11月4日、Analytics India Magazineが「84% See AI Productivity Gains, but Only 10% Allow Agent Autonomy: TCS Study」と題した記事を公開した。TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)が25カ国・1,333人の経営幹部を対象に実施した大規模調査をもとに、エンタープライズにおけるAI導入の実態を報告したものだ。最大の発見は数字の対比に凝縮される——AIの効果を実感している企業は**84%に達する一方、AIエージェントに自律的な意思決定を許可している企業はわずか10%**。「使えば効く。しかし任せない。」この構図が、2025年現在のエンタープライズAIの本質を鮮明に映し出している。
「使えば効果あり」なのに、なぜ自律化を許さないのか
調査の最大の発見は、このギャップに集約される。
- 84% の経営幹部がAI投資の主要な成果として「生産性向上」を挙げた
- 一方、**複数の業務機能にわたってAIエージェントが人間の承認なしに意思決定を実行することを許可している企業は、わずか10%**にとどまった
「効果は出ている。しかし任せない。」——この構図が、現在のエンタープライズAI導入の本質を示している。
さらに深刻なのは、AIエージェントがエンタープライズアプリケーション間でワークフローを安全にオーケストレーションできていると答えた経営幹部はわずか**9%**だという点だ。AIエージェントの活用が盛んに語られる一方で、実際に社内システムを横断して動かせている企業はほとんど存在しない。複数システムにまたがるエージェントの統合は、単一タスクの自動化とは次元の異なる難易度を持ち、その壁がこの数字に表れている。
自律化を阻む要因:コストより優先されるセキュリティとガバナンス
TCSのChief AI and Services Transformation Officerであるアミット・カプール氏は次のように述べている。
「組織の歩みを慎重にさせているのは——そしてそれは正しいことだが——セキュリティ、ガバナンス、レジリエンスへの懸念だ。AIを責任ある形でデプロイすること、適切なガードレールとエンタープライズコントロールを備えること、それが次のステージにおける大きな焦点になる。」
調査では、AIシステムをどこにどう展開するかを決める際の最上位の考慮事項として、セキュリティ・リスク・ガバナンスが挙げられた。コスト、スピード、デプロイのしやすさよりも上位に位置する。
エンジニア視点では、AIエージェントが複数の社内システムにアクセスするようになると、その行動や意思決定を追跡するオブザーバビリティ(可観測性)の重要性が増す。オブザーバビリティとは、システムの内部状態を外部からの出力(ログ・トレース・メトリクスなど)によって推測・把握できる度合いを指す概念で、マイクロサービスやクラウドネイティブ開発の文脈で広く使われてきた。AIエージェントが何をしたか、なぜその判断を下したかをトレースできなければ、ガバナンスは絵に描いた餅になる。
モデル非依存を望むが、移行計画がない
もう一つ興味深い数字がある。90% の回答者がAI投資においてモデル非依存性(特定ベンダーに縛られないこと)を重要と考えていると回答した。しかし、**AIプロバイダーを切り替えるための組織全体の継続性計画を持っている企業はわずか7%**だ。
「重要だとは思っているが、備えていない」——セキュリティ対策と同じ構図がここにも現れている。
また、34% の回答者が「AIソブリンティ(AI主権)」要件を高いリスクと認識している。AIソブリンティとは、データの保存場所・AIモデルの選択・法規制への準拠といった要素を通じて、企業や国家が自国・自社のAI利用に対してどこまで管轄権・制御権を持てるかという概念だ。背景には、EUのGDPRに代表されるデータローカライゼーション規制や、各国がクロスボーダーのデータ移転に対して課す法的制約がある。欧州ではこの数字が**43%**に上昇しており、EU AI Actなど域内の規制強化の動向が、経営幹部のリスク認識を押し上げている実態が浮かび上がる。
コスト対効果も未解決、知識の断片化も課題
AI投資の経済性もまだ定まっていない。39% の企業が、AIイニシアチブがトークンや計算コストに見合うだけの価値を生み出しているかどうか、いまだ評価中と回答した。
コスト管理の事例として、フィデリティ・インターナショナルがユースケース単位のトークン予算と内部AIゲートウェイを導入し、支出の監視とアクセス制限を行っている例が紹介されている。
また、44% の回答者が「重要なビジネス知識が従業員の頭の中や断片化したドキュメントに埋め込まれたまま」と回答しており、AIシステムが必要なコンテキストにアクセスできない状況が続いている。RAGやナレッジグラフといった手法でこの問題を解決しようとする動きはあるものの、調査結果はその普及がまだ限定的であることを示唆している。46% はオープンソースAIを特定ユースケースに限定して導入していると答えた。
雇用への影響は「まだわからない」が急増
AIが雇用に与える影響について「判断するには時期尚早」と答えたリーダーの割合は、2024年の**4%から調査時点では19%**に増加した。AIの能力が上がるほど、影響の見通しが難しくなっている。
調査の概要
本調査「Intelligence that is Real」は、25カ国・12業界にわたる1,333人のシニアビジネス・技術リーダーを対象に実施された。なお、レポートの公開はAnalytics India Magazineの記事掲載(11月4日)時点のものであり、調査の実施時期とのタイムラグがある可能性がある点は留意が必要だ。対象企業の年間売上高は5億ドルから200億ドル超の範囲に及ぶ。地域別では、北米が戦略的企業能力としてAIを位置づけているリーダーの割合が**15%**と比較的高く、英国・アイルランドではガバナンス統合や継続性計画の成熟度が相対的に高い結果となった。
詳細は84% See AI Productivity Gains, but Only 10% Allow Agent Autonomy: TCS Studyを参照していただきたい。




