7月31日、YKが「The anatomy of an AI agent on Google Cloud: a complete guide」と題した記事を公開した。この記事では、Google Cloud上でAIエージェントを本番環境へ持ち込む際のスタック全体像と、各レイヤーの選択指針について詳しく紹介されている。なお、本記事はMedium上の個人記事(著者YK)を元にしており、Googleの公式発表・ドキュメントとは独立した内容が含まれる点に留意していただきたい。
ローカルで動いていたエージェントをGoogle Cloudに持ち込もうとした瞬間、ADK、Agent Runtime、Cloud Run、GKE、Gemini Enterprise Agent Platform……と製品名の壁にぶつかる。この記事はその壁を解体するための地図だ。
なお、「Gemini Enterprise Agent Platform」はGoogle Cloudが提供するAIエージェント関連サービス群の総称的なプラットフォーム名で、本記事に登場するAgent Runtime、Model Garden、RAG Engine、Vector Searchなどの各サービスはこのプラットフォームの傘下に位置づけられている。
エージェントの解剖:5つの構成要素
フレームワークを剥がすと、どんなエージェントも同じ5層で成り立っている。推論するモデル、呼び出せるツール、記憶(メモリ)、ループを回すランタイム、そして他エージェントへの接続だ。Google Cloudの各製品はこのいずれかのスロットを埋める形で整理できる。
モデル層:Gemini、Claude、オープンウェイト
標準的な選択はGemini 3.x APIだ。複雑な推論にはGemini 3.1 Pro、コスト効率重視ならFlashティアがワークホースとなる。ただし、これらのモデル名は元記事(著者YK、2025年7月時点)の記述に基づくものであり、Googleの公式リリース情報とは独立している。最新のモデル名・バージョンはGoogle Cloud公式ドキュメントで確認することを推奨する。
Model GardenではGoogle Cloudプロジェクト内でAnthropicのClaudeやDeepSeek、Kimiを含む200以上のモデルをトークン課金で利用できる。モデル選定の参考になるのがAgent Arenaだ。これはGoogleとは独立した第三者系のベンチマークサービスで、100万件超の実エージェントセッションにおけるツールオーケストレーションとタスク完了率でモデルをランキングしている。
オープンウェイトモデルのセルフホスティングも現実的な選択肢になった。Gemma 4はファンクションコーリングと構造化出力に対応し、Cloud Run GPUでスケールゼロ運用が可能だ。元記事によれば、NVIDIA L4(24GB、クォータ申請不要)と96GB NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell(70Bクラスのモデル向け)がGA(一般提供)となっているとされているが、これは元記事著者の記述であり、公式の提供状況はCloud Run GPUのドキュメントで直接確認していただきたい。トラフィックが少ないエージェントではGPUを温め続けるコストよりFlashのトークン課金の方が安くなるケースも多い。Gemini pricingとCloud Run pricingを自分のトラフィックで試算することが推奨されている。
フレームワーク層:ADKとその周辺
Agent Development Kit(ADK)はGoogleのオープンソースフレームワークで、Python・Go・Java・TypeScript・Kotlinに対応する。ADK 2.0ではグラフベースの実行エンジンに移行し、並列ワークフロー、自動リトライ、ヒューマン・イン・ザ・ループの一時停止が加わった。コマンド一発でAgent RuntimeまたはCloud Runにデプロイでき、評価(eval)とトレーシングが標準で含まれる。
ADKだけが選択肢ではない。Agent RuntimeはLangGraph、LangChain、LlamaIndex、AG2もサポートし、ADK自体もLiteLLM経由でGemini以外のモデルを駆動できる。
ランタイム層:Cloud Run、Agent Runtime、GKEの使い分け
ここが実装者にとって最も判断を要するレイヤーだ。
- **Agent Runtime**:セッション管理、メモリ、コードサンドボックス、オブザーバビリティを一括でマネージドとして提供。Google固有のAPIへの依存と引き換えに運用コストを削減する。
- **Cloud Run**:標準コンテナとして動かすコミュニティ人気の選択肢。チャットバックエンド、キュードリブンなワーカープール、最大7日間のバッチジョブ、GPU提供に対応。
- GKE:運用の複雑さが最も高いが、エージェントのフリート運用やモデルのセルフホスティングには適している。
記事が示す最短の指針は明快だ。「まずCloud Run+ADKで始め、マネージドなセッション・メモリ・評価が必要になったらAgent Runtimeへ移行し、エージェントを単体ではなくフリートで運用するようになったらGKEに卒業する」。
これらは排他的な選択ではなく、Cloud RunやGKE上のエージェントからAgent RuntimeのSessionsやMemory Bankをアラカルトで呼び出すことも可能だ。
ツール・知識・メモリ層
ツールはMCP(Model Context Protocol)への収束が進んでいる。GoogleはデータベースやサービスごとにManaged MCPサーバーを提供し、オープンソースのMCP Toolboxは40以上のデータソースをカバーする。エージェント間の協調には別プロトコルのA2Aが使われる——MCPがエージェントとツールを繋ぎ、A2Aがエージェント同士を繋ぐという役割分担だ。
知識(RAG)は抽象度のスペクトラムで選ぶ。ターンキー検索が必要ならAgent Search、パイプラインを調整したいならRAG Engine、生のインフラが欲しいならVector Search。データがすでにAlloyDB・Cloud SQL・BigQuery・Firestoreにあるなら、データを移さずそのデータベースのネイティブベクトル検索を使う方が合理的だ。
メモリの要点は2種類の区別にある。セッション状態(現在の会話のスクラッチパッド)と長期記憶(セッションをまたいで保持される蒸留済みの事実)だ。Memory Bankは会話録をベクトルストアに詰め込む方式ではなく、生成AIでユーザーごとの事実を抽出・統合する設計になっている。
本番化の3つのギャップ
デモと本番の差を埋める横断的な関心事として3点が挙げられている。
- オブザーバビリティ:ADKはOpenTelemetryトレースをGenAIセマンティック規約に準拠して出力し、Cloud Traceでモデルとツールの呼び出しをスパン単位で検査できる。
- 評価:
adk evalは最終回答だけでなくツール呼び出しのトレジェクトリをスコアリングする。Agent Evaluation and Simulationは合成ユーザーと本番トラフィックの継続スコアリングを提供する。 - セキュリティ:最小権限のサービスアカウント(またはエージェント向けの新しいIAMプリンシパル型であるAgent Identity)、プロンプトとレスポンスをスクリーニングするModel Armor、そして破壊的なツール呼び出しへのヒューマンコンファーメーション。
典型的な本番構成
記事が提示するリファレンスアーキテクチャは次の通りだ。Cloud Run上のADKを既存の認証の前段に置き、通常タスクにはGemini Flash、難易度の高いタスクにはGemini Proを使い分ける。ツールはMCP経由、セッション状態はCloud SQL、長期記憶はMemory Bank、トレースはCloud Traceへ。各コンポーネントはすべて交換可能な設計だ。
さらに深掘りするためのリソースとして、GoogleのDevRelチームによるAgent Factory podcast、実装サンプルのadk-samples、およびコードラボが案内されている。
詳細はThe anatomy of an AI agent on Google Cloud: a complete guideを参照していただきたい。




