9月2日、The Hacker Newsが「Researchers Use Claude to Port Pre-Auth RCE Exploit From One PLC Model to Another」と題した記事を公開した。セキュリティ企業ForescoutのVedere Labsが、AnthropicのAIモデル「Claude」を使ってPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ:工場や発電所などの産業設備を制御する組み込みコンピュータ)の認証前RCE(Remote Code Execution:認証なしに遠隔からコードを実行できる攻撃)エクスプロイトを別機種に移植した研究について詳しく紹介されている。
Claudeが既知脆弱性の移植を補助、実機でARMシェルコード実行に成功
Vedere Labsは、AnthropicのAIモデル「Claude」を活用し、WAGO製PLCに対する認証前RCEエクスプロイトをある機種から別機種へ移植することに成功した。実機のARM基板上でシェルコードの実行まで確認している。
対象の脆弱性はCVE-2021-31886。2021年11月にForescoutらが「NUCLEUS:13」として開示した13件の脆弱性群のうちの一つで、既知の脆弱性だ。NucleusのFTPサーバがUSERコマンドを処理する際のスタックベースのバッファオーバーフロー(スタック領域の境界を超えてデータを書き込むことで制御フローを乗っ取る手法)であり、CVSSスコアは9.8(Siemens付与)。認証不要でTCP 21番ポートから到達できる。
どのように移植を進めたか
Vedere LabsはすでにWAGO 750-852向けのRCEエクスプロイトを開発済みだった。今回はそれをWAGO 750-831(ファームウェアV01.04.16)に移植する作業にClaudeを投入した。
研究者は次のものを用意した:
- 既存の750-852向けエクスプロイトコード
- 750-831のファームウェアバイナリ
- 物理的な750-831実機(攻撃ターゲット)
各作業フェーズは研究者とClaude Codeのインタラクティブセッションとして進行。Claudeはターミナル、リバースエンジニアリングツールのGhidra、およびターゲットPLCへのアクセスを与えられた。
最初はClaude Sonnet 4.6で開始したが、RCE試行が行き詰まったところでClaude Opus 4.6に切り替えた。
750-831特有の問題として、通常のFTP処理がバッファ内の256バイトをゼロクリアするため、注入したシェルコードが実行前に上書きされてしまうことが判明した。Claudeはこれに対し、750-852で使用していた「USER + QUIT」シーケンスを「USER + CWD」シーケンスに変更し、さらにCRLFターミネータを省略することで処理パスの完了を回避。バッファが十分な時間生存し、ペイロードの実行に成功した。
コード実行が確立されると、Claudeはわずか12分でNOP(何もしない)シェルコードから2種類の機能的ペイロードへ移行した。一方は攻撃者の制御下にあるシステムへICMPエコーリクエストを送信し、もう一方は「PWNED」という文字列を含むUDPパケットを送出する。
コストとリスクの現実
最終的なRCE開発フェーズでは、8時間32分のセッションでAPIコストが535.74ドルに達した。
Forescoutは率直に認めている。
「同じ研究者がAIなしで初期RCE移植を達成した場合、より短時間・低コストで、かつPLCを壊さずに済んだかもしれない」
実際、エクスプロイトをC2インプラントに拡張しようとした別セッションでは、フラッシュメモリ領域への書き込みが発生し、PLC実機が永続的に文鎮化(brick)した。物理システムへの誤操作は取り返しのつかない結果を招く、という現実を示している。
Forescoutはこのリスクをこう整理する。
「より差し迫ったリスクは、AIエージェントが自律的に攻撃を決断することではなく、権限を与えられたエージェントが物理システム上で誤った操作を行い、実際の運用上の影響が生じることだ」
副産物:未知の脆弱性の可能性
Claudeは最初のセッション中に、CVE-2021-31886とは別のFTPコマンド抽出ループの潜在的なバグも指摘した。Forescoutの手動レビューでは「別の未確認脆弱性である可能性がある」と判断されたが、現時点でCVE番号は付与されていない。
修正なし、対象機器は現役
CERT@VDE(産業用機器向けの脆弱性対応機関)によれば、影響を受けるWAGOコントローラ向けのアップデートは現在提供されていない。推奨される緩和策はFTPの無効化・ブロック、ネットワークセグメンテーション、通信監視だ。
SiemensもNucleus NET全バージョンについて修正を予定しないと明言している。
対象機種は以下の通り:
- 750-829(FW16以前)
- 750-831/000-00x(FW14以前)
- 750-852(FW16以前)
- 750-880/0xx-xxx、750-881、750-882、750-885/0xx-xxx、750-889(各FW16以前)
- 750-331、750-352/xxx-xxx(各FW16以前)
なお750-882と750-885/0xx-xxxはアドバイザリの緩和・修正セクションから記載が漏れており、対応状況が不明なままだ。
広がるAI活用の脅威
この研究は単独の事例ではない。8月19日にはNSA・CISA・FBI・エネルギー省・環境保護庁が共同アドバイザリを発行し、インターネット公開されたSiemens S7シリーズPLCへの、AIが生成したエクスプロイトスクリプトによる攻撃が現実に観測されていると警告している。
「AIによるエクスプロイトスクリプト生成は脅威アクターの能力の進化を示しており、ICS(産業用制御システム)向けの機能するエクスプロイトを開発するために必要な技術的知識と時間を大幅に削減する」(同アドバイザリより)
また7月27日以降、FBIとEPAは少なくとも7州の水道事業者へのサイバー攻撃を報告している。攻撃者はRockwell Automation MicroLogixコントローラのIPアドレスとパスワードを変更し、エクスプロイト不要で侵入した。
PLCのセキュリティは以前から後回しにされがちな領域だった。Forescoutは過去の研究で「PLCへのチェーン攻撃はおそらく優先リストの上位に来るべきではない」と述べていたが、今回の研究を踏まえ、AIの進化によってそのリスク計算を見直すべきだと指摘している。
詳細はResearchers Use Claude to Port Pre-Auth RCE Exploit From One PLC Model to Anotherを参照していただきたい。




