を「技術的な熟練度」から「起業家的思考・プロダクトセンス」へと移行させるものでもある。これらのスキルは大学ではほとんど教えられておらず、従来は経験豊富なPMや創業者に期待されてきた資質だ。
「Hunger beats tenure」は動機づけになる言葉だが、すべての新人エンジニアが週末にプロトタイプを作れる環境や意欲を持っているわけではない。そのハスル的な前提を当然視することへの疑問も残る。
詳細はWith AI writing the code, entrepreneurial thinking is now what counts most for newcomers at Anthropicを参照していただきたい。




