8月7日、Ars Technicaが「ByteDance trains massive AI model in bid to rival Anthropic」と題した記事を公開した。TikTokの親会社ByteDanceが、史上最大規模とみられる超大型AIモデルの訓練を進めており、他社モデルの出力を学習に転用する「蒸留」手法を使わない独自路線を1年以上にわたって維持していることが明らかになった。この方針は社内でも開発ペース遅延の一因と認識されているが、創業者・張一鳴は「短期の遅れより長期の質」という立場を崩していない。
TikTok親会社がAI開発で低プロファイルを維持してきた背景
ByteDanceは、AlibabaやBaiduといった中国の競合テクノロジー企業の多くがオープンソースモデルを積極的に公開しているのとは対照的に、AI開発において意図的に低プロファイルを維持してきた。同社のモデルはほぼクローズドな形で展開されており、外部からその技術的詳細を把握しにくい状況が続いている。
それでも成果は数字に表れている。動画生成モデル「SeeDance」はグローバルで最先端クラスに位置づけられており、消費者向けの主力AIアシスタント「Doubao(豆包)」は月間アクティブユーザー3億2400万人を誇る中国最大規模のサービスへと成長している。
3年間で最も積極的な投資を続けてきた
過去3年間、ByteDanceは中国の主要テクノロジー企業の中で最も積極的にAIへ投資してきた企業の一つだ。データセンター網の拡充、AI研究者の採用強化、そして企業向けにAIソリューションを提供するクラウド部門「Volcano Engine(火山引擎)」の強化に注力している。カスタムAIチップの開発も視野に入れているとされる。
モデル開発を担うチーム「Seed」は、元Google DeepMindの科学者である吳永輝(Wu Yonghui)が率いており、国内外に約2,000人のメンバーを擁する。コア研究者、インフラエンジニア、データラベリングチーム、翻訳者で構成されており、その規模はフロンティアAI開発に本気で参入しようとする組織として相応のものだ。
「蒸留なし」の独自開発路線——遅れを招いているとの見方も
技術的に最も注目すべき点は、ByteDanceのモデル開発が他社モデルの出力を学習データとして活用する「蒸留(distillation)」手法を採用していないとされる点だ。この方針は1年以上前から続いているという。
ここでいう蒸留とは、OpenAIやAnthropicといったフロンティアモデルの出力結果を教師データとして用い、自社モデルに模倣学習させることで開発を効率化する手法を指す。完全に自社データのみでゼロから訓練するよりもはるかに少ないコストで高い性能を引き出せるため、多くの中国AI企業が活用してきた手法だ。DeepSeekがこの手法を積極的に活用し低コストで世界的注目を集めたことは記憶に新しい。
ByteDanceはその逆を行く。独立開発路線は競合と比較して開発ペースの遅れを招いていると社内でも認識されているという。ただし、この「遅れ」はあくまで開発速度の問題であり、品質の問題とは区別して理解する必要がある。
なぜAnthropicが比較対象なのか
記事タイトルにもあるように、ByteDanceが意識する競合はAnthropicだ。AnthropicはClaudeシリーズを擁する米国のAI安全研究企業であり、OpenAIとともに現在のフロンティアモデル開発を牽引する存在として業界で広く認識されている。中国勢の多くがコスト効率や蒸留を武器に追い上げを図る中、ByteDanceはそのトップ層に真正面から並ぶことを目標に掲げている格好だ。
創業者・張一鳴の「長期戦」宣言
ByteDance創業者の張一鳴(Zhang Yiming)は、独立開発によってのみ競合を上回るモデルが実現できるという立場を一貫して維持している。
2週間前の社内会議でも張一鳴はSeedチームに対し、「短期的な遅れを気にしすぎず、長期的に世界トップクラスのモデル能力を目指せ」と改めて指示したと伝えられている。この発言は中国メディアのLatepostおよびThe Informationが先に報じていた。ByteDance自身は取材に対してコメントを返していない。
中国AI開発の文脈では、DeepSeekが低コスト・蒸留活用で世界的注目を集めたのとは真逆のアプローチをByteDanceが選んでいる点が際立つ。規模と独自性で勝負するという戦略が、Anthropicレベルのモデル品質につながるかどうかは、まだ未知数だ。
詳細はByteDance trains massive AI model in bid to rival Anthropicを参照していただきたい。




