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AIによるコード盗用を受け、Asahi LinuxがMITからGPLへ全面移行 — OSSプロジェクト初の「AI起因ライセンス転換」事例

11月8日、It's FOSSが「Asahi Linux Drops MIT and Goes Full GPL After AI Tools Were Used to Steal Unreleased Code」と題した記事を公開した。AIツールを使ったコード盗用を受け、Asahi LinuxがMITライセンスからGPLへ全面移行した経緯を詳しく紹介している。「AIを悪用したコード盗用への対策としてコピーレフトへ移行した初の公知事例」として、OSSライセンス選択の在り方そのものに一石を投じる出来事だ。AIによるコード盗用がOSSライセンスの転換点を招いたAsahi Linuxは、Apple Silicon Mac上でLinuxを動作させることを可能にしたプロジェクトだ。長年にわたり、自プロジェクトのコードの大部分をMITライセンスで公開してきた。BSD系OSを含む誰もが再利用できるよう、あえて制約の少ないライセンスを選んでいた。しかしこの方針が、コード盗用の温床になったとして、Asahiチームは全リポジトリをGNU General Public License v2以降(GPL-2....

11月8日、It's FOSSが「Asahi Linux Drops MIT and Goes Full GPL After AI Tools Were Used to Steal Unreleased Code」と題した記事を公開した。AIツールを使ったコード盗用を受け、Asahi LinuxがMITライセンスからGPLへ全面移行した経緯を詳しく紹介している。「AIを悪用したコード盗用への対策としてコピーレフトへ移行した初の公知事例」として、OSSライセンス選択の在り方そのものに一石を投じる出来事だ。

AIによるコード盗用がOSSライセンスの転換点を招いた

Asahi Linuxは、Apple Silicon Mac上でLinuxを動作させることを可能にしたプロジェクトだ。長年にわたり、自プロジェクトのコードの大部分をMITライセンスで公開してきた。BSD系OSを含む誰もが再利用できるよう、あえて制約の少ないライセンスを選んでいた。

しかしこの方針が、コード盗用の温床になったとして、Asahiチームは全リポジトリをGNU General Public License v2以降(GPL-2.0+)へ移行すると発表した。今後、Asahi Linuxのコードはすべてコピーレフトライセンスのみで提供される。

「コードロンダリング」とは何か

記事では今回の盗用手口をコードロンダリングと表現している。これは他者のコードを元の出所が分からないよう処理し直すことで、ライセンス条件や著作者表示を無視して利用する行為を指す。なお「ライセンスロンダリング」と呼ばれることもある。金融用語の「マネーロンダリング」から派生した比喩的表現であり、既存コードを盗用目的で書き換える行為という意味で使われる(金融犯罪とは無関係)。

AIが登場する以前は、変数名の変更や関数の並び替えなど、手作業による書き直しが主な手口だった。LLM(大規模言語モデル)の登場により、この作業は劇的に安価・高速になった。

MITライセンスは著作権表示の維持だけを要求し、変更内容の公開やオープンソース維持は求めない。この「緩さ」がAsahiにとって問題となった。

何が起きていたのか

Asahiチームが把握した被害は、開発中の未公開コードが開発者の個人フォークから直接持ち出され、クレジットなしに公開されたり、AIで書き直されて出所を隠蔽されたりするケースだ。目的は「Apple Silicon上のLinuxを乗っ取り、積極的に収益化すること」だったとされている。

レポートはMITライセンスが「悪意ある行為者を保護するための除外条項を持たない」と明示的に指摘している。

Asahiの進捗レポートは具体的な個人・団体名を明かしていないが、文脈として浮かび上がるのは次の2つのプロジェクトだ。

  • Aurora Silicon / Borealis: AsahiのVulkanドライバ「HoneyKrisp」をフォークした独自Vulkanドライバ。M1〜M5およびA18 Proをターゲットとし、上流へのマージではなく独自のMesaフォークとして展開している。
  • Gravity Linux: LLM使用ポリシーへの異議からAsahiをフォークしたFedoraベースのApple Silicon向けディストロ。オープンソースでAI使用を明示しており、ドライバが上流に取り込まれた後は終了予定としている。

なお、Asahi LinuxはAI生成コードの貢献を明示的に禁止している。

歴史との比較——WINEの教訓

Asahiチームはこの状況を、約20年前のWINEの事例と重ねている。WINEはWindowsアプリをLinux上で動かす互換レイヤーで、当初はMIT系ライセンスで公開されていた。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、複数の企業がコードを取り込んで商用フォークを販売した。WINEは2002年にLGPLへ移行し、プロプライエタリなフォークを抑制した。

「歴史から学ばない者は、それを繰り返す運命にある」

レポートにはこの一節が引用されている。

GPLは実際に効くのか

MITライセンスすら無視する相手が、GPLを守るのかという疑問は当然出てくる。ただし、GPLの意義は法的強制力の強さよりも商業的メリットの消滅にある。

MITの下では、コードを取り込んでクローズドなディストロを販売することが著作権表示さえ残せば合法だった。GPLの下では、改変版を配布する際にソースコードを同じライセンスで公開する義務が生じる。クローズドな商用Apple Siliconディストロを合法的に構築することはできなくなり、ソースが公開されれば流用の痕跡も発見しやすくなる。

記事では今回の移行を「主要なOSSプロジェクトがAI支援によるコード盗用を理由にコピーレフトへ移行した初めての公知事例(first known case)」と位置づけている。クラウドプロバイダによる再販を防ぐための移行事例は過去にもあったが、AIを明示的な理由とした移行はこれが最初だという。

批判の声——BSDコミュニティの反発

この決定に対し、BSDサイドから批判も上がっている。AsahiがMITを選んだ主な理由の一つが、BSD系との互換性確保だったからだ。OpenBSDのApple Siliconサポートは、Asahiのm1n1ブートローダーに依存している。

OpenBSD開発者のBryan Steele氏はXに次のように書いた。原文の正確な表現を以下に引用する(意訳を含む)。

「Asahiが理由もなく橋を燃やしているのを見るのは悲しい(原文:"It's sad to see Asahi burning bridges for no reason")。すべての以前のコントリビューターの同意なしにm1n1とドライバをGPL2以降に再ライセンスするのは、"AIの悪意ある行為者への対抗"を名目にした、まったく誠実さに欠けた誤った判断だ。」

— Bryan Steele (@canadianbryan) 2026年11月7日

過去のコントリビューター全員の同意を得ているかどうかについて、Asahiのレポートは明示していない。

まとめ

今回の移行が悪意ある行為者を完全に止めるとは限らない。しかし、クローズドな商用フォークの法的コストを引き上げることで、抑止力として機能する可能性はある。BSDコミュニティが新ライセンス体制のもとでAsahiとの協力関係を維持できるかどうかも、今後の注目点だ。

詳細はAsahi Linux Drops MIT and Goes Full GPL After AI Tools Were Used to Steal Unreleased Codeを参照していただきたい。