8月6日、The Decoderが「Google Deepmind loses both its CEO and chief scientist as Demis Hassabis and Jeff Dean step down simultaneously」と題した記事を公開した。Google DeepMindのCEO・Demis Hassabisとチーフサイエンティスト・Jeff Deanが同時退任するという異例の経営刷新で、とりわけ注目を集めているのはDeanのX(旧Twitter)投稿だ。27年間のGoogleキャリアへの感謝の言葉が一切なく、業界関係者の間で憶測を呼んでいる。
HassabisはCEOを退き、Alphabet全体のChief Scientistへ
Demis HassabisはGoogle DeepMindのCEOを退き、Alphabet全体のChief Scientistに就任する。日常的な運営から離れ、「大局的な視点」に集中するためだという。社員向けメッセージの中でHassabisは「人類史の重大な転換点」と表現し、AGI(Artificial General Intelligence=汎用人工知能。人間と同等以上の知的能力を持つとされるAIの概念)「が手の届くところまで来ている」と述べた。
Hassabisは2010年にShane LeggおよびMustafa SuleymanとともにDeepMindをロンドンで創業し、2014年にGoogleが買収した経緯を持つ。2024年にはAlphaFold2の開発貢献によりノーベル化学賞を受賞したことでも記憶に新しい。今回の役職変更はそのHassabisが現場の指揮を手放す最初の大きな節目となる。
引き続きGoogleのCEO Sundar Pichaiと「戦略的・グローバルなAGI問題」に取り組み、DeepMindチームへの助言も継続する。拠点はロンドンのまま。また、Alphabetが傘下に持つAI創薬スタートアップIsomorphic Labsにより多くの時間を割くとしている。Hassabisはかねてより「AIの最重要応用分野は人間の健康改善であるべき」と主張してきた。
後任のDeepMind日常管理はKoray Kavukcuogluが担う。前職はDeepMindのCTO兼GoogleのチーフAIアーキテクトで、DeepMind草創期からHassabisと13年以上ともに働いてきた人物だ。上級副社長としてPichaiに直属し、Geminiモデルの開発、フロンティアAI研究、GeminiアプリおよびGoogle AIデベロッパープラットフォームを統括する。PichaiはKavukcuogluについて、WaveNetやDQNといったブレークスルーを牽引したDeepMindの深層学習チームを構築した人物と評している。WaveNetはDeepMindが2016年に発表した音声合成モデルで、現在のテキスト読み上げ技術の基盤となった研究だ。
Jeff Dean、27年のGoogleキャリアを経てスタートアップへ
より衝撃的なのはJeff Deanの退社だ。Googleに27年間在籍した同社屈指のエンジニアであり、現在のAIの礎となったニューラルネットワーク研究を推進した人物が、Google上級フェローのSanjay Ghemawatとともに新会社**Discovery Loop**を立ち上げる。
DeanとGhemawatはGoogleの初期検索インフラを共同で構築したことでも知られる伝説的なコンビだ。また、DeanはTransformerアーキテクチャの原著論文「Attention Is All You Need」の共著者の一人でもあり、現代の大規模言語モデル全般の技術的礎を築いた人物として業界内での評価は突出している。
Discovery Loopは機械学習・科学・エンジニアリングの自動化により科学的発見を加速することを目的とした「公益法人(Public Benefit Corporation=PBC)」として設立される。PBCとは株主利益だけでなく社会的利益の追求も定款に明記するアメリカの法人形態で、AnthropicやOpenAI(当初)も採用している。共同創業者には、同じく長年Googleで研究に携わったOriol VinyalsとQuoc Leも名を連ねる。4人の創業者が共に働いた期間は14〜30年に及ぶ。
当初は大規模な機械学習実験の自動化に注力し、将来的には幅広い科学・工学分野へ展開する計画だ。

Discovery Loopは仮説・実験から分析までの研究サイクル全体を自動化する構想。| 画像: Jeff Dean via X
シードラウンドはRadical VenturesとKhosla Venturesが主導し、Lightspeed、Kleiner Perkins、Doerr Capital、そしてAlphabetも出資する。AlphabetはDiscovery Loopのクラウドパートナーとして機械学習システム向けの研究フレームワーク開発でも連携する予定だという。

Discovery LoopのアプローチはNational Academy of Engineeringが定める14の「グランドチャレンジ」のほぼ全てに対応できるとしている。| 画像: Jeff Dean via X
Deanの退社発表に「感謝の言葉なし」という異変
Dean本人がX(旧Twitter)に投稿した退社の告知には、Googleへの感謝の言葉も27年間のキャリアへの言及も一切ない。著名人の退職発表では入念に準備されたお別れのメッセージが定番だけに、この省略は異例だ。
背景として、Googleは現在AIコーディング分野でOpenAIやAnthropicの後塵を拝しているとされる状況がある。元記事によれば、最良モデルでも競合との差が指摘されており、Googleは現在トレーニング中の大規模基盤モデルGemini 4でこのギャップを埋める計画だが、リリース日はまだ発表されていない。Deanの退社が単純な「次のステップ」なのか、それとも内部的な緊張を反映したものなのかは定かではない。
DeepMindの「次のフェーズ」と業界構図の変化
今回の人事変動は、2010年のDeepMind創設から中心を担ってきた人物たちが実質的に現場を離れ、組織としての次のフェーズに移行することを意味する。HassabisがAlphabet全体のAI戦略を俯瞰する立場に移る一方、現場はKavukcuogluが率いる新体制へと切り替わる。
AnthropicやOpenAIも「自動化された科学研究」を重点領域に据えており、Discovery Loopはその競争に加わる形となる。GoogleがAlphabetとして旧来の競合相手の創業者たちが立ち上げるスタートアップに出資・連携するという構図も、AI業界特有の人材と資本の複雑な絡み合いを示している。
詳細はGoogle Deepmind loses both its CEO and chief scientist as Demis Hassabis and Jeff Dean step down simultaneouslyを参照していただきたい。




