10月30日、Paul Kedroskyが「Nine Charts on the AI Boom: Debt Records, China Bust, Anthropic Indifference, Oracle Magic, etc.」と題した記事を公開した。9つのチャートを通じて浮かび上がるのは、AIブームの恩恵が極めて偏在しているという事実だ。技術を売る側の大企業・投資家・サイバーセキュリティ分野が利益を享受する一方、S&P500の大半の企業には恩恵が届いておらず、債務とVC資金が循環することでブームが下支えされている実態が鮮明になっている。
AIブームの「受益者」は誰か
大手テクノロジー企業の従業員1人あたり売上高は、レイオフとAI活用の組み合わせによって急上昇している。一方、S&P500の残り493社は2019年以降、実質ベースでほぼ横ばいだ。AIの生産性向上効果は技術を売る側の企業に集中しており、その恩恵が広く普及している証拠は今のところ乏しい。
さらに際立つのが、AIの循環経済問題だ。AIへの支出が多い大企業の80%がベンチャーキャピタル(VC)支援を受けているのに対し、中央値的な支出企業ではその割合は13%にとどまる。VCがAIサービスを購入する企業に出資し、同時にVCとプライベートクレジット(銀行融資に依らない私的な信用供与)がAIサービスを供給する企業にも資金を供給している。つまり、AIエコノミーの大部分は「投資家が別の投資家の顧客に資金を出している」構造になっている。この循環がいつまで持続するかは、誰にも分からない。
中国のAI株:64%上昇から40%下落へ
中国のAI関連銘柄で構成されるSTAR 50指数は、今年6月までに64%上昇した後、10月下旬までに40%下落した。個別銘柄の打撃はさらに深刻で、最近IPOしたヒューマノイドロボットメーカー「Unitree」は株価が半値まで落ち込んでいる。
AIブームの過熱と急冷が、中国市場では特に激しい形で現れている。
サイバーセキュリティ株がマグニフィセント・セブンを圧倒
見落とされがちだが、サイバーセキュリティ株は今年61%上昇しており、いわゆる「マグニフィセント・セブン」の8%を大幅に上回る。
背景にあるのは、AIがサイバー攻撃のコストを下げ、スケールさせやすくしているという構造変化だ。攻撃側のコストが下がれば、防御側の需要は必然的に拡大する。AIブームそのものへの投資より、AIを使った攻撃への防衛に投資した方が、今年はリターンが高かったということになる。
Oracle Magic:クラウドインフラ需要の急拡大
記事タイトルに「Oracle Magic」と銘打たれたチャートが示すのは、AI向けクラウドインフラ需要の急拡大を背景としたOracleの急成長だ。Oracleはクラウドデータベース・インフラ事業においてAWS・Azure・Google Cloudとは異なる立ち位置を確立しており、AI企業からのGPUクラスタ需要やデータベース需要の取り込みによって業績が急速に伸びている。チャートは、AI投資の恩恵が必ずしもNVIDIAやハイパースケーラーだけでなく、インフラの周辺プレイヤーにも波及していることを視覚的に示している。
史上最大規模の債務発行ウェーブ
記事タイトルに「Debt Records」として掲げられているチャートは、このブームの資金調達構造を端的に示す。AIインフラへの巨額投資を支えるために企業債務の発行規模が過去最大水準に達しており、チャートはその急激な立ち上がりを示している。発行額の規模感は過去のどの技術サイクルと比較しても突出しており、AI投資の実体を支えているのは収益ではなく借金である側面が強いことを示唆している。前述の循環経済構造と組み合わせると、このブームの持続可能性に対する疑問はさらに深まる。
AIモデルの内部は依然ブラックボックス
研究者がAIモデル「Qwen3-8B」(中国Alibabaが開発したオープンソースの大規模言語モデル)の個々のニューロンを意図的に操作し、「あなたは誰ですか?」と問いかける実験を行った。34,220件のケースで、モデルはAIとは異なる何かであると主張し、「万里の長城」や「千年生きた幽霊」などと答えることもあった。このチャートおよび実験は、モデルの能力と内部理解のギャップを示す例として記事中で取り上げられている。
驚異的な推論能力を持つモデルが生まれている一方、その内部表現がどのように機能しているかについての理解は危険なほど浅い——記事はそう指摘する。
AnthropicよりSpaceXのIPOへの関心が圧倒的
急成長中のAI企業Anthropicは近くIPOが見込まれているが、GoogleトレンドでのIPO関連の検索関心は、SpaceXのそれとは比較にならないほど低い。SpaceXのIPO検索は今年6月に急増した後に急落したが、それでもAnthropicへの関心を大きく上回った。AIの中核企業への一般投資家の関心が、宇宙開発企業に負けているという非対称性は興味深い。
9つのチャートが示す全体像は、AIブームが「一部の勝者」と「循環する資金」と「理解されていない技術」の上に成り立っているというものだ。Oracleのような周辺インフラ企業が恩恵を受け、史上最大規模の債務が積み上がり、投資家同士が互いの顧客に出資し合う——この構造の持続可能性こそが、今最も問われるべき問いだと記事は示唆している。
詳細はNine Charts on the AI Boom: Debt Records, China Bust, Anthropic Indifference, Oracle Magic, etc.を参照していただきたい。




