11月3日、PYMNTSが「AI Agents Could Control 5% of Cross-Border Payments. Who Controls Them?」と題した記事を公開した。AIエージェントが自律的に国際送金を「起こす」時代が目前に迫っている——そう主張するのは、グローバル決済インフラを手がけるMural(旧Mural Pay)のCEO、Sinclair Toffaだ。彼の予測では、1年以内にAIエージェントが国際送金取引の5%を自律的に開始するようになるという。問われているのは技術の成熟度ではなく、「誰がエージェントを管理し、誰が責任を負うか」というガバナンスの問題だ。
AIエージェントが「送金の起点」になる時代
ステーブルコイン、リアルタイム決済ネットワーク、AIが同時に成熟しつつある今、金融インフラの競争は「どのサービスが速いか」から「どのアーキテクチャが信頼できるか」へと軸が移りつつある。
Muralは2019年創業のフィンテック企業で、ステーブルコインを活用した企業向けグローバル決済・資金管理プラットフォームを提供している。複数の法域にまたがる送金・給与支払い・外貨管理などを統合的に扱えるインフラを構築しており、2023年以降は複数ラウンドの資金調達を経て事業を拡大している。
そのMuralのCEOであるToffaが使う比喩は明快だ——「エージェントは新しいインターフェースだ」。デスクトップからモバイルアプリへの移行と同様に、人間が操作するUIから、ソフトウェアが自律的に動くエージェントへの移行が起きているというのが彼の見立てだ。
ただし、この5%という数字は、楽観的な目標値であると同時に、達成のハードルがいかに高いかを示す指標でもある。言い換えれば、全体の95%はまだ人間の判断と操作を必要とし続けるということだ。国際送金には認可(Authorization)、責任(Liability)、監査(Oversight)という未解決の問題が山積しており、AIエージェントが実際に送金を「起こす」には、既存の銀行口座への無制限アクセスではなく、専用の金融アカウント、きめ細かな権限設定、トランザクション単位の監査証跡が必要になる。
問題の本質は「決済レール」ではなく「ガバナンス」
Toffaはもともと、大規模データ分析・政府向けインテリジェンスプラットフォームで知られるPalantir Technologiesのエンジニア出身だ。複雑なデータ構造とアクセス制御を扱ってきたその経歴を反映してか、Muralのアプローチは技術的に整理されている。
彼らが取り組むのは、既存の金融ネットワークをつなぐソフトウェアオブジェクトの標準化だ。具体的には、コンプライアンス記録・パーミッション・監査証跡を金融ソフトウェアのレイヤーに組み込み、共通のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)で複数の断片化した金融システムにアクセスできる構造を目指している。
Toffaが参照例として挙げるのがStarbucksだ。組み込みウォレット、利息付き口座、ポイントプログラム、外貨両替機能——これらをアプリに統合することで、Starbucksは顧客との関係を深め、経済的価値を自社の中に取り込んでいる。Muralはこのモデルを、消費者向けプラットフォームから複数通貨・複数法域で動くB2Bビジネスへと拡張しようとしている。
Toffaが使う言葉を借りれば、「金融の断片化はもはやパイプの不足の問題ではなく、ソフトウェアとガバナンスの問題だ」。
ラテンアメリカで浮かび上がるステーブルコインの実需
記事では、ラテンアメリカにおけるステーブルコインの実用例が具体的に示されている。
現地でドルを稼ぐ企業が、いったん現地通貨に換え、海外サプライヤーへの支払いのためにまたドルに戻す——この二重の外貨両替(FX)コストは、国境をまたぐビジネスにとって無視できない摩擦だ。ステーブルコイン建ての金融プロダクトはこの摩擦を一部解消できるが、換金・償還・流動性リスクは依然として残る。
「多くのビジネスや個人がドルで保有したがっている。しかし米ドル建て銀行口座を開くのが難しい」とToffaは述べている。
Muralは実際に、グローバル給与支払いプロバイダーのDeelと連携し、ラテンアメリカの労働者へのステーブルコイン建て給与支払いを支援している。これにより企業側の国際送金と、ドル建て資金を求める受取人側のニーズをつないでいる。
なお、ステーブルコインを用いた国際送金をめぐる規制環境は急速に変化しており、欧州ではMiCA(暗号資産市場規制)が2024年から段階的に施行されているほか、米国でもステーブルコイン規制法案の議論が進んでいる。Muralのようなプレイヤーがグローバルにスケールするためには、こうした各法域の規制対応が重要な変数となる。
「誰が責任を負うか」が次のボトルネックになる
記事の核心はここだ。AIエージェントが自律的に送金を実行するとき、誰がリスクを管理し、ミスが起きたとき誰が補償するのか。
PYMNTSのCEO Karen Websterは対談の中で、「企業が信頼とリスクの問題が解決される前に、ソフトウェアに財務コントロールを委ねるだろうか」と問いを立てている。
自律型決済の未来を左右するのは、送金の速度ではなくパーミッション(権限の粒度と信頼性)だ——というのが記事全体を貫くテーゼだ。企業が「どれだけ自信を持ってエージェントに送金の権限を委任できるか」が、グローバル金融インターネットの実現を左右する。
Toffaの主張は、技術的な可能性の宣言というより、インフラ設計者としての問題提起に近い。AIエージェントが送金を起こす世界を機能させるには、速いパイプではなく、監査可能で、責任の所在が明確で、きめ細かく制御された権限設計が不可欠だ——という視点は、フィンテック・エンジニア・規制当局のいずれにとっても示唆に富む。
詳細はAI Agents Could Control 5% of Cross-Border Payments. Who Controls Them?を参照していただきたい。




