10月28日、Sean Goedeckeが「Getting good at AI takes time and practice」と題した記事を公開した。AIを使いこなすことは「すぐ習得できる」という認識が誤りであり、実際には時間と継続的な練習が必要なスキルだと、著者は正面から主張する。
なぜmutexの話が核心なのか
AIが書いたコードを信頼してはいけない——そう言うのは簡単だ。しかしGoedeckeが指摘するのは、もっと厄介な問題だ。
AIが生成するコードはコメントが丁寧で、テストも書かれていて、洗練された言語機能も使われている。 人間がそういうコードを書いていたら「このmutexは必要だと判断しているんだろう」と信頼できる。しかしAIの場合、新たに追加されたmutexは、ほぼ無意味なエッジケースのために導入されている可能性が高い。
これが「AIコードレビューは人間コードレビューとは別のスキル」であることの実例だ。そしてこの感覚は、短期間では身につかない。
「どうせすぐ覚えられる」という誤解
AIに懐疑的なエンジニアの間には、「本当にAIが使えるツールになったら、その時点で学べばいい。学習コストなんてたかが知れている」という考え方が根強い。
この記事はその認識を正面から否定する。AIを上手く使うことはトリックの暗記ではなく、長期的なスキルの習得だ。 Goedeckeが具体的に挙げるスキルは4つある。
スキル1:適切なコンテキストを与える
AIを使い始めたばかりの人がよくやるミスは、「エスパーを期待する」ことだ。「この問題を解決して」とだけ伝えて、問題の内容を説明しない。SlackのトラブルをAIに相談するのに、エージェントをSlackに接続しない。
熟練したAIユーザーは、エージェントが必要なコンテキストを欠いていることにすぐ気づき、立ち止まって情報を補う。さらに、「何をしたいか」だけでなく「なぜそれをしたいか」を自然に伝えるようになる。ゴールの背景を伝えることで、エージェントが途中の判断をうまくできるようになるからだ。
スキル2:モデルの得意・不得意を把握する
AIの能力は一筋縄ではいかない。何が得意で何が苦手かは、直感では予測しにくい。
Goedeckeが挙げる具体例が面白い。彼の場合、「サービスのアーキテクチャの新しいアイデアを出してもらう」のは得意だが、「そのサービスに追加できる新機能のアイデア」は苦手だという。また「PRの説明文を書く」のはデフォルトでは苦手だが、プロンプトの工夫次第で得意にできる第3のカテゴリもある。
さらに自身の体験として、GitHub CopilotにMCPサーバーのセットアップを頼めると気づくまでに時間がかかったことを挙げている(「ロボットに自分でやってもらえばいい」と弟に言われるまで気づかなかったと書いている)。ローカルでのテスト実行——サーバーの起動、curlでの叩き込み、エッジケースの洗い出し——をエージェントに任せるのも、しばらく使って初めて思いついたという。
この「モデルに何ができるかの感覚」は、新モデルが出ても意外と陳腐化しにくい。新モデルは既に得意なことがさらに得意になる傾向があり、不得意なことの改善は緩やかだからだ。
スキル3:AIが犯しやすいミスを知る
AIが書いたコードのレビューは、人間が書いたコードのレビューとは別のスキルだ。
人間のコードでよく見るオフバイワン系のバグはAIにはほぼ出ない。一方でAI特有のバグがある。それは「ズレ」の問題だ——人間なら重要でないとわかる部分を過剰に作り込んだり、架空の要件を満たすために本来の要件をトレードオフしたりする。
冒頭で触れたmutexの例がまさにこれだ。表面的な流暢さ——丁寧なコメント、網羅されたテスト、洗練された構文——が「信頼できるエンジニアが書いたコード」のように見せてしまう。しかし実際には、その洗練さはAIが「それらしいコード」を生成しようとした結果であり、設計判断の根拠ではない。この区別を身体で覚えるには、実際にレビューを繰り返すしかない。
スキル4:AIの冗長な出力を素早く読み飛ばす
地味だが実用上は重要なスキルとして、Goedeckeは「AI slop(AIの冗長出力)を高速でスキャンする能力」を挙げる。
AIの出力には有用な情報が含まれているが、大量の言い回しに埋もれている。慣れると「本質的な主張と根拠が出てくるまで目を滑らせる」感覚が身につく。慣れていないと、この「藪漕ぎ」に時間と精神力を無駄に使う。逆に言えば、この読み飛ばし感覚が養われていないうちは、AIとのやり取り自体が消耗になりやすい。他の3つのスキルと同様、これも反復によってしか身につかない習慣だ。
「今学んでも無駄」論への反論
こうしたスキルも将来のモデル進化で陳腐化するのでは、という反論に対して、Goedeckeはチェスの「センチュリー時代」を引き合いに出す。チェスでは、人間とコンピュータのペアが単独の人間や単独のコンピュータより強い時期が長く続いた。ソフトウェア開発でも同様の時代が数十年続く可能性がある。
また、「どうせ廃れる」という理由でAngularやReactを学ばなかった人たちが実際には損をした事例も引き合いに出している。Reactは結局廃れず、スキルは今も有効だ。
結論:「後で学べばいい」は機能しない
記事の最後でGoedeckeはこう断言する。意図的にAIを避けているなら、そうでない人たちから遅れをとっている。他人にAIを完全に避けるよう勧めているなら、それは相手のためにならない。
一方でAIに全振りするのも誤りだという。LLMは専門知識を持つ人間をより強化するという性質があり、その専門知識は手を動かして身につけるしかない。AIを練習しなければ、うまくなれない——ただそれだけのことだ。
詳細はGetting good at AI takes time and practiceを参照していただきたい。




