11月8日、Aizaz Khanが「Embodied AI Unveils AIR Humanoid Robot That Learns Factory Work From People」と題した記事を公開した。スイスのロボティクス企業Embodied AIが発表したヒューマノイドロボット「AIR」は、現場の作業者が遠隔操作で動かすだけで工場作業を学習し、**約1か月で自律稼働に移行、単一タスクで精度98%**を達成するという。専門的なプログラミング不要で既存の工場フロアに導入できる点が、従来の産業ロボットとの最大の違いだ。
約1か月でオペレーターなしに自律稼働するロボット
AIRが他の産業ロボットと一線を画すのは、その学習プロセスの設計にある。
最初にオペレーターがロボットを遠隔操作(テレオペレーション)で動かし、そのすべての動作をソフトウェアが記録・モデル化する。テレオペレーションとは、人間がコントローラや専用スーツなどを通じてロボットをリアルタイムで操縦する手法で、近年のロボット学習データ収集において広く採用されている。Embodied AIによれば、このプロセスを経ることで約1か月でAIRは自律稼働に移行できるという。ロボットに新しいタスクを覚えさせるために専門家を呼ぶ必要はなく、そのタスクを最もよく知っている現場の作業者が「教師」になる設計だ。
検証結果として紹介されているのが、既存の2アーム産業セルでのケーブル処理テストだ。顧客が要求した信頼性は90%だったが、実測値は**98%**に達した。この2アームセルはAIRと同じAIスタックで動作しており、現実の工場環境でのスタックの実力を示す結果として挙げられている。
安全設計:人と同じフロアで働くための構造
AIRの設計思想の中心には安全性がある。CEOのFrancesco Stellaはスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)で博士研究を行い、そのアームの設計に直接関与した。EPFLからスピンアウトした同社は、AIRを**ISO/TS 15066**(協調産業ロボット向け安全規格)に準拠して設計している。
ISO/TS 15066は、人間と協働するロボット(コボット)が人に接触した際の力・速度・圧力の上限を定めた国際規格だ。産業向けの人型ロボットがこれに準拠することは、工場フロアで人と共存するうえでの実質的な前提条件となる。
物理的な安全機構として、AIRのアームは腱駆動(tendon-driven)方式を採用する。これはワイヤーや腱状の素材を介して関節を動かす構造で、モーターが直接関節に接続されるギア駆動と異なり、接触時に力を逃がしやすい特性を持つ。モーターとギアボックスは胴体内部に収納されており、外力を受けた際のコンプライアンス(追従性)が高い。移動はホイールベースで、工場の床面での運用を想定している。CEマーキングの取得は2027年を目標としており、欧州市場への展開はそれ以降になる見込みだ。
研究から産業製品まで9か月
特筆すべきは開発速度だ。Embodied AIは研究段階から産業向けヒューマノイドまでを9か月で完成させ、すでに複数の大手メーカーと契約を結んでいる。同社はチームを小規模に保ち、他のロボティクス企業と比べて少ない資金で開発を進めた。AIRは現在、グローバルメーカーとの工場テストが進行中で、量産計画も始まっているという。
バックには、Faber、TechShop、Look AI Ventures、Plug and Play、Ventoが名を連ねる。
ヒューマノイドロボットの工場導入は進んでいる
AIRの発表は、ヒューマノイドロボットの工場実用化が加速しているタイミングと重なる。XiaomiのヒューマノイドロボットはすでにEV工場で8時間シフトの稼働を達成しており、MitsubishiはヒューマノイドとCNC工作機械を組み合わせたシステムのテストを行っている。またAgility Roboticsは、ヒューマノイドロボット専業メーカーとして初めてNasdaqに上場しており、これは同分野への資本市場の関心が制度的な段階に入ったことを示す出来事だ。AIRはこうした競合とは異なり、大規模な資金調達や株式公開よりも「小規模チームによる迅速な製品化」を軸に差別化を図っている。
AIRが狙うのは、大型産業ロボットと人間の作業者の間の空白地帯だ。重量物搬送は大型ロボットに任せ、頻繁に変わる精密な手作業をAIRが受け持つポジションを想定している。この「変化に強い精密作業」という領域は、従来の固定プログラム型ロボットが最も苦手としてきた部分でもある。
今後の課題
現時点での実績はケーブル処理という単一タスクにとどまる。多様な工場環境への適応、タスク間の汎用性、そして2027年のCEマーキング取得が、欧州市場での本格展開に向けた次のハードルとなる。ミュンヘンでのデビューは産業界への第一声であり、現在進行中の工場テストが実力の最終的な判断材料になる。
詳細はEmbodied AI Unveils AIR Humanoid Robot That Learns Factory Work From Peopleを参照していただきたい。




