11月6日、OpenAIが「Australian universities are creating AI-native graduates」と題した記事を公開した。オーストラリアの複数の大学がOpenAIと連携してChatGPTを全学導入し、AIネイティブな人材育成を制度として推進している取り組みが詳しく紹介されている。
オーストラリアの大学群、ChatGPT Eduを全学展開へ
記事の核心は、UNSW Sydney、University of Sydney、La Trobe University、Adelaide Universityという主要4大学がOpenAIと個別に協定を結び、ChatGPT Eduの全学展開を進めているという事実だ。
各大学の規模感は以下のとおり:
- UNSW Sydney:学生・スタッフ8万人以上にChatGPT Eduを段階的に展開
- La Trobe University:スタッフ3,500人はすでにアクセス済み、2027年第1四半期に学生・スタッフ4万5,000人への全面展開を計画
- University of Sydney:2027年セメスター1での全学生アクセスを目標に試験運用中。あわせて100万ドルのAI持続可能性研究・イノベーションファンドを設立
- Adelaide University:複数大学の合併により新設された大学として、ゼロからAI統合を設計中。サイバーセキュリティ分野では、OpenAIのDaybreak Blue(OpenAIがサイバーセキュリティ用途向けに提供するAIプログラム)を活用した脆弱性調査・マルウェア解析・インシデント対応などの防御的セキュリティ業務にも着手している
La Trobe大学の動きが特にアグレッシブだ。オーストラリア初のAIエンジニアリング学士課程(優等学位)を2027年に開設するほか、AI MBAプログラムも導入する。さらに同大学は「Pro Vice-Chancellor AI兼最高AI責任者(Chief AI Officer)」というポストを新設し、Phil Laufenberg氏を任命した。大学行政にCAIOを置く動きはオーストラリア初とされる。
「実習」の中身が面白い
単にアクセスを配布するだけでなく、実際の授業への組み込み方に工夫がある。
La Trobe大学の救急医療シミュレーションでは、ChatGPTを使ってECG(心電図)の解読、心筋梗塞の評価、多数傷病者発生時のトリアージ判断などの練習問題を生成し、大学のLMS(学習管理システム)上で提供している。Cameron Anderson氏(救急救命学プログラム長)が主導するこの取り組みは、高コストな臨床実習の補完として機能している。
さらに特徴的なのが、ソーシャルロボット「Fletch」を使った教員養成だ。OpenAIのLLMをMicrosoft Azure経由で動かすFletchは、音声・表情・頭部の動きで応答する。経験豊富な教育者へのインタビューを元にリアルなシナリオを設計しており、保護者との対立的な面談という、多くの教員が苦手とする場面を繰り返し練習できる。

La Trobe大学のTherese Keane教授とソーシャルロボットのFletch
La Trobe大学はCodexとChatGPT Workも全学展開しており、「Vibe Coding for Startups」「Agentic AI Software Engineering」といった科目も開設予定だ。また「AI Business Studio」では、2028年までに1,000人以上の学生がコンサルタントや現場エンジニアとして中小企業のAI導入を支援する実習経験を積む計画がある。
Laufenberg氏は次のように述べている:「ChatGPTとCodexにより、初期のシステム開発とイノベーションにかかる期間が数ヶ月から数週間に短縮された」。月次アクティブユーザーは月10%成長で推移しているという。
「使っていい・ダメ・必須」の3分類で評価基準を明確化
AIを導入しつつも、学生自身の能力を担保するフレームワークの整備も進んでいる。
UNSW Sydneyが導入したのは「Can, Can't, Must」フレームワークだ。授業の学習目標に応じて教員がAI利用を「可(Can)」「禁止(Can't)」「必須(Must)」の3択で設定できる仕組みで、科目単位でAI活用の位置づけを明示する。「全学必修化」ではなく、科目ごとに教員が判断を持てる柔軟な設計が特徴だ。University of Sydneyは監督下での試験で学生自身の能力を示した上で、オープンな課題ではAI活用能力を評価する二段構えの評価方針を採用する。
La Trobe大学のライブラリは「Responsible and Safe AI学習モジュール」を無償提供し、2027年セメスター1からは1年生向け優先50科目にAIスキル開発を組み込む。教育・法律・医療の各分野向けにカスタマイズされたモジュールが用意され、専門職としての責任と結びついた形でAIリテラシーを習得できる設計になっている。
学生側の意識調査が示す数字
今回の記事はOpenAIが委託した調査(Pureprofile実施、2026年8月3〜7日、全国18歳以上の大学生1,018人対象)に基づいている。主な結果は以下のとおり:
- 81% が週複数回AIを使用、うち33% が1日に複数回
- 28% がすでにAIエージェント・アシスタントを自作した経験あり
- 61% がAIスキルはキャリアに不可欠と回答
- 69% がAIリテラシーはデジタルリテラシー・文章力・数的能力と同等の基礎スキルになると回答
- 76% が起業や独立に関心あり、68% がAIにより起業が容易になると回答
注目すべきは、AIを「使ったことがある」という受動的な関わりにとどまらず、28%がすでに自作経験を持つという点だ。AIを道具として使う側から、設計・構築する側へと学生の関与が深まりつつあることを示しており、大学側がAIエンジニアリング学位やAI MBAを設ける動きとも符合する。61%がキャリアに不可欠と答えた数字は、学生自身がAIスキルを「あると便利なもの」ではなく「なければ不利になるもの」と捉え始めていることを示唆している。
日本の大学でもAI利用ポリシーの整備は進みつつあるが、学部横断での全学展開・専任CAIOの設置・学位プログラム化という制度レベルでの動きは、まだ限定的だ。オーストラリアのこの動きは、高等教育機関がAIをどう組織に組み込むかの一つの実例として参照できる。
詳細はAustralian universities are creating AI-native graduatesを参照していただきたい。




