7月20日、CNBCが「AMD launches Helios, its first rack AI system to rival Nvidia, adding Microsoft as newest buyer」と題した記事を公開した。AMDが初のラックスケールAIシステム「Helios」を発表し、MicrosoftがMeta・OpenAIに続く採用企業として名乗りを上げた。注目すべきは、HeliosがNvidiaの競合製品より価格が高いにもかかわらず、AI業界の大手が次々と採用を決めているという事実だ。GPU市場の95%超を握るNvidiaに対し、AMDがソフトウェアエコシステムという最大の壁をどう乗り越えるかが焦点となっている。
NvidiaのVera Rubinに対抗する「Helios」とは
AMDが満を持して投入するのが、ラックスケールAIシステム「Helios」だ。ラックスケールシステムとは、GPU・CPU・ネットワーク・ソフトウェアを1つのラック単位で統合し、大規模AI推論や学習に最適化したシステムを指す。NvidiaではGrace Blackwell、Vera Rubinがこのカテゴリにあたる。
Heliosは18枚のコンピュートトレイで構成され、各トレイに4基のInstinct GPU(MI400シリーズ)と1基のEPYC CPUを搭載する。さらに、Pensandoの技術を使ったネットワークチップを各トレイに最大12基搭載する。重量は最大7,000ポンド(約3.2トン)で、Vera Rubinより幅広く重い構成だ。
コスト面では、Futurum Groupの推計によるとHeliosは500万〜550万ドル程度とされる。Nvidiaの第2世代ラックシステムVera Rubinの推計350万〜400万ドルより高く、単純な価格競争力では劣る。
AMDのデータセンター部門責任者Forrest Norrodは「トークンあたりのコスト、総所有コストで最善を提供することに注力している。顧客からも達成できていると言われている」と語る。CEO Lisa Suも5月に「推論性能、メモリ帯域幅、メモリ性能においてNvidiaのラックシステムより優位だ」とCNBCに述べている。導入コストは高くとも、運用コスト全体では競争力を持てるという主張だ。
MicrosoftがHelios採用、顧客リストは拡大中
今回の最大のニュースはMicrosoftのHelios採用だ。CEO Satya Nadellaは「AMD Heliosによって、次世代AIアプリケーションの構築・運用に必要なパフォーマンス、スケール、選択肢を顧客に提供できる」とコメントした。
MicrosoftはHeliosをフロンティアモデルの推論基盤として使用するほか、AMD最新CPU「Venice」を使った2つの新コンピューティングインスタンスも追加する。一方はエージェント型AIとデータパイプライン向け、もう一方は半導体設計向けだ。
MicrosoftとAMDの関係は長く、SurfaceやXboxにもAMDチップが採用されてきた。2023年にはMicrosoftがMI300X GPUを最初に採用した企業でもある。
Heliosの採用企業リストはすでに厚い:
- Meta:最終的に最大6ギガワット分のAMD GPUを採用予定。まず今年中に1ギガワット分をHeliosラックで展開
- OpenAI:今年中にHeliosを大規模展開
- Oracle:同じく今年中に主要コミットメント
- Tata Consultancy Services(インド最大のIT企業):採用を表明
AMDによれば、AI企業トップ10のうち8社がAMD Instinct GPUを使って何らかのワークロードを動かしている。OpenAI、Cohere、SpaceXAIが名前として挙がる。
AMDの「10年かけた復活」という文脈
Heliosを理解するには、AMDの歴史的文脈が重要だ。2003年、AMDはOpteron CPUでデータセンター市場の約25%を獲得したが、その後の遅延や失敗続きで市場シェアは「ゼロに近い」水準まで落ち込んだ。
Lisa Suが2014年にCEOに就任してから流れが変わった。2017年のEPYCサーバーCPU発表が転換点となり、「3世代分のロードマップを詳細に公開し、その通りに実行した」(Norrod)という地道な取り組みが実を結んだ。今日のデータセンターCPU市場ではIntelが首位を維持するが、AMDは着実にシェアを伸ばしている。
Heliosに向けては複数の買収が布石となった:
- Xilinx(プログラマブルチップ):約500億ドル、買収完了2022年
- Pensando(ネットワーク技術):2022年買収。Heliosの各トレイに搭載するネットワークチップの源流となる技術
- ZT Systems(サーバーメーカー):約50億ドル、2025年買収。ラックスケールシステムの設計・製造ノウハウを取り込む目的
- 複数のソフトウェア企業:ROCm(NvidiaのCUDAに対抗するオープンソースのGPUコンピューティングソフトウェアエコシステム)の開発強化に活用
2026年第1四半期、AMDのデータセンター売上は前年比57%増でAMD全体売上の過半数を占めた。AMDは2027年からデータセンターAI収益が数百億ドル規模に達すると見込み、その大部分がHeliosから来るとしている。
課題はソフトウェアエコシステム——CUDAの壁はなぜ高いか
市場シェアの現実は厳しい。Futurum Groupによれば、**Nvidiaはデータセンター向けGPU市場の95%以上を握り、AMDは約4.5%**にとどまる。
この差を生み出している最大の要因がソフトウェアエコシステムだ。NvidiaのCUDAは2006年から約20年にわたって積み上げられたプラットフォームであり、AIフレームワーク・ライブラリ・研究コードのほぼすべてがCUDA前提で書かれている。開発者がAMDのROCmに移行するには、既存のコードベースの書き直しや動作検証が必要になるケースも多く、単純に「GPUを入れ替えればよい」とはならない。長年のCUDA依存が組織の技術的負債として積み上がっているほど、乗り換えのコストは大きくなる。
Counterpoint Researchのアナリスト、Neil Shahは「HeliosのGPU・CPUの性能はNvidiaと同等水準だが、差がつくのはソフトウェアと最適化だ。CUDAのエコシステムではNvidiaが大きくリードしている」と指摘する。
Futurum GroupのCEO、Daniel Newmanはより楽観的な見方を示す。「AMDが20〜25%のシェアを取るシナリオは十分ありうる。数百億ドル規模の市場の話だ」。一方で「AMDが勝つとしたら技術的優位性によるのか、それとも単純にNvidiaのキャパシティが足りなくて選ばれるのか」という本質的な問いも投げかけている。Nvidiaへの供給集中リスクを分散したい大手クラウド・AI企業の思惑が、AMDへの追い風になっている側面もある。
AMDは今年後半からMicrosoftを含む顧客へのHelios出荷を開始する予定だ。
詳細はAMD launches Helios, its first rack AI system to rival Nvidia, adding Microsoft as newest buyerを参照していただきたい。




