9月3日、TechTargetがTim Murphyの執筆による「Why AI enablement teams shouldn't live within IT」と題した記事を公開した。AI推進チームをIT部門の傘下に置くべきでない理由と、ビジネス成果に直結する組織設計のあり方について、実際のコンサルティング事例を交えながら詳しく論じている。数週間かかっていた業務分析が1日以内に完了するという具体的なROI事例も紹介されており、AI推進組織の設計を検討している企業にとって示唆に富む内容だ。
AI推進の失敗パターン:IT部門に任せきりにすると何が起きるか
AI導入をIT部門に丸投げした結果、「技術は動いているが、ビジネスが喜んでいない」という状況に陥るケースがある。
記事でインタビューに応じたのは、バージニア州のITコンサルティング会社ARGのCTO、Jim Begley氏だ。同氏は具体的な失敗例を挙げる。あるクライアント企業は、AI成果の創出に3〜4人のDevOpsエンジニアを専任させた。彼らは「ITとして成果を届ける方法は知っている」という観点でアプローチしたが、ビジネス部門と十分に連携せず、どのユースケースが最も価値を生むかを特定できなかった。
Part of the problem was that it was living within IT, and they don't necessarily understand the business operations impact.
問題の一端は、チームがIT部門の中に閉じていたことにある。IT部門はビジネスオペレーションへの影響を必ずしも理解していない。
結果、人員と資金を相当投じたにもかかわらず、ビジネス側の反応は「手間の割に見返りが少ない」というものだったという。
AI enablementチームの正体:非ITではなく「ビジネスに寄り添うIT人材」
Begley氏が提唱するのは、ITから切り離された専任のAI enablementチームの設置だ。ただし誤解のないよう強調しておくと、このチームの構成員はIT人材である。違いは「どこに座っているか」だ。
They're just not living in IT and getting IT outcomes.
彼らはIT部門に属さず、ITの成果ではなくビジネスの成果を追う。
ARGでは、まず優秀なビジネスアナリストを1人アサインし、「実装しやすく、インパクトが大きい」という軸でユースケースを評価・優先順位付けした。その後、各部門からメンバーを引き抜き、専任チームを組成。2人(正確には1.5人分)のチームで100人規模の組織のAI推進を担っている。
同氏が別途言及した1,500人規模の組織では、エンジニア5人とマネージャー1人をPOV(Proof of Value、価値実証)の策定専任として配置した。
チームに求められるのは技術スキルよりも、「ビジネスの現場を理解し、どう改善するかを戦略的に考える思考力」だとBegley氏は述べる。いわゆるビジネスアナリスト的な視点が核になる。このようなビジネスとAI技術の橋渡し役を担う専任組織は、AI Center of Excellence(AI CoE)と呼ばれる形態とも重なる概念であり、近年多くの企業で設置が検討されている。
実務での成果:数週間かかっていた分析が1日以内に
ARGが実際に取り組んだ事例として、クライアントの通信費請求書の分析業務が紹介されている。世界各地から届く100件以上の請求書を、プライベートLLM(外部に送信せず自社環境で運用するLLM)を使って数百〜数千行の明細を処理し、単一フォーマットに統合する仕組みだ。
以前は数週間かかっていた作業が、現在は1日以内に完了するようになった。さらに外国語で記載された請求書も英訳した上で処理できるようになり、以前は「対応不可」として除外していた外貨換算も自動化された。
このユースケースはIT部門が主導したものではなく、ビジネス部門の現場課題からボトムアップで発掘されたものだ。IT部門起点ではなくビジネス課題起点でAIを活用するこうしたアプローチは、MLOpsの文脈でも「ビジネス価値の早期検証」として重視されている考え方と一致する。
専任化の落とし穴:サイロ化による情報断絶
専任チーム化にはデメリットもある。Begley氏は情報の分断を課題として挙げる。
One challenge has been keeping everybody abreast of what's happening, because they are siloed.
全員を最新状況に追いつかせることが難しい。チームがサイロ化しているためだ。
AI enablementチームが独自に高速で動き続けると、組織の他のメンバーが全体像を把握できなくなる。不完全な情報が一人歩きし、誤った方向に進みかねない。
「全組織に専任チームが必要か」への回答
Begley氏の答えは明快だ。LLMのチャット機能程度であれば、通常のIT部門が標準的なユーザー採用のプロセスで対応できる。専任チームが必要になるのは、より複雑なユースケース、特にエージェントや業務統合が絡む場合だ。
成果測定については、ROIへの直結にこだわりすぎず、通常のKPIレポートの中でチームへの正味プラス影響を確認している。「同じ人員でより多くをこなせているか」が現時点での指標だという。
詳細はWhy AI enablement teams shouldn't live within ITを参照していただきたい。




