11月8日、Varietyが「Elvis Music Owners, Eminem Publisher File Sprawling New Lawsuits Against AI Music Generator Suno: 'The Next Elvis Won't Pick Up a Guitar'」と題した記事を公開した。エルビス・プレスリーの音楽権利者およびエミネムの楽曲を管理する出版社がAI音楽生成サービス「Suno」に対して連邦裁判所に提訴した。訴状に刻まれた一節——「次のエルビスはギターを手に取らない」——は、AI時代における人間の創造性の存在意義を問う、この訴訟の本質を鋭く射抜いている。
「次のエルビスはギターを手に取らない」
両訴訟を代理するリチャード・ブッシュらの弁護団は、Sunoが「アーティストのアイデンティティ、努力、創造性、時間を機械的に自社へ組み込み、それらを現金製造ベルトコンベアに転化した」と主張している。
プレスリー側の訴状に記された一節は象徴的だ。
「次のエルビスはギターを手に取らない。Sunoの貪欲な底辺競争は、人間の創造性を時代遅れにすることを目指している。習得に何年もかかることを、無許諾でわずか数秒で冷たく複製することは、将来の世代に問いかける——『やる意味があるのか?』」
この問いかけは、音楽AIをめぐる法廷闘争が単なる著作権侵害の確認訴訟にとどまらず、AI時代における創作行為の社会的価値そのものを問う争いへと発展していることを示している。
エルビスとエミネム、Sunoを提訴
Authentic Brands GroupやRaleigh Music Publishingを含むエルビス・プレスリーの権利者グループと、エミネムの楽曲数百点を管理するEight Mile Style LLCが、AI音楽生成サービス「Suno」をそれぞれ別個の訴訟でカリフォルニア州北部地区連邦裁判所に提訴した。
プレスリー側の51ページに及ぶ訴状は、Sunoが著作権侵害に加え、ユーザーがプレスリーの名前を指定して楽曲を生成する際にその同一性を商業的に搾取していると主張する。また、テネシー州のELVIS法(Ensuring Likeness Voice and Image Security Act)違反も訴因に含まれている。同法はAI企業が歌手の声をクローンすることを禁じたテネシー州法であり、2024年7月にバイデン大統領が署名して施行された(連邦法ではなく州法である点に注意)。Sunoがプレスリーの「豊かな声色」を模倣したトラックの生成を許可していると指摘している。
Eight Mile Style側は、"Lose Yourself"、"Without Me"、"The Real Slim Shady"を含む楽曲群について、Sunoがエミネムの楽曲に酷似した歌詞や曲を生成させることで著作権を侵害したと主張している。なお、エミネム本人は今回の訴訟に個人としては参加していない。
Sunoを取り巻く訴訟の全体像
今回の提訴はSunoに対する一連の訴訟の最新事例に過ぎない。現在Sunoは以下の案件を抱えている。
- Universal Music Group・Sony Music Entertainmentによる著作権侵害訴訟。両社はSunoがラベル提携モデル「v6」(2024年9月リリース)を公開した際にも「同じ毒の木から生まれた果実だ」として追加提訴している
- 独立系音楽パブリッシャーRound Hill Musicによる訴訟
- アメリカーナ歌手ジェイソン・イズベルらによるクラスアクション申請を含む提訴(Sunoはこれを否定)
一方でWarner Music Groupは2025年にSunoと和解しており、BMGやBelieveとも契約を締結している。
プレスリー側とEight Mile StyleはSuno以外の企業にも訴訟を起こしている。Authentic Brands Groupは先月、AnthropicのAIチャットボット「Claude」がプレスリーの楽曲274曲を不正に学習に使用したとして総額4,860万ドルの損害賠償を求める連邦訴訟を提起した。Eight Mile StyleはMetaに対しても、フェイスブック・WhatsApp・インスタグラムの学習データにエミネムの楽曲243曲を無断で使用したとして約1億1,000万ドルの損害賠償を求めて提訴(2024年6月)。ミシガン州連邦裁判所はディスカバリー(証拠開示手続き)への移行を認めている。
訴訟ラッシュの中でも評価額54億ドル
注目すべきは、これだけの訴訟を抱えながらSunoの市場価値が揺らいでいない点だ。Sunoは2024年6月に4億ドルの資金調達を完了し、評価額は54億ドルに達した。
著作権侵害を巡るAI企業への訴訟は音楽・画像・テキスト生成の各分野で相次いでいるが、音楽AI分野ではSunoとともにUdioも主要ターゲットとなっている。今回のプレスリー案件はさらに「パブリシティ権(声・姿・名前の商業利用を制限する権利)」をAI生成コンテンツに適用できるかという法的論点も加えており、判決の行方は業界全体に影響を与えうる。
※編集部の考察:ライセンス交渉による和解を選んだWarner Music Groupと、訴訟を継続する権利者グループの対応が分かれている構図は、業界内でライセンス枠組みの整備に向けた合意形成がいまだ途上にあることを示している。




