11月4日、Help Net Securityが「Companies going all in on AI could see their strategy backfire」と題した記事を公開した。GartnerのQuarterly Emerging Risk Reportによると、**AIプロジェクトから測定可能なリターンを得られたと答えたCFOはわずか17%**にとどまる一方、AI関連リスクがトップ5のうち4項目を占める事態となっている。「AI全振り」戦略が期待を裏切るリスクは、今や企業経営の中心課題に浮上しつつある。
AI関連リスクがトップ5のうち4つを占めた
Gartnerが308人のエンタープライズリスク管理リーダー、監査担当者、上級幹部の回答をもとにまとめた「Quarterly Emerging Risk Report」によると、企業リスクランキングの上位5項目のうち4項目がAI関連であった。
| 順位 | リスク項目 |
|---|---|
| 1位 | AIによるサイバー脆弱性の発見 |
| 2位 | 地政学的エネルギー供給ショック |
| 3位 | AI戦略の誤算(今回初登場) |
| 4位 | AIによる競合優位の喪失(今回初登場) |
| 5位 | AI時代の人材準備不足 |
1位と2位は2四半期連続で同順位であるが、今回の焦点は3位と4位に初めてランクインした2項目だ。
「AI全振り」が裏目に出るメカニズム
GartnerのRisk & Audit Practice シニアプリンシパルアナリストのKevin Mercadoは、次のように述べている。
「組織は、ユースケースがビジネス優先事項・リスク許容度・利用可能なケイパビリティ(組織が実際に行使できる能力・リソースの総体)・期待リターンと整合しているかを十分に検証しないまま、AI施策を追求するリスクがある」
問題の構造はシンプルだ。競合に遅れまいとするプレッシャーから、プロジェクトの実現可能性やチームの実装準備が整う前にリソースを投入してしまう。AIの恩恵が「期待より遅く、期待より小さく、経済価値が期待を下回る」形で現れた場合、他の優先事項から資金と人員を奪った損失だけが残る。いわゆる「バックファイア(裏目効果:意図した成果とは逆の結果を招くこと)」が生じるわけだ。
数字で見る「AI投資の現実」
Gartnerの複数の調査から見えてくる現状は厳しい。
- CFO調査:AIプロジェクトの半数超が「測定可能な収益成長またはコスト削減」をもたらしたと回答したCFOはわずか17%
- 取締役会調査:株主価値を生むためにより大きな技術リスクを取るべきと回答したのは64%
- 監査委員会調査:翌年にAI戦略の監査を予定していると回答したのは43%
取締役会の6割超が「もっとリスクを取れ」と主張する一方で、CFOの8割超が「実際にはリターンが出ていない」と答えている。現場の投資判断と経営層の期待値の乖離が、戦略ミスを生む温床になっている。
また、リスク管理の側面では、AIリスクの記録方法にも変化が生じている。2025年調査(225人のシニアリスク・保証リーダーを対象とした独立調査)では、AIをリスク登録簿にスタンドアロン(単独)エントリとして記録している組織の割合が、2024年の36%から2025年には23%に低下した。AIリスクを他のリスク項目と組み合わせて複合的に管理する組織が増えていることを示している。
※なお、308人対象の調査(エンタープライズリスク管理リーダー等)と225人対象の調査(シニアリスク・保証リーダー)は、同一のQuarterly Emerging Risk Reportシリーズに属するが、対象母集団・調査時期が異なる別個のサーベイである。元記事では両者をまとめて言及しているため、数字の読み比べの際はご留意いただきたい。
競合劣位と人材ギャップも上位に
4位の「AIによる競合優位の喪失」は、AI活用がパイロット段階で止まり続けた企業が、AIを使ってより良いサービスや低価格を実現した競合にユーザーを奪われるリスクである。試験的な取り組みを本番スケールに引き上げられない組織が、じわじわと市場ポジションを失うシナリオを指す。
5位の「人材準備不足」は、職務要件の変化が従業員のスキル習得より速く進む問題を指す。トレーニングや指導が不十分であると、AI導入にばらつきが生じ、投資対効果が下がる。AI戦略の誤算(3位)とも連動しており、人材面の準備不足が実装品質を下げ、期待リターンをさらに遠ざける悪循環につながりうる。
Gartnerが提言する対応策

Gartnerは組織に対して、以下の対応を推奨している。
- AI戦略の監督者と実行者を明確にする:責任の所在を曖昧にしたまま進めると、問題発生時の対処が遅れる
- 各AI施策が他の優先事項やリソースに与える影響を事前に評価する:AI投資は必ず既存のプロジェクトや人員配置とトレードオフを生む
- リターンの測定方法を事前に定義する:たとえばAIが従業員の作業時間を削減した場合、その時間が実際にどう再配分され、生産性向上につながっているかを追跡する仕組みを導入前に設計しておくことが重要だ
Mercadoはさらに「AIをビジネス判断のポートフォリオとして評価すべきだ」と強調している。スケールアップ前に準備状況を検証し、責任ある実験を支えるガバナンスを整えることが、持続的な価値創出につながるとしている。個別のAIプロジェクトを点で評価するのではなく、組織全体の投資バランスとリスク許容度のなかで位置づける視点が、今後の企業経営においてますます求められるといえるだろう。
詳細はCompanies going all in on AI could see their strategy backfireを参照していただきたい。




