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Ask the Professionals

【前編】「コードをほぼ見ない」開発の現実、アウトプット5〜10倍の衝撃

GROWTH VERSEでVP of Technology兼電話放送局の取締役CTOの稲田修也氏。自然言語処理研究者であり、現在はAIネイティブ組織運営も担う稲田氏が語る現場のAI活用実態と、LLMが突きつけた「知能とは何か」という問いを語る。

「ほとんどコードを見ずに開発している」「アウトプット量が5倍、10倍になっているメンバーもいる」——そう語るのは、GROWTH VERSEでVP of Technologyを務め、グループ会社・電話放送局の取締役CTOを兼任する稲田修也氏だ。東京大学大学院で自然言語処理(NLP)を研究した経歴を持つ稲田氏は、現在は社内でもっともAIを使いこなす開発組織を率いる。研究者として「今のLLMの原型」を間近で見てきた当事者が、現場の活用実態と、LLMが突きつけた「知能とは何か」という問いを語る。

コードをほぼ見ずに開発する——AIエージェントが回す日々の業務

―まず、AIのプロフェッショナルとして、日々の業務でどのようにAIを活用しているのかを伺えればと思います。特にCTOとして技術組織を見ていらっしゃる立場で、どんなAIをどう使っているのでしょうか。

稲田:1つは、単純に開発、コーディング周りです。かなりの部分がAI化されていて、正直、ほとんどコードを見ずに開発している部分もかなり多い状態です。今までよりもアウトプット量で言うと、本当に5倍とか10倍とか、それくらいに近くなっている人もちらほらいます。コーディングの部分はすごく進んできています。

もう1つは、日々の業務です。議事録、そこからのToDo整理、さらにプロジェクト管理のダッシュボードに入れていって進捗を追っていく——こうしたことも含めて、AIエージェント(自律的にタスクを判断・実行するAI)に任せています。日々の細かい雑務のようなところも、どんどんAI化していっています。

そしてもう1つが各チームの業務です。開発チームはもちろんですが、営業、CS、コンサルといったチームが社内にはあり、それぞれがやっている業務をどんどんAIエージェント化しています。

―記録を繋げるだけではない、ということですね。

稲田:そうですね。たとえば、この商談によってこのクライアントのステータスが変わってきている、プラスになってきている、といったこともAIが見て、「次はこういうアクションを取るべきです」というところまでAIエージェントが自律的に判断し、次の施策に繋げていきます。ここがチャーン(解約)の兆候のようになってきたら、それ自体にアラートを出す。エージェントが判断して、適宜エスカレーション、周知、検知をするところまで、今どんどん進んでいっています。

AI活用の3レイヤー

モデルにはこだわらない。大事なのは「エージェントの組み合わせ」

―モデルの使い分けで意識していること、「このモデルをここに使ってうまくいった」といったものはありますか。

稲田:正直にいうとあまり特別なことはしていません。弊社の場合Claudeをメインで使っていて、Geminiも全員が使えます。そもそも、GoogleのワークスペースでGeminiを全員に配布しているので。

その中でのモデルの使い分けは、ベンチマークテストのようなものは用意しつつ、とはいえ基本的には今一番新しい・コスパがいいものをどんどん使っていく形にしています。なので、モデル単体というよりは、業務全体をどういうエージェントの組み合わせ、どういうモデルの組み合わせでやって、仕事を自動化していくかがすごく大事だと思っています。エージェントがうまく動いて、ちゃんと業務が回る仕組みのようなところが大切で、今のところモデルそのものにすごくこだわっているわけではないですね。

―業務やチームの単位で自動化して、AIを前提にした業務の組み方に変えていっている、という感じでしょうか。

稲田:そうですね。今やっている業務を洗い出して1個1個出していくのもそうですし、すごく大きいプロジェクトの単位で「これをもっとうまく回すにはどうしたらいいんだろう」と、トップダウンで業務を分解していく。「ここはこういうエージェントに任せよう」という形で、1個の大きいプロジェクト単位で見ることも多いですね。

―もともとテクノロジーの最先端をやってこられた会社ですし、そういうカルチャー自体が自然と醸成されているイメージでよろしいですか。

稲田:そうですね。そもそもエージェントを作って売っている会社なので、その最先端を取りたいと思いますし、社内でも「いちばんAIを活用しているよね」というところで推進したい。弊社のコアな部分として、かなり進めていきたい分野です。

マネージャーが再び手を動かせる時代——人とAIエージェントを同時にマネジメントする

―稲田さんはもともとNLPの研究者だったと伺っています。ご自身の専門領域が、AIの登場によって変わった、変化が起きたと実感されているところがあれば教えてください。

稲田:今まで、マネージャーはプレイングマネージャーという形もありましたが、自分が手を動かすことはそこまで推奨されないものと考えられていました。というよりも、私はそもそもマネジメントに集中して、チーム全員がパフォーマンスを発揮できる環境を作っていくほうが大事だと思っていたのです。

それが、AIの登場で、手を動かすことも同時にできるようになってきました。自分でも手を動かしつつ、かなりプレイングに寄ったマネージャーという像もワークするようになってきた——というのが1つ思っていることです。

もう1つは、AIエージェントと人を同時にマネジメントしていく立場になってきたことです。エージェントを配置して、そこにどう人を配置すると、よく動くチームになるのか。単に人だけを配置したり評価したりするだけではなくて、AIエージェントも人間と同じようにそこに加わってきます。AIエージェントと人の得意分野を分けながら、どういうチーム構成でやるのかを考える必要が出てきました。

AIが人間と違うのは、ずっと働けるところです。24時間疲れずに働けるのは大きな強みです。モチベーションのようなものもあまり存在しない。そのあたりの線引きをうまく分けながら考えていく必要が出てきた、というのが変わってきたところですね。

―エンジニアそのものの評価や役割も、結構変化しているのでしょうか。

稲田:エンジニアの役割はかなり明確に変化させています。職種の領域のようなところが溶けていく、境界線がなくなっていくと思っています。

職種の境界が溶けていく「FDE」という働き方

―エンジニアの変化について詳しく教えてください。

稲田:今だと、うちにはFDE(Forward Deployed Engineer:顧客先に常駐して実装を担うエンジニア)という形があって、実際にお客さんの環境に常駐するように入っていきつつ、そのお客さんの会社自体を全部AI化するAIエージェントを作って配布していく、ということも進めています。

それには、もちろんプロダクトを作る力も必要なのですが、「こういうものが欲しいのではないですか」と提案を持っていけるような、コンサル的な業務のやり方も必要です。

生成AI時代になって、「ソフトウェアで何ができるか」というアウトプットがより不確実性高いものになったと思っています。そのため、今までだったらコンサルや営業がやっていたところも、ある程度エンジニアができたほうが、提案の幅がすごく広がると考えています。

そういう意味で、かなり境界が溶けてきているような働き方を推奨していますし、実際に実践もしています。

―採用やエンジニアとしてのキャリアの積み方、育成の仕方も、随分変わってきているんですね。

稲田:そうですね。そういう経験が元々ある人は、ほぼほぼ市場には出てこなかったりするので、どう育てるかというのはすごく大きな課題だと思いますね。

元NLP研究者が見たLLMの衝撃——「こんなに早く来るとは」

―もうひとつ、稲田さんのバックグラウンドに基づいて伺いたいのですが。数年前から出てきた大規模言語モデル(LLM)が、ここまでプロダクトとして社会に浸透してきたことを、研究者の視点からどうご覧になっていますか。来るべくして来たのか、それとも進化や浸透の速度が思ったより早いのか。

稲田:私が研究をやっていたのは2017〜2019年あたりなのですが、今のLLMの原型になったモデルが、ちょうど2017年に出ていたんですよね。私が研究をやっていた頃で、もちろんそのモデルもすごく流行りつつあったのですが、ここまで柔軟に答えられるところまで進化するとは、正直そのときは全然——盛り上がりも含めて、私もそうですし、他の研究者からしても、想定外だったのではないかと思います。

凄くたくさんのデータを学習させればさせるほど賢くなっていく、というスケーリング則が発見され始めたのが..そこが発見され始めたのが、今回のLLMが台頭する大きなきっかけだったのかなと思っています。だから私としては意外で、「こんなに早く来るんだ」と。こんなに早くコーディングが自動化されて、ほぼほぼコードを見なくてもエンジニアが物を作れる時代になってきたことは、体感としてすごく早かったですし、かなり意外でしたね。

ただ、もう1回コーディングができるようになってくると、AIがコーディングできるようになったAIが、さらに次の世代のAIを作っていく状況になります。この流れがすごく早くなってくるのだろうと思うと、かなり予測不能な速さになってくるのだろう、というイメージです。

―研究者の視点から見ても、やはり予測不可能なところは今まさに進んでいる、という感じですか。

稲田:そうですね。

「知能とは何だったのか」——研究者がたどり着いた問い

―技術的に見て、何がブレークスルーになったのでしょうか。

稲田:いくつかありますが、2017年に出たモデル自体の進化があったというよりも、「すごくたくさんのデータを学習すると、人間のような知能のことができる」とわかったのが、研究的にはすごいブレークスルーだったと思います。

人間が「考えている」と自分たちは思っていたことが、単純に「膨大なパターンのデータを見たから、なんとなく考えているっぽく喋れる」ということだった。つまり、知能自体がそこまでちゃんと考えてできていたものではなかったのかもしれない——というところが、このAIができてきた背景なのかなと思っています。たくさんデータを学習すると賢く振る舞える、それが「知能」で別にいい、というのが、大きなブレークスルーだったのかなと思いましたね。

―「知能とは何か」という感じですよね。膨大なデータの中から正解と思われるものを選び出して、コミュニケーションとして適切ならそれで進んでいく。知能とは、状況を読むとは何か、と少し哲学的なところを考えさせる進化ですよね。

稲田:そうですね。本当に大きな変化ですし、これから社会も事業もまた変化していくのだと思います。
(続)

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後編では、稲田氏がCTOを務める電話放送局のAI経営について、業務を分解し全体設計する人材の不足を課題としつつ、1〜2年で到来するAIネイティブ時代への早期変革に向けての道筋、そして経営層の読者へAIへの向き合い方について伺います。

プロフィール

稲田 修也(いなだ・しゅうや)/ Shuya Inada GROWTH VERSE / VP of Technology/Technology部 部長 兼 電話放送局 取締役CTO

東京大学経済学部卒業後、同大学院情報理工学研究科へ進学。自然言語処理(NLP)を中心としたAI分野の研究に従事。複数のスタートアップの立ち上げに関わったのち、2022年3月にGROWTH VERSEにジョイン。2025年7月よりTechnology部部長 兼 電話放送局 取締役CTO。