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Deep Dive

「AGI間近」なのにトップ研究者が次々と大手を去る理由 — OpenAIやDeepMindの中心人物たちが賭ける「今の手法では限界がある」という仮説

11月7日、The Decoderが「Frontier Radar #5: If AGI is so close, why is everyone leaving? The neolabs and their bets」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIやGoogle DeepMindなどの大手AIラボを離れたトップ研究者たちが独自の「ネオラボ」を次々と設立している現象と、各社が賭ける技術的方向性について詳しく紹介されている。

11月7日、The Decoderが「Frontier Radar #5: If AGI is so close, why is everyone leaving? The neolabs and their bets」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIやGoogle DeepMindなどの大手AIラボを離れたトップ研究者たちが独自の「ネオラボ」を次々と設立している現象と、各社が賭ける技術的方向性について詳しく紹介されている。


「AGI間近」なのに、なぜ最前線の研究者が去るのか

NvidiaのJensen HuangはX上で「AGIが到来した」と宣言し、OpenAIのGreg Brockmanは「AGI時代の幕開け」を高らかに謳った。ところが、そのAIシステムを実際に作ってきた人々は、静かにラボを去っている。

  • Ilya Sutskever(OpenAI共同創業者・元チーフサイエンティスト)→ Safe Superintelligence(SSI)設立
  • Jerry Tworek(OpenAIのo1・o3推論モデル開発リーダー)→ Core Automation設立
  • David Silver(AlphaGo開発の中心人物、Google DeepMind)→ Ineffable Intelligence設立
  • Yann LeCun(Meta 12年在籍)→ AMI設立
  • Jeff Dean(Google 27年在籍・元チーフサイエンティスト)→ Discovery Loop設立

資金も動いている。SSIはまだモデルも論文も一本も出していないにもかかわらず、NvidiaがBloomberg報道によれば50億ドルを投資。Jeff BezosがAmazon退任後に支援するPrometheus(次世代AI基盤を目指すスタートアップ)は410億ドルバリュエーションで120億ドルを調達。Flapping Airplanesも公開モデルなしでシリーズAで10億ドルを集めた。

彼らが共有しているのは、「AGIが来ない」という懐疑論ではない。「今の手法だけではたどり着けない」という疑念だ。大規模言語モデルをインターネットデータで訓練し、強化学習で磨く現在のレシピへの疑問である。


「ネオラボ」とは何か

記事ではこの新世代のスタートアップ群を「ネオラボ」と呼ぶ。独立して設立され、研究主導で、長期的な技術的賭けを中心にビジネスを構築する企業群だ。

この波が可視化されたのは2024年。大手クラウド企業がAIパートナーを固めた頃(MicrosoftはOpenAI、AmazonはAnthropicを支援)、SutskeverがSSIを設立し、製品なしの研究チームに数ヶ月で10億ドルを集めた。

投資家が賭ける論理は明快だ。OpenAIもAnthropicも今や大企業化し、兆ドル規模のバリュエーションでIPOを準備している。大企業では研究チームと製品チームが予算と注目を奪い合い、既存ビジネスを脅かすアイデアは通りにくい。経営学でいう「イノベーターのジレンマ」だ。小さなチームが大企業の見落としを突く、というのが投資家の読みである。

先例もある。Transformerは2017年にGoogleで発明されたが、大衆向けAIアシスタントを作ったのはOpenAIだった。その次の突破口はOpenAIのスピンオフ・Anthropicから生まれた。元記事によれば、Anthropicの年換算収益は650億ドル超に達しているという。


6つの技術的賭け:研究者たちは何に張っているか

記事では27のネオラボを、主な技術的方向性によって6グループに分類している。本稿では、最も多くのラボが集中する「学習方法そのものを変える」という賭け(賭け1)を中心に紹介する。残る5つの賭けの詳細は元記事を参照していただきたい。

賭け1:「優れた問題解決者」は必ずしも「優れた学習者」ではない

現在のモデルは膨大なデータで訓練されるが、デプロイ後は重みを更新しない。会話内で新情報を使えても、経験から恒久的に学習はしない。継続的学習(Continual Learning)は依然として大きな研究上の空白だ。

Core Automation(Tworek)のアプローチは直球だ。彼は「継続的学習は機械学習の問題であって、Markdownファイルの問題ではない」と語る。目標は、デプロイ中に重みを更新し、現在の100分の1のトレーニングデータで動くモデルだ。共同創業者のRohan AnilはGeminiの事前学習をGoogleで主導した人物である。

Tworekはこうも言っている。「OpenAIにいた頃は、最強モデルを作るレースの中にいた。リスクを取れる余裕がなかった」。

Flapping Airplanes(Ben SpectorとAsher Spectorが共同創業した、データ希少領域向け学習手法に特化したスタートアップ)はロボティクスや生物学など、テキスト・画像ほどデータが豊富でない分野を狙う。現在のモデルはこうした領域で弱く、少数の例から学ぶ手法を、生物学的原理にヒントを得つつGPUで動くよう設計することを目指す。最初の1年はほぼ基盤整備(GPU訓練の効率化)に費やした。公開モデルはまだない。

Ineffable Intelligence(David Silver)の発想の源はAlphaGoだ。初代AlphaGoは人間の棋譜から学んだ。AlphaGo ZeroとAlphaZeroは自己対戦のみで学び、前身を超えた。SilverとRichard Suttonは2025年春に"Welcome to the Era of Experience"を発表し、「人間模倣だけではヒューマンレベルの壁を超えられない」と論じた。Ineffableが目指すのは、人間のフィードバックではなく環境からの報酬で学ぶ「Superlearner」だ。欧州最大となる11億ドルのシード調達(ポストマネーバリュエーション51億ドル)を達成済みだが、使えるシステムはまだない。

Adaption(元Cohere研究部門責任者のSara Hookerが率いる、効率的な訓練手法の研究に特化したスタートアップ)はスケーリング則そのものに疑問を呈する点で、このグループの中でも独自の立場にある。Hookerは2025年1月の論文"On the Slow Death of Scaling"で、「コンピュートを増やしてもモデルが改善される信頼性が低下している」と主張。8〜27億パラメータのオープンモデルが1800億パラメータのFalcon 180Bをベンチマークで上回る事例を挙げ、データと訓練手法がより有効なレバーだと論じる。元記事ではAdaptionをこの「学習方法を変える」グループに分類しているが、スケーリング則への批判という観点からは他のカテゴリとの境界が重なる部分もある。

リードは長く続かない

ネオラボの先行者優位がいかに脆いかを示す事例もある。TypeSafe AI(元OpenAI・Google研究者らが立ち上げた、AIの意思決定・判断支援に特化したスタートアップ)が9月中旬に「Jev(意思決定モデル)」をリリースした2週間後、OpenAIは独自のDecisions APIを発表した。ただ、短期リードでも専門性の証明にはなり、買収の出口につながる。MicrosoftはInflectionのコアチームを丸ごと採用し、GoogleはCharacter.aiとWindsurfの幹部を獲得した。AMDはWorld Labsを約82億ドルで買収しようとしており、NvidiaはReflectionとの交渉中とFT(Financial Times)が報じている。


大手に戻る可能性も排除できない

注目すべき構造的事実がある。Discovery Loop(Jeff Dean設立)には、GoogleのAlphabetが設立時の投資家として参加しており、クラウドパートナーでもある。完全な独立ではなく、大手との接続を保ちながらリサーチの自由度を確保するモデルも存在する。

ネオラボへの問いは結局一つに収束する。大手が持っていないものを、顧客や大手自身が金を払うレベルで実現できるか。現時点では大半のラボがモデルも論文も公開していない。投資家はその「まだ何もない」状態に数十億ドルを注いでいる。

詳細はFrontier Radar #5: If AGI is so close, why is everyone leaving? The neolabs and their betsを参照していただきたい。